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クレーマーな女とぷぅっ!っな女

 この日、
 僕は再び組合事務所に出向いていた。
 そこにはすでに商店街の皆も集まっていた。

 こうして
『第2回 猿人盗賊団をどうしよう会議』が始まった。

 先日逮捕された猿人盗賊団の面々。
 その中で、料理が出来た4人は僕の店で引き取ったんだけど

 それでもまだあと43人いるわけで、これにボスだったセーテンを加えると44人。
 いまだその身の振り方が未定のままのこいつらをどうするか、の会議なわけである。

 まず
「鍛冶仕事に興味あるやつはいるかい?」
 元武器屋で、現鉄鋼作業所の猫人ルアの言葉に、6人ほどの猿人達が手をあげた。

 この者達はその場でルアの作業所に配置されることが決まった。

 ルアも、最近店を作業所に改築したのはいいものの人手不足に困っていただけに、まさに渡りに船となった。

 僕としては、接客が出来る人材がいればと思ったのだが
 そう言った人材は、他の店からも要望があがったため、そちらへ譲ることにした。
 すでに4人、要望通りの人材をまわしてもらってるわけだしね。
 
 何人かが荷物運びなどで店に配属されていったのだが、それでも20人残ってしまった。

 その後の話合いの結果
 その者達は、組合とズアーズ市場の一員として働きながら、街の自警団として活動することになった。
 セーテンもここに組み込まれるはずだったのだが
「ダーリンの店専用の警備員以外選択肢はないキ」
 そう言ってまったく譲らないセーテン。
 それを
「ここの警備員は間に合っているでござる!」
 鬼人(オーガピープル)・イエロが強面で拒否する。

 互いに一歩も引かずに壮絶なにらみ合いとなっり、事務所の中がマジ一色触発状態に……

 結果、妥協案として、セーテンには、僕の店がある地区の自警団長になってもらうことで落ちついた。

 ただし、
「これは譲れないキ」
 セーテンは自警団事務所兼自宅として僕の部屋への同居を希望した。

 その途端
 どこからともなくスアのアナザーボディ4体が乱入してきて、セーテンをぽかぽか殴り始める
「痛くはないけど鬱陶しいキ!」
 
 僕としても同居は困るので
 妥協案として、店の裏手小屋を作ることになった。
 作業には、猿人盗賊団で手の空いた者達が交代で作業することとなり、この会議の後、すぐに着工していたのだが
「出来上がるまでくらいはぁ、同居でいいキね」
 そう言って僕に抱きついてくるセーテンを、スアのアナザーボディが4体がかりでひっぺがしていったわけで……


 猿人盗賊団による自警団は想像以上の好結果を街にもたらしてくれた。
 この街の周辺には、猿人盗賊団以外にも、いくつかの盗賊団が存在していたのだけど、これらを猿人達が、うまく排除してくれており、街へやってくる隊商らの安全が確保され、感謝の声があちこちから上がっている。

 また、猛獣の出没情報なども逐一連絡してくれるため、冒険者や商人、森に出かける人々への注意喚起にも役立っている。
 そういった猛獣の出没地情報には、イエロと、その弟子 - 拙者は認めてないでござる! - の騎士・ゴルアとメルアが討伐に向かっており、その驚異を排除してくれている。

 ……もっとも、いまだにゴルアとメルアは猛獣相手では歯が立たないらしく、イエロの独壇場らしい。

「さっきのお姉様の太刀さばき、もう最高でした」
「思い出しただけで、胸の辺りがこう、ジュワっと」
 2人とも、イエロの有志を思い出して百合百合しい会話を交わす時間があったら、もっと修行しないと、マジでイエロに見捨てられるよ、ホントにもう……

 とまぁ

 異世界の辺境都市ガタコンベに、移転して早くも1カ月が経とうとしている。
 とはいえ、なんで異世界に飛ばされたのかはまったくわからないだけに、どうやったら元の世界に戻れるかもさっぱり見当がつかないため、とりあえず、この世界でのコンビニ経営を頑張り続けている、僕、田倉良一なわけです。

