バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

第六話 久しぶりに本気出す

 蓮を筆頭にどんどんと敵陣に攻めていく。
 さすがはエースなだけはあるな。
 ほぼ一人でゴール前まで行ってしまった。
 だが、こうなることもあちらのサッカー部さんはわかっていたのだろう。
 がっちりとゴール前を固めている。
 これではいくらエースでも、一旦パスするしか方法はない。
 

 しかし、あちらのサッカー部さんはよくわかっているな。
 健司と巧人にはしっかりマークがしてある。
 まー、ほとんど中学から一緒のやつらだ。
 だいたい誰が上手くて、誰が下手かなんてわかりきっているだろう。


「ちっ、くそったれ!」


 そう言いながら、敵に囲まれながらシュートを打つ。
 当然入るわけない。
 シュートは大きく外れた。


 「ピピーッ」


 ホイッスルと同時に女子たちの残念そうな声が聞こえてきた。
 ちゃんと授業しろよ。


 「くそ!」


 いやー、怒ってるねー。
 見ていて、にやけちまいそうだ。
 ま、こっちを見て、腹抱えて笑ってるやつが一名いるがな。


「いーひっひっひっひ、あー腹痛て」


「おい! お前ら! 攻めてるときは上がって来いよ! どうせ守ったって意味ねーんだからよ!」


 おいおい、さっきと言ってたこと矛盾してんじゃねーか。


「ピーッ」


 ホイッスルが鳴り、ゴールキーパーが遠くにボールを蹴る。
 サッカー部くんがボールを受け取り、どんどん攻めてくる。
 しかし、これには蓮が追いつき、ボールを奪う。
 後はさっきと同じ要領だ。


 だが、さっきと違うことはこちらの守備が全員敵陣に乗り込んでいるということだ。
 ただ一人を除いて。


「おい龍二、行かなくていいのかよ」


「いいの、いいの。どうせ俺が行ったって、どんくさいって言われるだけだからな」


 相変わらず、こいつはとことん俺の味方だな。
 本当に良い友達を持ったよ。


 あっちはもう……ほとんど乱打戦だな。
 ボールを取られ、取り返し、シュートを打っては外れと。
 ほとんどあっちの陣地でボールの取り合いをしている。


―――「さすがはエース様だな。俺たちのところにまったくボールがこねーな」


「ま、俺にとっちゃ願ったり叶ったりだけどな」


「いーんや、お前は本来すごいやつなんだよ……本気をだせばな」


「何年前の話をしてんだよ」


「小学生のときだよ」


「あの時は皆同じぐらいの身長だっただろ……でも、今はちがう」


「焔、お前いつから本気出さなくなった?」


「何の話だよ」


「いいから答えろよ」


「……中学の11月頃からだ」


「何で本気出すの止めたんだよ」


「そんなもんだいたい察しがつくだろ」


「お前はでかいやつと対等に戦おうとするからだめなんだよ。お前は小さいんだよ。それを認めろ。小さいやつには、小さいやつなりの戦い方があるだろ。お前にはそれができる武器があるだろ」


「今はその『武器』が健在かわかんないけどな」


「まだまだ健在だよ」


「そりゃどーも」


「だから今日ぐらいは本気出してもいいんじゃねーか」


「ああ、今日はだいぶ腹が立ったからな。あいつの驚いた顔を拝ませて貰おうか」


「そいつはいいや」


 こんな話をしていると、例のサッカー部くんがボールを奪い、こちらに向かってきた。
 スキを突かれたみたいで、誰も追いつけない。


 まだまだ『武器』は健在……か。


 本気……出してみるか。

しおり