教会の学校 その2
コンビニおもてなしを訪れた、教会のシスター兼幼少部学校の先生、エルフのシングリラン。
とりあえず店の奥にある応接間で、ブリリアンと2人で話を聞くことに。
本来なら、スアが一緒にって思ったんだけど
やっぱりまだ対人恐怖症がそこまでは良くなっていないらしく……
で、まぁ、
僕を女性と2人きりにもさせたくないらしく……
その折衷案として、自称スアの弟子・ブリリアンに白羽の矢がたったわけです。
「おまかせくださいスア様! このブリリアンが旦那様に悪い虫1つ寄せ付けませんよ!」
スアの依頼書を届けてきたアナザーボディを前に、高らかに宣言するブリリアン。
その姿はすごく格好良かったんだけど、
「つきましてはですね……例の弟子入りの件を、そろそろ正式に認めていただけたら、と……」
アナザーボディを前にして、今度は卑屈なまでにぺこぺこしていくブリリアン。
その姿をみるにつけ、なんかもう、色々がっかりだよ!
で、まぁ
こうして3人で応接室。
……まぁ、スアは魔法で聞いてるか、のぞいているとは思うけどね
そんな中、
シングリランの話によると
「なんかですね~、王都の教育指導要領が変更になったとかで~、その新指導要領に対応した指導書を買わないと学校をやってはいけないって言う法律が出来たそうねんですよ~
でも~、その指導書っていうのが、すっごく高くて~……」
シングリランは、涙目でそう言うと、
「そこでぇ、コンビニおもてなしさんで、この指導書を少しでも安く入手出来ないかなって思ったのですがぁ……」
う~ん……
シングリランの申し出に、僕は思わず頭を抱えてしまった。
何しろ、僕はこの世界に来て間がないわけで
この国の指導要領云々とか、指導書がかんぬんとか言われても、とんと検討がつかないわけです。
そもそも論として
この世界では書籍類は、どこから仕入れて良いかわからないので、コンビニおもてなしにそう言った物はまったく並んでいないわけです。
僕の話を聞いたシングリランは
「そうですかぁ……そうですよねぇ……」
なんか、見てて痛々しいほどに落ち込みながら
「仕方ないです~、どうにかお金を工面して、あの指導書を買えるように頑張ってみます~」
そう言いながら、シングリランが席を立とうとすると
なんか、スアのアナザーボディが室内に入ってきて、僕にスアからのメモを手渡した。
そこには
『指導書は王都から無料支給される品なので有料なのはおかしい』
は?
そうなの?ブリリアン?
「いや……私も初耳なのですが……」
僕がメモを見せると、ブリリアンもびっくりしたような顔をしていたんだけど
それを確認したスアのアナザーボディが「それぐらい知ってなさい」とばかりに、すさまじい勢いでブリリアンを殴り始めた。
……なんか、僕に殴りかかるときより、当社比1.5倍ぐらい威力がありそうで
「すいません! ごめんなさい! このブリリアン、一生の不覚です、あぁ!」
って、まぁ、なんかだんだん嬌声上げ始めた気がしないでもないんだけど、あえて無視して、僕はシングリランに向き直り、
「すぐ確認とりますので、その話はとりあえず引き延ばしてください」
そう告げた。
……でも待てよ……勢いそう言っちゃったけど、具体的に何をどうすればいいんだ?
困惑する僕を、
応接室に入ってきた、ブリリアンを折檻しているのとは別の、スアのアナザーボディが、僕の手を引き店の裏手へと連れて行きます。
すると
そこには、なんか魔法陣を展開しているスアがいまして
「行こう……」
って、僕の手を引き、その中へ
で
魔法陣を抜けると、そこは雪国……な、はずがあるはずもなく、
なんか、すっごい高層な建物がわんさと林立してる、見るからに都会な場所に出たんだけど……
スア、ここどこなの?
って、疑問系の僕の質問には答えることなく、ひたすら僕の手を引っ張ると、スアは近くにあった建物へ入っていきます。
なんか、入り口に「中央辺境局」とか書かれてたけど、何? その名前? はじめて聞くからさっぱりわからない。
で、よく見ると、スアは小柄な体を更に小さくしながら僕の手を引いている。
対人恐怖症のせいで、誰かに会うのを恐がりながらも、一生懸命僕を案内してるんだな、ってのが痛いほど伝わってくる。
途中、
建物の中から出てきた若い人にぶつかりかけたもんだから
「あ、ちょっとごめんなさいね、ちょっと急いでるんで」
そう、挨拶しながら、スアの進行方向を微調整した僕、
どうにかぶつからずに済んで安堵してたら、なんかスア、今度は壁に向かって一直線で
スア! せめて前は見て!
