整備士?
その日、学校を終えて自宅に帰ると、玄関の前に一人の男性が立っていた。
「きみは高橋颯太くんだね」
その男性はおれに向かって声をかけてきた。
面識のない男性だった。細いフレームの眼鏡をかけていて、髪をきっちりとセットしている。年齢は若く、二十代前半くらいに見えた。
着ているのはスーツ。この辺りでの大人は出張しやすいよう服装を選ぶため、この前病院に来た日本の軍人と同じ立場の人ではないかと疑った。
「わたしの名前は古木誠也。日本からやって来た整備士なのだけど」
「整備士?」
「うん。ゲートが故障をしたという報告を受けたので派遣されてきたんだ」
つまり、ゲートの修理屋か。それはわかったが、どうしてこんなところにいるのだろうか。
向かうべきはゲートセンターではないのか。おれはそっちのほうを指差して、
「ゲートセンターは向こうですよ」
「それはわかってるんだ。そこで話を
聞いてこちらにうかがったわけだから」
「はあ」
そこまで聞いても、おれにはこの男性の目的がよくわからなかった。
「実は、これから現場に向かおうと思ってるんだけど、ゲートのある正確な位置がよくわからないんだ。それで君に手伝ってもらおうと思ってるんだけど、協力してくれるかな?」
「え、でもどうやって?」
「わたしたちは外に抜ける秘密通路を知っているんだ。そこを通れば壁なんて簡単に抜けられるんだよ」
秘密通路。そんなものがあったのか。
「でも、どうしておれなんですか? ゲートの場所を知ってる人なら他にもいると思うんですけど」
「君は逃げた彼の友人だろ。だから彼にもしもばったりと会ったとき、こちらの話をちゃんと聞いてくれると思ったんだ。彼が生きていればたぶん、周囲を警戒している。そんなところに見ず知らずの人間が近づいていけば、襲われる可能性も否定はできない」
確かにその通りだ、とおれは納得して、
「わかりました。いま着替えてくるんで」
そう言って家の中に入った。