スーパールーキーくん
「はっきり言おう、ハッキリとハッキリとだ。彼は天才。間違いなく天才。まさに逸材だ。」
シックスセンス。その能力の持つ底知れない狂気的な力に、何十年と研究者を行っているこの中年男性は興奮が止まらない様子だ。
「現時点で市場価値はイージス艦にも相当するぐらいだ。こんな
創成学園において、その生徒の価値は究極の話市場価値で決まる。どんなに努力しようが超能力者として使えないものは容赦なく
シックスセンスを使いこなす少年ーイリイチにとっては無縁な話ではあるが。
創成学園横浜校ーーこの学校は日本唯一にして最大の
普通に歩いていればまず迷子になるであろう広さに、様々な施設がついており、学校というよりは1種の遊園地みたいなものだ。
ここまで巨大な高校だと、教師達も生徒の事を把握出来てないようで、さらに言えば制服を着てない生徒もしばしば見られるので、余計にややこしい。
そんな遊園地をさ迷っていると、ある程度グループが出来ているのを確認できる。いわゆるオタクそうなグループや優等生のようなグループ、中には何故高校にいるのか分からないぐらいにイケイケな不良グループも確認できた。シックスセンスはやはり便利だ。
「よう、調子はどうだい」
声を掛けてきたのは、いま確認した不良グループの中にいた、中心格のようだ。
「ダルい以上普通以下かな、お前は?」
答えになっているのかなっていないのか、とりあえず適当なことを言っておく。あまり意味はない。
「俺は最高さ。この学園に史上最高額の契約金で入ってきたバケモンがいるって聞いてな。どんなやつか見てみたいもんだ。」
金髪を伸ばし、ピアスが何個かついていて、いかにも不良ですよと言わんばかりの彼は楽しそうな笑みを浮かべながらそう言った。
「契約金ねぇ…俺もここに入ったばかりだけど、まだいくらかは提示されてないからなあ」
一応仮交渉はしたものの、具体的な提示はされてない。司法取引に結構な額を出したからしれてるといえば知れている。
「新入生かぁ。よし、この学校について幾らか教えてやる。名前はなんだ?おれは大智だ。」
「イリイチだ。よろしく」
明らかに日本人の名前ではない名前を聞いて、大智は少々面を喰らった顔になったもののすぐ気を取り直した。
「イリイチって…お前ロシア人か?」
「あぁ、そうだな、ロシア生まれ、ロシア育ち、スラヴ人だ」
イリイチと聞いて直ぐにロシアが出てくる時点で見た目ほど頭は悪くないようだ。シックスセンスでは頭の良さまではわからない。
大智とゆかいななかまたちで学校を歩く。彼らはやはり見た目ほど頭は悪くないし、見た目ほど粗暴でもない。
暫し歩き、学校にあるアトラクションを紹介してもらい、そして喫煙所で一服タイムに入る。
「そういや、イリイチ、一応聞くけど年齢は?」
「17歳だな。多分」
「だよな」
この学校において喫煙ぐらいの行為は完全に黙認されるようで、セブンスターの14ミリに火を付け、教師らしき大人が来ても精々ライターを貸すぐらいのことしか無かった。
「日本のタバコも悪くねぇな」
そうやって黄昏ていると、携帯に着信が入ったようだ。バイプ音がなる。
「もしもし、はいそうです。はい、はい、じゃあ今から行きますわ」
電話を切る。要件は契約金が決まったという報告だ。
「契約金が決まったとさ。ちょっと会議室までいってくる」
「後でいくらか教えてくれ。これ、俺の連絡先だ」
了解とだけいい、会議室まで歩いていく。広すぎて移動するのも一苦労だ。
そして10分ぐらいでようやく会議室までたどり着く。是非とも移動系超能力が欲しいところだ。
「来たか、イリイチ君。早速だが君の契約金が決まった。契約金は……50億円だ。」
もしも50億円あったら何が出来るだろうか。娯楽に満ち溢れている現代社会にて。
一般庶民からすれば途方もない額だ。一生遊んで、いい女をだいて、いい車に乗って…
ただ結局のところそんなことは空想の世界だ。宝くじでもあてるか、家族が遺産として持っていることを祈るか。そんなところが関の山だ。
