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第七話 ナイスセーブ

「おい焔! とうとう相手チームのお出ましだぜ(……と、もうわかりきっているか。しかし、こんな焔の表情見るのはひさしぶりだな。いつもやる気のない目をしているが……うん! いい目だ!)」


「じゃ、ここは任せるぞ、焔!」


 そう言って、龍二は相手グラウンドに向かっていく。


 龍二は……なるほど、あそこに向かうのか。
 完全に俺が止めることを信じてるな。
 他のやつらはこっちには向かっているが、走ってはいないな。
 ま、さしずめ蓮がどうせ入れられるから走っても無駄だなんて言ったんだろうが。
 相手チームも俺たちのチームと一緒にこっちに向かってきているな。


「おい、何か龍二ディフェンスしないで、こっちに向かってきてないか?」


「ハッハッハッハ、あいつサッカーのルール知らねーんじゃねーの。まーどうせ、あいつが守ったって何の役にも立たねーだろ」


―――「あー、絶対入れられちゃうじゃない」


「でも、蓮君がすぐ同点にしてくれるわよ」


「そーだよねー」


 女子が騒いでいる中、一人だけ焔を笑顔で見つめている人物がいた。


(あんなにやる気になっている焔を見るのひさしぶり。龍二が何か言ったのかな。ふふっ。頑張って! 焔)


 ―――集中しろ、焔。
 もうサッカー部くんはすぐそこまで来ている。
 俺は背が小さい。
 だから、なるべく近くで……きた!
 

 サッカー部くんは大きく右足を振り上げる。
 それと同時……いや、それより少し早く焔はボールに駆け寄る。
 その目にはサッカー部くんの右足を捉えている。


(くそ! ゴールの枠が一気に狭まった! もう空いているところに思いっきり蹴るしかない!)


 そう思い、サッカー部くんは思いっきり左方向にボールを蹴る。


「ビンゴ」

 
 あらかじめ、相手から見て、右側に寄っていた焔は、幅の大きい左方向にボールを蹴ると踏んでいた。
 案の定、左に打ち込まれたボールを焔は尋常じゃない速度で右手を出し、的確に止める。
 左手にはじかれたボールは、前に弾かれ、どんどんゴールから離れていく。
 全員が唖然としていた。
 まさか焔がボールを止めるだなんて思ってなかったのだ。
 そんな最中、焔だけがボールに追いかけている。
 ボールに追いつき、味方の方を見る。


「おいお前ら! さっさとこっちに来い! チャンスだぞ! ボール取りに来い!」


 こう言うと、ようやく敵も味方も焔の方に走ってきた。


「全員こっちに来い! ゴールがら空きだぞ! 誰でもいいからボールを奪え!」


 と言っているものの、後4~5秒でこいつには、追いつかれる。
 だが、まだだ。
 もっと全員を俺の方に引き付けないと。


「よくやった焔! 俺はお前が止めると信じてたぞ! さ、早く俺にパスしろ!」


 いちいち腹が立つやつだな。
 そこまでして、女子の印象を上げたいとは逆に尊敬するよ。
 

 よし。そろそろ頃合いだな。


「パス出すから、しっかり受け取れよ!」


「ああ! 任せろ!」


 蓮はこう言っているが、お前に言ってんじゃないんだよ。
 バーカ。


 思いっきりボールを蹴り上げる。
 ボールは敵味方の上空を放物線を描きながら超えていく。


「おい焔! お前どこ蹴ってんだよ!」


 おー怖い怖い。
 怒り丸出しかよ。


「どこに蹴ったかだって? そりゃ、俺が最も信頼している男のところだよ」


 全員がボールを目で追う。
 ボールは事前にグラウンドの隅で焔がパスをするのを待っていた龍二の元へ。


「ナイスパス」


 ボールを胸で受け止め、そのままゴールに向かっていく。


 今から戻ったってもう遅い。
 龍二は強烈なシュートを放った。


 昔っから、パワーだけはあるやつだ。
 ボールはほぼ真ん中だったが、キーパーは止めることができなかった。


「ピピーッ」


 ホイッスルの音の後、1~2秒後の沈黙が続いた。
 この沈黙を一人の歓声が打ち破り、また一人また一人と歓声が沸き、龍二と俺の元へ駆け寄る。
 

 敵チームはまだ唖然としているな。
 女子はざわついてる。
 当然っちゃ当然だ。


 普段体育や運動系で目立つことなんてない二人がゴールを決めちゃったんだからな。
 龍二が俺の方に駆け寄ってくる。


「な。お前の武器はまだまだ健在だっただろ」

 その言葉に、焔は少し照れ臭そうな顔をしながら、

「お前のアドバイスのおかげだよ。小さいやつには小さいやつなりの戦い方がある……ねー。あれがなきゃあの止め方はできなかったよ」


「えっ? どうやって止めたの?」


「……おい見てなかったのかよ」


「まだ走ってる途中だったんだよ。それより見ろよ。あいつの悔しそうな顔」


 そう言われ、蓮を見てみると、こっちを悔しそうな形相で睨みつけていた。
 

「ハハッ、いいねー。すっきりしたよ」


「俺も」


 ―――「ピッピッピー」


「はい試合終了。全員集合」


両チームが一列に並ぶ。


「えー、一組2点、二組1点で1組の勝ち。礼」


「あしたー」


 ―――「いやー、最後決められたなー焔」


「ああ、もうあいつの悔しい顔も拝ませてもらったしな。それに、もしまた止めてたら、なんかそれはそれでめんどくさいことになると思ってな」


 ウォータークーラーの前でそんな話をしていると、蓮がドンドンと足音を立てながらやってきた。


「おいお前ら、一回まぐれでゴール決めたからって調子乗んじゃねーぞ!」


 これだけ言ってすぐ立ち去った。


「ほらな。めんどくさいことになるだろ」


「うん。ごもっともだな」


 すると、もう一人こちらに走り寄ってきた。


 綾香だ。



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