で、まぁ
その後、この中央辺境局の中にある
『辺境教育庁』へと足を運んだ僕達は、そこで、シングリランの話していた内容を伝えたところ
「……それは詐欺ですねぇ。
指導要領が変更になったのは確かです。
それを受けまして、この辺境局に届け出のある教育現場へは、その新指導要領に沿った指導書を無償配布する準備も進めているのですが、一部の地方で、この指導書の粗悪な偽物を高額で売りつけられたという苦情が、すでに何件か報告されておりまして……
そもそも、指導書が買えないから学校をやってはいけないなんてバカな法律が出来るわけないじゃないですか。正式に届け出られている学校が資金に困っているのでしたら逆に支援金を交付しているくらいですから」
うん……スアの考えが、まさにビンゴだったわけです。
僕らは
この話を受けて、その場で、シングリラン用の指導書を受け取り、すぐさま魔法陣をくぐってコンビニおもてなしへと戻りました。
……で、僕は結局どこへ行ってきたんだ?
と、思い悩んでいる僕の袖を引っ張るスア。
「犯人……捕まえないと……」
あぁ、そうだよな……教育現場を食い物にするのって、なんか許せないし
僕が応接室に戻ると
スアのアナザーボディにぼこぼこにされた後らしく、結構傷だらけになっているブリリアン……妙にその顔を赤くてなんか嬉しそうにしてないか?、と、その姿をかなり引き気味な感じで見ているシングリランの姿があった。
僕がさっき聞いてきた内容を説明して指導書を手渡すと、
「ちょっとタクラさん……この指導書って、王都の中央辺境局でしか配布してないんですよ!? いつ、どうやって手に入れたのですか!?」
ってびっくりされたんですけど、
え? 何?
僕がさっき入った建物って、この国のど真ん中にあるとか行ってた、王都ってとこなのかい?
なんか、唖然としてしまいそうな僕だったんだけど
今は、シングリランに、この指導書の粗悪品を売りつけようとしてる詐欺師を捕まえるための相談をしないと。
そう思い、シングリランに話を聞いてみると
「明日の朝、お金を取りに来るお話になっていましてぇ……その時お金がなくて、この指導書を買えなかったら、教室を、教会ごと取り壊すって言ってたんですよぉ」
そう言いながら、また涙目になるシングリラン。
とはいえ
教会ごと取り壊しにくる気満々ってことは、結構な数の手下を引き連れてくる可能性も高そうだな。
腕組みしながら、僕はあれこれ考え始めたわけで……
◇◇
翌朝
教会の前でシングリランが掃除をしていると、例の自称王都教育委員会の面々がやってきた。
2人は、見るからにうさんくさそうな紫の礼服に身を包んでいて……って、紫ってすごいな……シングリランを左右から囲むようにして威圧していき
「先生? お金は出来ましたかぁ?」
「指導書、今日こそ買ってくださいよぉ」
そう言いながら、
両手をポケットに突っ込み
足をがに股に
腰をかがめながら、シングリランの顔をのぞき込むという
三流やくざ映画で、チンピラがいちゃもんつけるときによくやりそうな格好で、シングリランに迫っていく。
なんか、この世界でもこういうときは、ああいうやり方をするんだなぁ、って、妙な感動を受けながら、 とりえず僕は、教会の中から姿を出して、シングリランの方へと歩いて行った。
僕の姿に気づいた紫スーツの2人は
「あん? なんだお前?」
「あんたが金を払ってくれるのかい?」
そう言いながら、肩をいからせながら、今度は僕に向かって歩いてきた。
ここで、
「しらばっくれんじゃねぇ、お前らの悪事はな、すでにまるっとお見通しだ!」
と、格好良く言えればいいんだけど
迫ってくる2人を前にして、僕は
……言葉がまったくでません!?
ヘロヘロヒーロー現場到着
加害者見るなり涙目だけど……
「そこまででござる、悪党共」
そんな僕にかわって、腰に刀をさげたイエロが教会の後方から颯爽と登場。
「貴様らの悪事は、そこのご主人殿によって、すでにまるっとお見通しでござる!」
なんか、
僕が言いたかった台詞を全部言ってるイエロなんだけど
いいぞもっとやって!
そんなこんなで、そいつらと対峙したわけです、はい