閉店
部屋中を掃除して大ごみを出す。昼から京橋に出て賃貸物件の契約を済ませる。田町の海鮮居酒屋の上の少し古いワンルームに決めた。朝刊と週刊誌を買って遅めの昼食の寿司屋に持ち込んで見る。新聞では単独犯として検察に送られるとあり、睡眠口座の調査が今後の課題と書かれている。
興味本位の週刊誌はそれでは済まさない。もうシリーズが始まっていて彼女が入行して現在の至る経緯を書いている。当時経理担当者だった頃の今では想像できない彼女の写真が載っている。その後黒縁眼鏡をかけるようになった。その頃が頭取が支店長として赴任していた時期だ。その頃の同僚だった主婦が証言している。
「私は女の勘で支店長と不倫していたと思いました」
と用務員の話を裏付けるような話をしている。その頃支店長は取締役に昇進し、彼女はマンションを買って経理主任になっている。支店長は5年の長期を務め本店の常務取締役業務部長に栄転している。これは私の調査でしっかり覚えている。
なぜ経理主任は罪を一人で背負ったのか。証言があるが使い込みの行方が不明と書かれている。銀行ってこんなにもチェック機能が甘いのか。そんなことはないと呟いて京阪電車に乗り込む。ホームからぽろんのビルの背中が見える。2日前の獣のようなセックスを思い出す。ぽろんはそれをビデオに収めながらプレイをしていた。さすがにしばらくは抱けそうにない。
駅を降りると取り壊しの資材が運び込まれている。エレベータも止まっていて、
「長らくお世話になりました。本日をもって閉店としました。カーネーション」
この時初めてぽろんの店がカーネーションと言うことを知った。
非常階段を上がって3階にはいる。廊下に看板もなくなっている。さらに5階のベットルームの前に立つ。ガラス窓をそっと押してみるとそこにはやはり鍵があった。いつもそうして彼女は開けていたのだ。すでにベトナムへ立ったのか。
床の真ん中に旅行鞄だけがある。私は鞄からボールペンを出してメモを書く。
「ベトナムへ行く前に会いたい」