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「へえ。力をコントロールできないんだ」
 氷の中で少女の声が聞こえた。

「風が私の力?」

 いつ?何処でこの力を手に入れたんだろう?
 私は少し戸惑っていた。

「何?気づいてなかったの?」

 不思議そうに氷霊は問う。
 氷壁がパキパキと音を立てて崩れる。

「だって、こんな力知らない」

 呆然と私は自分の手を見つめていた。

「風はね。確か(とうる)の力だったと思うよ。
 随分前に消えたから良く覚えてないけど、科学者だったかなぁ?
 でも、いろんな仕事してたから違ってるかも」

 透・・・。センセの名前だ。懐かしい名前。

「センセが消えた?」
「うん。力が適合しなくて壊れちゃったの。
 だから、キヨに力を託したんだと思うよ」

 う~んと考えるように人差し指を口元にあて答える。

「・・・。あなた」
「ひ・れ・い。あなたなんて他人行儀だよ」

 氷霊が言い直した。
「氷霊は全てを知ってるの?」

「たぶん大体のことはね」

 くすくすと含み笑いをしながらちらっと私に目をやる。
「でもね~。これはヒレイの情報だから全部は教えてあげない」

 その瞳は悪戯を思いついた子供のように輝いていた。

「・・・」

 ムッとした。だって、こっちは訳も分からずに力を与えられて
 人を殺して、永遠に生きて・・・。
「こんなに苦労してるんだから、教えてくれてもいいじゃない」
 声を殺して、叫ばないように静かに言い切る。
 それに氷霊もたじろいだようだ。

「あ・・・。えーとね。全く教えない訳じゃないんだし」
 私は氷霊を見つめる。
「あのさ。そんなに睨まないでよ。怖いから」

「それで?何を教えてくれるの?」
 私は教えてくれるのが当たり前だと思っていた。
 だって私は何も知らないんだもの。
「キヨはね。永遠の命と選ばれた力をもつ7人に会わなきゃ行けない」

 静かに淡々と話す氷霊。
 さっきまでの子供じみた口調とは大違いだ。

「会って?どうすればいいの?」
「それはその時決めるんだよ」

 ニッコリと子供の笑顔で氷霊は続ける。
「私の場合は私を消せばいいの」
「ちょっと・・・。あなたも鬼炎と同じ・・・」
 そんな私の言葉に耳を傾けず、氷霊は私の頭を胸に抱く。
 あ・・・。

「ね?」

 鼓動が聞こえなかった。
「氷達は私を護ってくれる。でもね、もう身体は死んでるの。
 私に与えられた永遠の命は永遠の身体を与えられなかった」
 悲しそうに声のトーンを落とす。
「この身体が朽ちる事はないけど、生きているわけでもない」
 冷たかった身体。凍るような指先。動かない心臓。
「でも、私は力のコントロールが出来ないわ!!」
 叫ぶように私は言う。
 本当は人を消すのが嫌だったから・・・この力は使いたくないから。

「大丈夫。イメージすればいいの。それだけで炎はあなたに従うの」
 従う?本当に?コントロールできるの?

「いいの?」
 確かめるように私は聞く。

「あなたはこの世界を救いし者」

 少女とは思えない大人びた微笑み。

「だから、救って」

 私は目を閉じイメージする。
 氷霊が炎を纏い、天に昇る姿を。
 ふっと、辺りが光に覆われる。
 炎がイメージ通りに少女の小さな身体を包む。
 少女の瞳から氷の涙が一筋落ちた。

 それは地面に落下し、花のような形に変わる。
 綺麗・・・。
 純粋にそう思った。
 蒼い氷と赤い炎が舞う姿に。
 氷の涙が花開く姿に。

 ・・・。
 泣いていたのかもしれない。
 冷たい風が頬を撫でた。
 慰めるように。癒すように。




『あなたはこの世界を救いし者。
 選ばれた力を持つ者
 永遠の身体を持つ者
 永遠の命を持つ者
 望みを叶える者
 祈りを聞く者
 ・・・

 そして、7つの力を狩り集める者

 7人に出会ってキヨが成すことはきっと・・・』



 少女は知っていた。
 人より長く生きた経験と知恵で。
 この先、貴夜に何が起こるのか。
 貴夜が何をすべきなのか。
 それは予知という不確かな未来。

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