「子供……名前、どうする?」
コンビニおもてなしは、
元いた世界では24時間365日休むことなく営業していた。
で
この世界にやってきてからのコンビニおもてなしは
朝7時頃開店し夕方6時頃前後に閉店している。
月に2回、定休日も設けている。
夜間営業をしていないのには2つ理由があって
1つは、開店しててもお客がそう多くないこと
周囲を危険な獣類が跋扈している森に囲まれているここガタコンベの街は、その周囲を高い壁で覆われており、出入りする門も、日暮れで閉まってしまいます。
そのため、街中の人通りが一気に減ってしまい、それこそ飲み屋くらいしかそれなりに人が集まってる場所がないわけで、試しに数回深夜営業もしてみたんだけど、ほとんどお客さんがこなかったわけで……
もう1つは蛍光灯の節約
とても明るく店内を照らしてくれる蛍光灯だけど、在庫が無尽蔵にあるわけではない。
なるべく大事に使っていかないといけないわけで、店内にはスア製の魔法ランプを設置し、少しでも蛍光灯を使用しなくてすむようにあれこれ工夫もこらしています。
まぁ、どっちにしても、いつかは蛍光灯の在庫がなくなって、全部を魔法ランプに交換しなくちゃならなくなるのは、間違いないわけだし、この交換作業も、ゆっくり始めているわけです。
で
休みを設けてるのも、この世界にあれこれ順応するためなわけです。
市場から仕入れた珍しい野菜や果物を使って、新しい店の売り物が出来ないかどうか試作してみたり、
新しい商品が作れないかどうか考えてみたり
周囲の街へ、視察に行ってみたり、と
まぁ、この世界に適応した新商品の開発作業と、この世界の情報収集にあててるわけです、はい。
で
ながい前置きがここまでなわけで
そんな貴重な定休日の今日。
僕はスアと薬草採取にでかけています。
なんか、【店に女の子を増やしすぎだ】とかで、すっごく不機嫌になったスア。
その不機嫌を解消してもらうためのおでかけだったわけですけど、
スアさん
出で立ちが白いワンピ
しかもほんのりお化粧までしてるし……
薬草を採取するための服装にしてはアレだよなぁ……と思いつつも、
似合ってる
……うん、可愛い
「今日のスアの格好……」
「……お、おか……しい……かな?」
「薬草採取にはアレだと思うけどさ……すごく似合ってる、うん」
とりあえず、ドストレートに伝えて見たところ、
スアさん、真っ赤になってうつむいて、なんか、僕の背中に「の」の字かいてるんすけど……
だからなんなの、このクソ可愛い生き物は!
おもてなし1号で、城壁の向こう、少し離れた場所にある切り立った山麓まで移動。
「……ここ、変わった……薬草……多い……の」
スア、そう言いながら、のたのたもたもたしながら山に向かっていく。
ってか、どう見てもそのサンダルはないでしょうに……
どう見ても山歩きに不向きな、そのお出かけ用サンダル。
しかも、お出かけ用にワンピ
で、僕は無言でスアをおんぶして山の奥へ
「その格好じゃあ動きにくいでしょ、指示してくれたら僕がとってあげるから」
僕の言葉に、無言でコクコク頷くスア
なんかさぁ、いつもこう素直だといいんだけどねぇ……って、なんでここで後頭部をつねるかなぁ。
で、まぁ、小一時間
スアの指示で、山麓をあちこち動き回って、結構な数の薬草をゲットした。
僕にはそういう知識が皆無なので、さっぱり価値とかわかんないんだけど、
スア曰く
「……店で……売ってる、一番……高い飲み……薬の材料……いっぱいだ……よ」
よし
スア、もういっちょ頑張ろう!
僕、いっくらでも手伝っちゃうよ!
