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教会の学校 その1

 ゴルアとメルアが辺境駐屯地に帰ったため、イエロは一人で狩りに行っていたんですが、
 いつの間にか、その狩猟1人度に、同行者が増えていました。

「今日も結構な大物が狩れたキ」
 そんな話をしていたからか、ちょうどイエロと、彼女の最近のパートナーが帰宅したようです

 僕が店の裏に顔を出すと

 そこには、巨大なコブイノシシ2体を前にした

 イエロと、元猿人盗賊団のボス・セーテンの姿がありました。

 セーテンは、盗賊団を解散後、街の衛兵的な立ち位置で、街中の警邏や、街周辺の哨戒なんかをしてくれてたんだけど
 やっぱ、それだけじゃあ退屈したらしく

 ある日、イエロが狩猟するために街の外に向かっていったのを見つけたセーテンが

「狩猟って楽しいキ?」
 そう聞いたのが始まりだったらしい。

「論より証拠でござる。まぁ、一度やってみるでござるよ」
 そう言い、イエロから小刀を貰ったセーテンは、一路狩りへと出向いていき。

 そっから
 あっという間に意気投合した2人
 今では

「うむ、セーテンの、そろそろ捌くとするでござる」
 と、イエロが呼べば
「了解キ、ダーリンのために頑張って捌くキ」
 と、セーテンが呼ぶ

 なんか、長年相棒を組んでるかのように行息があっているわけです。

 なお
 僕がスアと結婚したため
 セーテンが僕のベッドに忍び込んで
「あっためておきましたキ」

 って言いながら、無理矢理僕との既成事実を作ろうとしていたのも、今では懐かしい思い出です。

 いや、だからスアさん。
 全部未遂だったから!
 一度として、僕はセーテンとはいたしてないから
 だから、僕の周囲に炎の槍を展開させるのは勘弁してってば!


 2人は、獲物を狩ってくると、いつも店の裏手の土手に降りていき
 そこで、川で血抜きとかしながら獲物の肉を捌いていきます。

 あまり細かく書くとグロいのであれですが
 2人とも、そういった作業には非常に詳しいようで
「今日のあのあたりは、そろそろ獲物が少なくなってきたでゴザルな」
「なら、峠の脇の谷間を攻めるキ」
 などと、互いに雑談しながら楽しそうに捌いています。

 で

 さばき終わった肉を2人は大きな強化袋に入れて
「ご主人殿、さ、今日の収穫でござる」
 そう言いながら、肉を渡してくれます。

 毎日結構な量を収穫してくれる2人なんだけど
 最近は、ウチの店以外にも、周辺の飲食店にも肉を卸しているので

 在庫が残りすぎて、泣く泣く処分……なんてことは起きていないわけです。

 ……しかしまぁ
 元の世界にいたときには、こんな巨大な冷凍庫なんて買っちゃって、俺、何考えてんだ……って、購入した当初は、購入を決めた僕自身が腕組みして考え込んでたんだけど、

 今では、そんな大きな冷凍庫も
 常に肉で満載なわけです。

 自家発電用の太陽光発電のおかげで、この冷凍庫も稼働出来てるわけで……なんて言うのかな……ホント何が幸いするかわかったもんじゃないな、と、つくづく実感することしきりなわけです、はい。


 そんな肉を使用した弁当は、すでにコンビニおもてなしの名物となっており
 猿人四人娘が中心になって作成しているパン
 向かいの工房で作って貰ってるオセロゲーム
 スアの薬と並んで、
 お客様のお求め度四天王の一角にドッカと君臨しています。

 ヤルメキスのカップケーキも、なかなかな売り上げを見せてはいるんだけど
 いかんせん、ヤルメキスの経験不足が、思い切り影響しちゃってて……まぁ、長い目で見てあげながら、待つしかないだろう。

 オセロの人気も相変わらずです。

 普通、こういうゲームって、1回購入すれば、当分使用出来るもんですし、
 売り上げもすぐ安定すると思ったんだけど、

 なんか、ガタコンベ周辺の街へも、このオセロの人気が口コミで広がっているらしく
 毎日のように、店の新規をお客様を呼び寄せてくれていたりします。

 このオセロは、組合の方でも独占委託販売を行って貰ってるんだけど
 こちらの売り上げもかなりの物らしく、組合の蟻人達が、なんかもうすれ違う度に、今にも土下座せん勢いで、挨拶してくるわけです、はい……

 
 コンビニおもてなしの営業は、基本日が暮れてから1刻程度で
 夜間営業はしていない。

 元の世界でも、深夜や未明のお客様は少ないけど
 この。僕が今住んでいる世界では更に少ない……というか、夜、出歩く人がまずいないのです。

 以前、
 試験的に24時間営業したことが数回あるんだけど

 その全ての試験営業で、客として店に来たのが、警邏中の、街の衛兵だけという結果に終わってたわけです。

 元々、蛍光管を今後仕入れることが出来ないため
 在庫を少しでも長くもたせるように、との配慮もあるわけです、はい。

 まぁでも、この蛍光灯に関しては
 いざとなれば、この世界の魔法灯に全て入れ替えても、それなりにはいけそう、と、いうか
 まぁ、スアの作る魔法灯の出来がすごくいいので、目処が立ってるわけですはい。

