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翌日の朝。頑張って早起きしたおかげで、俺は誰もいないに教室にいることができた。隣にはソラ。
「昨日のことについて聞きたいことが割とあるんだけど」
俺が話を切り出すと、ソラは意外、という顔をした。
「人のいない教室に呼び出されたもんだから、告白の一つでもされんのかと思ってたぜ」
生憎俺にそんな趣味はない。
ソラの冗談を軽く受け流して、本題に入る。
「なんで、昨日のあいつはいきなり誰もいない空間を作り出せたんだ?」
昨日はソラがハンドガンを撃った瞬間、いなくなっていたはずの生徒や先生が、ぱっと出てきて、何事もなかったかのように、自分の日々を過ごしてしていた。
さっきまで危険なやつがいた所に長居して、また生命の危機に晒されるのもごめんなので、俺は気になったことを全て残してさっさと帰ったのだ。
そのため今、最寄り駅から出る電車でうたた寝している時間に、俺は教室で自分の机に寄りかかっているのだ。
「あー、それな。幽霊って、自分が死んでるって自覚すると、特異な力が使えるようになるんだよ。使える力の大小は発毛みたいなもんらしいが」
個人差があると言え。
「天使とかはあの空間入れるんだぜ? それくらいできなきゃ平和なんて保てねえしよ」
すごいだろ? とでも言いたそうなソラの顔はとても子供っぽかった。
俺は冷静に聞きたいことを口に出す。
「わざわざあんな空間を作り出した意味は?」
「さぁ? それこそ本人に聞けって。今頃地獄だろうけど。大方、人が大勢いると、殺しにくいからじゃねぇの? お前自身をさ」
幽霊が見えるってだけでこんなにピンポイントに命狙われんのか。理不尽な話だな。
ソラから目を逸らした俺に、ソラは話し続けた。
「死んだ人間が、生きた赤の他人を殺す理由なんて、逆恨みか好奇心ばかりだ。意味なんてないに等しい。三時限目に数学があるからとか、午後から晴れるからとか、なんだっていいんだよ。今回はお前が『オレが見えるから』ってところか?」
オレの仕事が増えて、全く迷惑な話だ、とソラは一日に三回以上は確実ついているだろうため息をついた。
俺は自分の足を見つめて、昨日のことを思い出す。
「俺だって好きで見えているわけじゃないのにな」
そう呟いた俺は鏡を持っていなかったので、自分がどんな顔をしていたのか分からない。ソラは俺の表情を塗り替えるように、上から大きな手で頭をぐしゃぐしゃと掻きまわした。
「確かにこれからもまた何かと絡まれるだろうが」
ソラの手をどかして、目を合わせると、ソラはにやりと笑っていた。
「また笛吹けよ。すぐ助けに行ってやる」
俺よりもがっしりとした体格、大人びた顔のつくり。笑顔。声。
「誰かを助けるのに、それこそ理由なんていらねーからな」
そんなソラを見て、俺はほんの少しだけ、本当にちょびっとだけ。
安心してしまったんだ。