 店の方は、
 新しく加わった猿人料理人4人組の奮闘もあって、かなり好調になってます。
 食べ物以外に、スアの薬品類が加わった事で品揃えもどうにか見栄え良くなってきており、僕としても安堵しきりである。

 特に弁当とスアの薬はかなり好評で
 近隣の村や集落の人達が泊まりがけで買いに来たりしています。

 しかも
 周囲の安全を猿人達が確保してくれるようになったこともあり
 以前より街を訪れる人々の数が目に見えて増えているのだそうだ。 

 僕の店も

 この街も

 互いにいい感じで好調っていうのは、なんか気持ちがいい。
 こういうときに限って、なんか起きそうな気がしないでもないんだけど

 ……なんて思ってたら 

「こちらのお店ですね?怪しげな薬品を販売しているというのは」
 ほら来たよ、トラブルメーカー1名様ご来店だ……

 いきなり店内に入店して大声をあげた女。
 なんでも、隣街で医者をやっているクレリックのブリリアンというらしい。

 
 この辺境の都市群では、医療行為を行える人材は少ない。
 すべての街に医者がいるわけではなく、いくつかの街の中に1人いれば儲けものといった具合である。
 当然、このガタコンベにも医者はおらず、この隣の街のブリリアンの病院へ皆わざわざ出向いていたのである。
 
 で、そんなブリリアンさんが一体何のご用時ですかね?

「どうしたもこうしたもありません!」
 怒り心頭な様子のブリリアンの話によると、
 最近、ガタコンベから治療にやってくる人の数がめっきり減ったらしい。
 そのため、どうしたのだろうと思い調べたところ、コンビニおもてなしで販売している薬がとても効くため、わざわざブリリアンの病院にまで行かなくてもよくなった。ということが判明。

「だいたいですね、こんな聞いたこともない店の薬がまともなはずがありません!
 何かのまがい物でインチキしているのでしょう!? えぇそうに決まっているわ!」

 おいおい、いきなりやってきて随分な物言いだな、と思ったんだけど
 ブリリアンによると、
 この世界で薬を作成するには、薬学の博士号が必用とされ薬学の博士号を持つ魔法使いともなれば、それなりに名前が知られているのが当たり前なのだという。

 薬学の博士号が必用なのは、以前聞いて知ってたけど、
 あれってそんなに取得するのが大変なものだったんだ。

 ……どっかの誰かさんは、鍋敷きにしてたけどね

「こちらのスアとか言われます魔法使いなど、私聞いたことがございません。
 大方ケガや病気を治ったと思いこませる詐欺薬でも販売しておられるのでしょう?」
 ずいぶんな言い分だなぁ、とは思いつつ、まぁ、スアの名前が一般に知られていないのは、ただ単に、極度対面恐怖症のせいでずっと引きこもってたからだとは思う。

 だが

 かなりむかついた。

「ウチのスアは、そんなことをする魔法使いではありません。僕が責任を持ちます」
 僕は、ブリリアンの前で腕組みするときっぱり言い切った。
 これは僕の本音である。

 スアは、どうしようもない引きこもりでこの上ない対人恐怖症だけど、嘘偽りを行う魔法使いじゃない。

 実際、僕自身も、スアの傷薬のおかげで結構ひどい打ち身があっという間に完治したし、
 スア作成の滋養強壮剤のおかげで元気回復朝からビンビ……すいません、自粛します。とにかく元気回復出来ているのを実感体感しているわけです。

 その僕の気迫に、ブリリアンも思わず後ずさりした。
 僕だってね、やるときゃやるんだよ!

 タテガミライオン相手なら即逃げるけどね!