そしてそれは17歳の少年であるイリイチも同じことだった。確かに今まで合法非合法問わずやってきた仕事で金は稼いできたが、全く働かず、ただ簡単なテストを受けただけで50億円。酔っ払った6歳児が考える夢でももうちょっと
だが、現実問題、小切手には5,000,000,000円と小綺麗な字で書かれている。つまりはこれを受け取れば俺は全く不労で大金をつかみ取れる。夢を与えるにしたってこれ以上のことはない。
「誠意とは金額だ。君にはこれだけの誠意を見せる価値がある」
つい最近まで、刑務所の中で殺される日を数えていた。少し昔までは明日食うパンもなかった。生まれた時には文字通り何も無かった。
まさに今がイリイチ物語の最大に盛り上がる場所だ。栄光を掴み取るすぐそこまで来ている。余程のデメリットが無ければ決して損することも無い契約となる。
「分かりました。正式に契約しましょう。」
ここは素直に契約するといった方がいい。万が一気がかわりでもすれば俺は最高の不労所得を失うことになる。
契約書が提示される。普通の生徒の契約書と変わりはない。ただ契約金が膨大なだけだ。
そうただ契約金が異常なだけだ。ただな。
人生で1番緊張するサインだった。金は人を確実に変える。それを理解した上で相手も大型契約を結んでいる。ならば俺もそれに従うしかない。
「世の中金は大事だな」
極東にある島国、街の風景も言語も肌の色も何もかもが違う、そんな場所でもやはり金が生み出す力は計り知れないものがある。人生何があるかわからないものだ。
イリイチは悦に浸った顔で会議室から退室するのだった。
「しかし…いくらシックスセンスという力が未知の能力であるとはいえ、それ以外の能力はまるで素人のようなガキに50億円とは…」
横浜校の財務を管理する責任のある教頭は何処か納得の行かない表情で、校長に苦言を示す。契約金が2桁を越えることはしばしば有り得るものの、50億円というのは前例がない。
「そうかね?確かに超能力は使えないようだが、それを経験で補えるほどの修羅場を生き抜いていると私はそう確信しているがね」
ロシアの暗殺機関にて6年程実務経験あり。この肩書きはシックスセンス程ではないが、人間をひとつの兵器として売り出すのが仕事の創成グループからしたら美味しい響きである。とどのつまり生徒達は実力こそ大人にも負けない程の超能力を使いこなす者も多いが、実務経験がないのが仇となり、実力を発揮できずやられて行くこともまた多かった。
さらにどこで学んだのか敵に対して情を持ち、無意味な復讐を産むこともたまに見られた。
それを踏まえると、敵と見なした人間には情をかけずに非情に徹することなく淡々と肉挽き器にぶち込める
場所は変わって横浜校に隣接する寮にて
寮というには豪華すぎる部屋、でさっき友達になった大智を呼び契約金の話をする。
恐ろしく驚愕した様子の大智だったが、同時にそれだけの価値がある彼のことを疑問に思うようになった。
見た目は普通である。特徴を上げるならば容姿は整っていて、特に目は綺麗な切れ目である。髪型は今風のオールバックにして七三分け。清潔感の整ったいわゆるイケメンってやつである。
そんな彼が50億円という巨額の契約金を提示されるほど、修羅のような奴とは思えなかった。
だが、50億円の小切手がある以上それは事実である。事実はいつも人間の哲学を大きく超えて現れるものなのだ。
「イリイチ。お前は伝説だよ。」
ただ思ったことを口にする。噂では創成学園の契約金最高額は42億円と言われている。そいつは今学園全体の市場価値第1位。ようはこの学校で最も重要な人間兵器と言っても過言ではない。
「シックスセンスは偉大なり」
「全くその通りだ。全く全く全くだ」
「ところで、明日は月一のクラスを集めたホームルームだ。ちゃんと来いよ。」
色々と緩いところがあるこの学校でも、一応は高校らしいこともある。
「分かった。もう12時だ。もう寝ようぜ」
「あぁ、おやすみぃ」