第五十二話 再会
「ねえ龍二あの子誰なの?」
「誰?」
綾香と絹子は焔と向かい合って座っている女の子について龍二に尋ねる。
「いや、俺もわかんないんだよ。焔は有名人の娘さんだって言ってたけど……」
「え!? 焔って有名人と知り合いだったの!?」
「焔君すごい……」
「俺、後で紹介してもらお」
3人でひそひそ盛り上がっている中、焔たちも2人話をしていた。
「まさか遠路はるばるこんなところまで訪れてくれるなんてな。正直驚いたよ」
「まだ直接ちゃんとしたお礼をしてなかったから。やっと学校生活も慣れてきて、ちょうどいいかなと思って。焔君、その節は本当にありがとうございました」
そう言って、咲は焔に深々と頭を下げた。焔は頭が上がるまでその姿をしっかりと見届けた。
「まあ、積もる話はゲームでもをしながら話そうぜ」
咲は花札を選んだ。2人は花札をしながら色々な話をした。レッドアイの今の現状、咲の学校生活のこと、今は児童養護施設で暮らしていること、その他にもたくさん。
「お父さん良かったよな。23年で出てこれるんだからさ」
「うん……でも、お父さんの23年……私のせいで奪っちゃった。私がいつまでもうじうじしているから」
「……後悔してるのか?」
「うん」
「ならその後悔全部自分の糧にして生きろ。それが今あんたが一番やらなきゃいけないことだ。今ここでまたうじうじしても何も変わらないんだからさ」
「……うん、そうだね。やっぱり会いに来てよかった」
「そうか?」
「お父さんが言ってたんだ。焔には直接会っとけって。絶対にお前の力になってくれるから」
「ハハ、えらく過大評価されたみたいだな。あ、こいこい」
「ム……やるわね。私もちょっと集中してやろ」
それから少し2人は黙って花札に集中していたが、そんな中、焔がおもむろに口を開いた。
「あの写真さ……良い写真だよな」
「あの写真って……私が送ったやつ?」
「そう」
「そんなに良い写真だった? 何か照れちゃうな」
「よく心が折れそうなときに見てる。初めてだったんだ。あんなに心の底から嬉しかったのは。だから俺もあんたには感謝してるんだ。それにレッドアイにも。あの人のおかげで俺の歯車は加速した。だから、俺はあんたら親子にはとても感謝してる。ありがとう」
その言葉を聞いた咲は素っ頓狂な顔を浮かべると、いきなり大笑いした。
「ハハハハハ!! こっちがお礼しに来たのにまさか逆にお礼されるなんて思わなかった。うん!! やっぱり会いに来てよかった」
「……俺も会えてよかった」
―――焔たちは花札を終え、教室を出て廊下で対面していた。
「はあ……まさか焔君があんなに花札得意だったなんて」
「まあ、昔お母さんとよくやってたから。もう帰んの?」
「うん!! 当初の目的は果たせたし。それにお父さんにこのこと早く伝えたいから」
「そうか。なら、いつか3人で飲もうぜって言っといてくれ」
「うん!!」
それから2人の間に少しの沈黙が訪れた。咲は少し名残惜しそうな顔をして焔を見つめる。そんな咲に焔は笑いかける。
「大丈夫だ。あんたにはあんたにしか歩めない道がある。こんな経験した女の子なんていないからな。ハハ」
そんな焔の言動に咲はクスっと笑ってしまう。
(そんなに私不安そうな顔してたかな。そういう顔したつもりじゃなかったんだけどな。しっかりしてるんだか、抜けてんだか)
「……それじゃあね」
「ああ」
咲は別れを言い、焔から後ろを向いて歩き始めたが、急に立ち止まった。不思議そうに見つめる焔にもう一度振り向き、走り寄る。そのまま咲は焔に抱きつく。
困惑する焔に咲は耳元でささやく。
「ありがとう。私の……私たちの小さなヒーローさん……チュ」
咲は焔のほっぺにキスをすると笑顔で走って行った。
「じゃあね!!」
そんな咲の後ろ姿を放心状態で焔はただただ見ていた。
ハハ、咲はやっぱりレッドアイの娘だわ。あんたら親子のやることはいつも大胆だ。
その後、焔は遠くなる後姿を最後まで見つめていた。そして、その焔を教室から睨みつける者が2名。
嫉妬と怒りで今にも咲に襲い掛かろうとしている綾香と、無言の圧力を放っている絹子。そして、その2名を抑える龍二。
(ハハハ、焔こっちのことも考えてくれよ。まったく……うらやましいやつめ!!)
龍二は恨めしそうな表情を浮かべていた。
―――それからしばらくして俺たちは休憩を貰った。そして、龍二、綾香、絹子と色々と回ることにした。
「焔、どこから行くよ?」
「そうだな……明日はけっこう忙しいから取り敢えず全部回っときたいんだよな」
「オッケー。それならまずは校内から先に回るか。2人もそれでいいか?」
「いいよー!」
「わかった」
それから俺たちは一先ず校内をぐるっと回った。いつもは閑散としていた校内も活気に溢れていた。メイド喫茶、お化け屋敷、縁日などなど面白い出し物がたくさんあった。銀ちゃんのクラスでは縁日をやっていた。かなりレベルが高くて色々な遊びがあって結構楽しかった。
銀ちゃんは……着ぐるみを着せられ外に立たされていた。クラスのやつらに聞いたら、文化祭の準備を全くしなかった報いだそうだ。
どんよりした空気の中、子供たちにキャッキャ言われていてた銀ちゃんをそっとカメラに収めた。後で銀ちゃんに送ってやろう。
ひとしきり回った俺たちは今度は外に出て出店を回った。こっちもこっちでたくさんの人がいた。やけ食いをしている会長にあたふたしている副会長も見かけたが、敢えて見て見ぬふりをした。
龍二は片っ端らから全部の食べ物を食べようとしていて、綾香と絹子も目新しいスイーツを見て興奮していた。俺も大いに楽しんだ。このメンツとは夏祭りも一緒に回ったっけ。たった2か月前ぐらいのことだったが、心なしか前よりも会話が増えたような気がする。
……フッ。
焔は皆のはしゃいでる姿を見て1人自然と笑顔になる。
やっぱり俺……他人の喜んでる姿が好きなんだな。なんだかんだめんどくさがりながらも。
この笑顔を俺が守れるようになるかもしれない……未だに実感はないけど。もしそうなったら……いいな。
「お前……焔か!?」
後ろから焔は唐突に呼び止められる。どこか聞き覚えのある声に誰だろうと思い、振り返る焔。だが、焔はその光景に目を疑った。
「お前……冬馬……なのか!?」
そこには面影のある顔があった。だが、焔は全く記憶になかった。
冬馬が車いすに座っていることなんて。