第五十一話 意外な来訪者
忙しい日々は過ぎ去り、いよいよお楽しみの文化祭。文化祭は2日ある。俺が頑張るイベントは2日目だ。
1日目の午前中は体育館でダンス部や軽音部、演劇部、舞台で発表をするクラスなど様々な催し物が開かれる。
まずは会長からの挨拶から始まった……が、ほとんど副会長との漫才だったな。
良い掴みだったと思うよ。本当に。
それからも結構盛り上がって午前の部を終了した。そして、昼からはいよいよ本格的な文化祭がスタートする。俺たち生徒は各々のクラスの出し物の最終準備を行っていた。俺たちも衣装に着替え、最後に教室をセットをした。
「お! 中々似合ってるじゃねえか焔」
作業をしている焔の方に龍二がニヤニヤしながら近づいてきた。
「お前はちょっときつそうだな」
「そうなんだよ。これちょっときついんだよ……って、それは余計だ」
「フッ……それにしても皆浮かれてるな」
「そりゃそうだろ。こんなに楽しみな文化祭は初めてだからな。会長の企画のおかげで地元の人たちや中学生までも来るんだからな。こりゃいつもより忙しくなりそうだ」
そんなことを言っている龍二だったが、全然苦の表情はしていなかった。
「そうだな」
「そんじゃ、俺は机でも運んでくるわ」
そんな龍二と入れ違いに綾香と絹子が現れた。
「どう焔? この衣装カッコいいよね!?」
「おー。けっこう様になってるんじゃないか」
「本当に!? 良かった」
嬉しがっている綾香の後ろで絹子が少し照れ臭そうに焔の方をチラチラ見ていた。その視線に気づいた焔は絹子にも一言述べる。
「絹子も似合ってるぞ」
少しドキッとしたかと思うと小さな声で絹子は、
「……ありがとう」
と照れ笑いをした。そんな絹子の様子を見た綾香は焦りの表情を浮かべ、急に絹子を連れて焔の元を離れる。
「わ、私たちも手伝いしなくちゃ! 絹ちゃん行くよ!」
「またね。焔君」
「ああ」
それからはクラスの皆で何とか準備を終えた。ひと段落着いたところに先生がやってきた。
「お! もう仕上がってんな。ご苦労ご苦労」
「あ! 先生もディーラーの服着てんじゃん!!」
「カッコいいよ!!」
「イケメンだよ!!」
「独身だよ!!」
「最後のやつは余計だぞー」
「ハハハハハ!!」
「はいはい。もうその辺にしろー」
そう言って、先生は手を叩き、その場を収める。
「ちょい男子、これ蛍光灯と変えてくれー。最後の仕上げだ」
俺たちは前に集められ、蛍光灯を変えた。そして、電気をつけてみると少し暗いなような、モダンな雰囲気のある灯りだった。
俺たちは一斉に歓声を上げた。
「すげー」
「大人っぽい……」
「なんかテンション上がるよな!!」
「ほんで……これでラスト!!」
先生は自前のステレオサウンドから音楽を流す。
「ジャズだ!! これで中々雰囲気出てきただろ」
クラスは更に興奮状態になる。俺も自然と顔がにやけていた。
「よし! まず始めは全員体制でいくが、慣れ始めたら休憩入れてくからそのつもりで! 2日間楽しんでいくぞー!!」
「オー!!」
それから俺たちは全員対応でカジノを回した。以外にもお客さんはたくさん来てくれた。高校の生徒はもちろんだが、中学生、地元の人たちまでも来てくれた。
これも会長のおかげだな。変な人だけど、頭は上がらない。その会長も俺たちのクラスに遊びに来てくれた。
「焔!! 勝負だ!!」
「いいですよ。何で勝負しますか?」
「ダーツだ!! こう見えても私はダーツは何回も経験してるんでな。絶対に負けないぞ―――」
俺の圧勝だった。正直、会長もけっこうな腕前だったが、俺はほとんど真ん中だった。納得いかなかった会長だったが、5回勝負するとしょんぼりしながら帰っていった。
「焔さん!! やりすぎですよ!! 1回ぐらい会長に勝たせてくれないと!!」
副会長が慌ただしく俺に詰め寄る。
「い、いやーごめんごめん。会長があまりにも上手かったもんでつい熱が入っちゃった」
「もう……あの後会長の機嫌直すの大変なんですよ!! 次からは気を付けてくださいね!!」
そう言って、副会長は走って行った。
あー……頑張れ副会長。次からは気を付けるよ。
次の俺への客は龍人だった。
「先生!! 遊びに来ましたよ!!」
龍人は友達を引き連れ遊びに来てくれたが……