「そこまで言われるのでしたら、その薬を見せていただきます!……どうせ結果はわかりきってますけどね」
 そう言いながら、ブリリアンは、店の棚に並んでいるスア製の薬品へと手を伸ばした。

 最初は、訝しそうな表情を隠そうともせずに、臭いをかいだり、口に含んでみたりしていたブリリアンなのだが、
「……う、嘘……なんで……」
 徐々にその顔に、驚愕の色が浮かび、滝のような汗がその額を伝っていく。
「この薬……わ、私が生成したものよりも何倍も純度が高くて、高品質……あ、ありえない……」
 ブリリアンは真っ青になり、体中をガタガタ震わせていた。
「そ、そんな……、わ、私は……王都の学校で何年も勉強して……伝説の魔法使いの薬学書を参考に鍛錬してきたというのに……」
 そう言いながら、カバンの中から古い書物を取り出し、それを見つめていた。
 その時、ブリリアンの様子を店の従業員出入り口の影からのぞき込んでいたスアが、その書物を指さし、そして言った。

「……その本……私が……百年くらい前に書いたやつ……」

 その言葉に、僕とブリリアンっは目を見開き
 慌てて本の表紙を確認していく。
 
『薬の作成方法とその利用方法 ステル・アム著』
「嘘を言うな! この本は伝説の魔法使い、ステル。アム様の著作で間違いないではないか、お前のようなスアという名前の者の著作ではないわ」
 そう言い放つブリリアン。
 僕は、その肩をポンポンと叩くと
「……あのさ、スアはあだ名みたいなもんでな……スアは本名、ステル・アムって言うんだ、ホントだよ」 

 僕の言葉を聞いたブリリアンが、その場で硬直したのは、まぁ言うまでもなかったわけで……

「ま……まさか……あ、あなた様が、まごう事なき、あの伝説の魔法使い……ステル・アム様……」
 ブリリアンは、その場で土下座すると
「し、知らぬこととはいえ、この狼藉、ひ、平にご容赦くださいませ~」
 そう言い、何度も頭を床にこすりつけていった。

 そんなブリリアンの向こうで、
 スアは、僕に向かって親指をグッと立てていた。

……まさか……お前、ホントにすごい奴だったんだな

 僕の心の声を聞き取ったのか
 その場で絶壁の胸を張り、ドヤ顔をしていくスア。

 うん……色々台無しだ

***********

 その夜

 スアが僕の部屋を尋ねてきた。

「……昼間、ありがと……うれしかった」
 あぁ、スアの事をかばったことか。
「本当の事をいっただけだし、当然のことじゃないか、それに……」
 僕は、スアの頭を撫でながら
「スアは僕の大事な……」

 ガタっ

 ここまで言ったとこで
 スア、顔を真っ赤にしながら逃げるように巨木の自室へと駆け戻って行ってしまった……

 僕の大事な店員の1人だし

 そう最後まで伝えられなかったけど……まぁ、また機会があったら伝えるとしようか

***********

 数日後
 ブリリアンはガタコンベに引越ししてきた。

 当然、
「師匠! どうか私に薬学の道をご教授くださいませ」
 と、まぁ、スアに弟子入りするために押しかけてきたわけなのですが……

 超絶対人恐怖症であるスアが、そう簡単に打ち解けてくれるはずもなく、天岩戸よろしく、店の裏の木の家の扉は、今まで以上に固く閉ざされてしまったわけで……
 
 とりあえず、
 ブリリアンは、スアの木の家のすぐ横に、小さい小屋を建てた。

……まぁこれは、セーテンの小屋を建ててた猿人達に頼んで作ってもらったわけなんだけどね。

 んで、そこに住み込み、コンビニおもてなしで働きながら、スアに弟子入り志願を続けていくことになったんだけど……

「……なんで、雇っちゃったの?……ねぇ?」
 スアから、すっごいジト目で抗議されたわけで……い、いやさ……接客できる人材は貴重だと思わない?
 そういう僕に、頬をぷぅっと膨らませて抗議し続けてくるスア。

 この姿を見て、スアを大魔法使いとわかれって方が難しくないか?

しおり