 スア曰く
「この、ケイコー灯?……の、仕組み……カガク?……面白い」
 だそうで、その仕組みを組み込んだ魔法灯なのだそうだ。
 うまくすれば、これも店で販売出来るかも、とも思ってて
 今は、スアが、向かいの工房のルアの店で量産生産出来るように、簡易化に取り組んでる最中です。

 で

 我が家……と、いいますか、

 僕とスアですが
 子供のサラマンダー・パラナミオを家族に加えて、仲良くやっています。

 今は、家族みんなで、スアの巨木の家で暮らしているわけですけど
 夜は、みんなで一緒に1つのベッドで寝ています。

 ただ
 夫婦の営みの際には、ちょっとベッドを離れることもあるんですけど
 先日、その最中に起き出して来たパラナミオが、
「パパ……ママ……」
 って、探しながら、居間のソファでいたしていた僕らのとこにやってきたことがあったり、で……

 最近のパラナミオの口癖の1つに
「ママ、パパの上に乗っかるのって楽しいの?」
 って言ったり

 時折、パラナミオが、僕の上に乗っかって、跳ね回ろうとしたり、と……

 いえ、まぁ
 深く語ると、横で真っ赤になって顔を覆っているスアが、暴発しそうなので語りませんが、

 世の、小さなお子様をお持ちのパパママに、ぜひとも秘伝を伝授願いたい、と
 心の底から思っています。
 結構切実です。

 そんなパラナミオなんですが、

 組合のエレエに
「これくらいの子供が通うような学校なんてないの?」
 って話をしたところ
「中央広場の端に、学校があるのですです」
 とのことだった。

 ……はて?

 あそこは、以前、屋台で出店販売したことがあるけど、学校なんてあったっけ?
 
 なんて思いながら、店が閉店してから、スアとパラナミオを連れて行ってみると
 
 ……はて?……それっぽい建物が見当たらない……

 しばらく3人で周辺を見回ってみたんだけど、教会くらいしか見つからないわけです。

 で

 ちょうど教会の庭を、シスターが掃き掃除していたので
「すいません、この辺りに学校があるって聞いて見学に来たんですけど……」
 そう伝えると、その司祭さん、ニッコリ笑って
「あぁ、それでしたら、ウチのことですよ~」
 って、

 え?

 でもここ、教会じゃないの?
「はいそうです~、教会を兼ねた学校なんです~」
 とのことだった。

 で

「よかったら見ていかれますか~?」
 って、声を掛けてくれたので、3人で見学させて貰う事にした。

 教会の中は、こじんまりとしていて、そんなには広くない。
 祭壇みたいなのと、祈りを捧げる人の席が並んだ部屋が1つあり
 その2階部分が教室になっていた。
「お子様くらいの年齢の亜人のお子様がぁ5人ほど通ってるんですよ~」 
 とのことだった。

 で
 もっと話を聞いてみると
 ここは、いわゆる幼少期の子供に勉強を教える学校らしく
 読み/書き/計算の三教科をしっかりおそえているのだそうだ。

 で、中高部になると、この街にはその施設がないため、
 この辺境地域で、一番大きな都市、ブラコンベの中高部のある学校へ通学することになるのだという。

 ちなみに、
 このシスターが、教員を兼ねているそうで
「エルフのシングリランと申します~、以後お見知りおきを~」
 そう言って、ニッコリ笑った。

 その夜
 家に帰り、夕飯を食べてる最中に
「パラナミオ、学校はどう思った? 行きたいかい?」
 そう聞いていると、
 なんか、腕組みして考え込んでる……あれ? 反応悪い?
「私は、パパとママと一緒にいたいのです」
 そう言いながら、隣の僕にギュッと抱きついて離れなくなりました。

 あぁ、それもそうだよな
 右も左もわからないうちに、山賊にさらわれて、僕とスアと一緒に暮らすようになるまで、ずっと虐げられてたわけだし……

 とりあえず
 学校のことは保留にして、パラナミオには、今までどおり店の掃除を手伝ってもらうことにしました。

 で
 そう決めたその翌日
「こんにちは~」
 って、例のシスター、シングリランが店を尋ねてきました。
 最初は、買い物? って思ったんだけど……なんか、シングリラン、妙に困った顔をしてまして、
「あの~、昨日の今日のお知り合いの方にこんなお話をするのは、大変失礼だというのは百も承知なのですが~どうかお力を貸していただけないでしょうか~?」

 って

 ……なんか、嫌な予感しかしないんですけど……

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