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ソラと関わって、中二病に襲われてから、一週間程が過ぎた。
幽霊は相変わらず、俺の視界のそこかしこに居座っている。七日間も経過すれば、中二病に殺されかけたことも、今となれば夢のような気がしてくるから不思議なものだ。
そう思ってしまうのも、それからの日常が平凡そのものだったからで。
幽霊に話しかけられることも、殺意を向けられることも、ソラに渡された笛を吹く事態はあれから何一つ起こっていないのだ。
平和で何よりだと、日々を過ごしていたのだが、ひと段落ついたところでやってきたのは別の敵だった。
期末テスト。
一学期が終わりかけ、夏休みが近づいている今、逃れられない現実がじわじわと俺に歩み寄ってきていた。
別に、今日の朝のホームルームで担任からその話を聞いて驚いているわけじゃない。優秀で勉強熱心で、文武両道なクラスメイトは既に朝早くや休み時間には自分の机に向かって、ノートとにらめっこしていたからな。
ああ、そういえばもうすぐだな、ぐらいには思っていた。
思うだけ。
一応、同じ学力の友達と、勉強中のクラスメイトを横目に、「俺、全然やってねー、やべー、あははー」ぐらいのやり取りはした。
しただけ。
そういうわけで、今朝のホームルームでは、神妙な顔をした担任によって、もうほとんど真後ろにいる期末テストの範囲表が配られた。
認めたくない現実の予定表が全ての生徒の手に渡っても、担任のその気難しそうな表情は終わらず、それから続いた話があった。
「最近、ここの学校の生徒が何人か、行方不明になっています」
その言葉に、教室はざわついた。
行方不明……。って、家出とかじゃないのか? 三日もすれば帰ってくるとか、そういうのじゃないのか?
いやいや、犬猫じゃあるまいし。
ぶんぶんと頭を振って、しょうもない考えから離脱する。
帰宅部の俺は、他のクラスに友達がいなけりゃ、挨拶できるような先輩もいない。自クラスの友達が消えていない限り、そんな事件に首を傾げるはずもなかった。
しかし、個々に口を開き始めた周りの人に聞き耳を立てていると、「そういえば、○○先輩最近部活で見ない」とか「×組のあいつ、全然会ってない」とか、思い当たることがいくつかあるようだった。
「居なくなった人たちはみんな、学校には登校して、それから家に帰っていないらしいです。だから、みなさんも気をつけて下さいね。できるだけ友達と一緒に帰って下さい」
小学校の頃に言われたことを、この歳になっても言われるとは思ってなかった。
担任は、言うだけいうと、自分の持ち場へと去ってしまった。そして入れ違いに、一時限目の数Ⅰの先生が入ってきて、教室からは、もっと遅く来てくれてもいい、と非難の声があがった。