「おい。先生って言うのは止めろって言っただろ」
「あ! すいません。じゃー……」
違う呼び名を考える龍人に他に変な呼び名で呼ばれるのはまずいと思い、先にしゃべりだす。
「焔でいい。というかこれ以外許さん」
「えー……わかりましたよ」
龍人は渋々納得してくれた。
「あの2人はお前の友だちか?」
焔は教室の中をキラキラした瞳で見物している2人に目を向け、龍人に問いかける。
「はい!!」
うん。いい返事だ。
「で、何で遊ぶ?」
「僕たちそんな詳しいことわかんないんで、簡単なババ抜きで良いです」
「わかった。そんじゃ……おーい絹子。お前も一緒にババ抜きするか?」
接客していた絹子だったが、笑顔で小さく一度うなずいた。
「よし。そんじゃ、用意しとくか。龍人は友達集めてこい」
焔はこう言ったが、龍人は焔の顔をジーっと見ていた。
「何だ? 俺の顔に何かついてるか?」
「いや、そういうわけではないんですけど……お姉ちゃんってあんまり感情出さないんですよ。お笑い番組とか面白い話しても特に笑わないし、怖い話しても特に怖がらないし。でも、焔さんの話をするときだけは少し笑顔になるんですよ。実際さっきも笑顔になりましたし。焔さん……お姉ちゃんとどういう関係なんですか?」
えー……どう? って聞かれても……
「前にも言ったと思うけど、絹子は俺の大切なクラスメイトだ。それ以上でもそれ以下でもないけど」
「へー(お姉ちゃん可哀そうだな。今の感じ見ると焔さんの言ってることは多分本当なんだろうな。お姉ちゃんは多分好きなのに。焔さんのこと)」
こんなことを龍人が考えている中、焔は……
絹子って怖いの大丈夫なんだ……と少し感心していた。
それから、焔たちはババ抜きをした。やはり、ババ抜きはとても盛り上がった。最後は姉弟対決になったが、龍人は絹子にババを取らせることができず、あっさりと負けてしまった。
「焔さん楽しかったです!! また明日来ますね!! それでは」
そう言って、3人は教室から笑顔で出て行った。
「ほんじゃあな」
焔と絹子は龍人たちを教室の外まで見送った。すると、絹子がおもむろに焔に話しかける。
「焔君ありがとう。焔君のおかげで龍人は今こうして笑顔でいられるんだよ。そして、私も」
「もうそのことはいいって。それに、俺はきっかけを作ったに過ぎない。今、こうして笑顔でいられるのはあいつ自身の力だ。あいつは強いやつだよ」
「うん。それでもありがとう」
「……どういたしまして。そういや、龍人が絹子は俺の話をするときだけ笑顔になるって言ってたな……何で?」
予期せぬ質問だったらしく、絹子はビックリして顔が徐々に赤くなっていく。その様子をまじまじと見る焔に耐えられなくなったのか顔を隠す。
「……秘密」
「またそれか。ま、良いけど。俺は嬉しいけどな。自分のことで笑顔になってもらえるのは悪い気分じゃないからな」
そう言って、教室に戻る焔をしり目に、絹子は本当に驚いたような表情をしてその場にうずくまってしまった。
そんなこんなで、俺たちもようやくカジノに慣れてきた時だった。龍二が俺の所にやってきた。
「おーい焔、お前にお客さんだ」
「お客さん? 銀ちゃんか?」
「違う違う。女の子なんだけどさ。すっげー美人!! 高校生っぽいけど、この辺りでは見たことないな」
「へー」
誰だろ? マジで知らないな。
「あと何か顔に傷跡みたいなのがあったな」
龍二の言葉に焔は耳を疑った。
顔に傷跡……おいおいマジかよ。まさか会えるなんてな。
「あー、なるほどね。わかったよ。サンキュー龍二」
「お、おい焔! いったい誰なんだよ!?」
「知らないのか? 世間を騒がせた有名人の娘さんだぞ」
「え? マジで!! その有名人って誰だよ!?」
「フッ……お前も会ったことあるぜ」
「え? 会ったことあるの……ちょっと待て、今思い出すから」
そんな龍二には目もくれず、焔は教室の外に向かった。外に出ると、1人の私服の女性が壁にもたれかかっていた。焔に気づいた女性は軽く会釈をし、焔たちは互いに向き合った。
「初めまして。青蓮寺焔と申します」
「こちらこそ初めまして。
そう言って、2人は笑顔で挨拶を終える。
一方、龍二はずーっと頭を悩ませていた。
「そもそも俺有名人に会ったことあるっけ?」