とまぁ
内心ホクホクしながら、さらに小一時間。
いくら小柄で軽いスアとはいえ、
体力の腕力も平均以下の僕では、これ以上は無理ってな感じになるまで頑張った。
結果
森の奥で動けなくなったわけで……ぜぇぜぇ……
普通なら
ここでこのまま野宿とかして、なんかいい雰囲気になっちゃったりとかイベント的な物があるのかもしれないけど
はい
スアの回復魔法で即座に元気になった僕は、スアを背負ったままおもてなし1号のある山麓まで再び歩き出しましたとさ。
元の世界にいた頃は
こういった異世界だの、魔法だのっての、あったらスゴイよなぁ、そんな世界に行ってみたいよなぁ
って、結構マジで思ってた頃もあったけど、
実際来て、見て、接してみると……なんか、普通に馴染んじゃうもんなんだなぁ……ってのが実感です。
元の世界に戻る方法がわからない以上、ここで頑張って生きていくしかないし。
「……リョウイチは……元の……世界……に……戻りたい……の?」
不意に、スアがそう聞いてきた。
……そう、改めて聞かれると、不思議と迷いがなかった。
「そうだね……戻りたくはないかな。この世界のことを気に入っているしね」
それに、だ。
今でこそ大盛況なコンビニおもてなしだけどさ
元の世界に戻ったら、確実に閑古鳥だ……即時閉店の危機だ……
うん、その事もよくわかってるわけです、はい。
僕の言葉を聞いたスア、
気のせいか、少し安堵したというか、嬉しそうというか、僕の背中にピタッと頬を寄せてスリスリしてくる。
「汗かいてるから、気持ち悪いでしょ?」
苦笑しながら言う僕に、スアは
「……別に……リョウイチの背中、好き……」
そう言って、再び僕の背中にピタってすり寄った。
……え~、スアさん
彼女いない歴イコール年齢の僕に、そういう不用意は発言は慎んでもらえませんかね?
【好き】とかいう単語が飛び出すと、なんかそこだけ拡大解釈しちゃいそうじゃない。
「……好き」
いや、だからね、スアさん
「……好き」
だからスアさんってば
肩越しに振り向いた僕の唇に、スアの唇が重なっていた。
って
え?
呆けてる僕の顔を、両手で抱き寄せながら、スアはもう一回僕に口づけた。
「……はじめての……好き……の……キス」
スアは、そう言うと、恥ずかしそうに僕の背中で小さくなってしまった。
えっと
その
こ、こういうときって、どうすればいいんだ?
恋愛経験皆無な僕にとって、未知との遭遇に中なわけなんだけど……
ただ、これだけは伝えておかないと、そう思った。
「僕も、スアと一緒にいたい」
その言葉を聞いたスア。
気のせいか、僕の背中で安堵したように、大きく息を吐いた。
背中にいるため、その表情まではわからないけど
殴られたり、つねられたりしてないところを見ると、嫌とは思われてない……はずだ。
と、まぁ
ちょっとありながらも、おもてなし1号の所まで戻った僕とスア
僕の背からなかなか降りようとしなかったスアなんだけど、
実際に降ろしてみて、その理由がよくわかった。
スア
いまだに真っ赤な顔……っていうか、その上半身のほとんどを赤くしたまま、うつむいてる。
もともと色白なスアだけに、赤くなってるのがすっごく強調されちゃってて……
でも
そんなスアも可愛いとおもってしまうというか、何なのさ、この可愛い生き物は!?
で、スア。
モジモジしながら僕に近寄って、耳元に
「子供……名前、どうする?」
……え~、スアさん
まさかとは思うけど、一応伝えておくけど
「……キスで子供は出来ないよ?」
スアさん
この一言で、なんかすっごい顔してびっくりしてる。
なんかその頭の後ろあたりに『が~ん!』ってな、でっかい飾り文字とかが視覚化しそうなほどだよ、まったく。
「じゃあ……どうやったら……出来る……の?」
「え? い、いや、その……ど、どう説明したらいいのかな……」
「……それは……あれ? リョウイチが、ときどき……こっそり……見てる、ベッドの……下の……本が関係……して……る?」
……
……スアさん……なんでピンポイントで指定出来るのかな?
僕は、滝のような汗を流しながら、
帰宅したら、秘蔵の品々を焼却処分することを心に決めた……かなり残念ではあるが……