壊れたゲート
紗英がおれたちを案内したのはゲートセンターだった。
「ここなら見つかる心配はぐっと下がるんじゃない?」
なるほど、ダンジョンに逃げ込めば、追っ手を振り切ることができる。
ダンジョンは広くて、モンスターもいる。仮にここだと見当をつけても、そこから先に踏み込む勇気は生まれないだろう。
「ですが、ゲートは四つあります。どれを選んだのかも調べる必要がありますね」
「そんなの受付に聞けばいいんだって」
中に入り、紗英がそういった質問をすると、受付は東ゲートであることをすぐに教えてくれた。
「やっぱりね。よう子ちゃんがいた世界を選ぶって言うのは当然と言えば当然よね」
「じゃあ、とりあえず見に行くか」
難易度の高い廃都ではそう簡単には移動することはできない。おそらく、あの二人はいまでもゲート付近にとどまっているはずだ。
おれたちは武器は何も持たずに、東ゲート用の転送装置に入った。
しかし、それは何の反応も示さなかった。
「ん? どうした?」
紗英が装置を拳でたたくと、慌てて受付が駆け寄ってきた。
「やめてください。これは結構繊細な装置なんですよ」
「じゃあ、繊細すぎて壊れたってわけ? これ全然動かないんですけど」
「おかしいですね。今朝、点検したときにはなんの問題もなかったはずですが」
「となると、向こうの装置の問題かもしれませんね」
と芹沢が言う。
「まさか、廃都側の装置が壊されたってことか?」
「ええ。葛西さんがそのような行為に走ったとしてもおかしくはありません。ここから転送できなければ、少なくとも日本の追っ手からは完全に逃れることができるわけですから」
「確かに逃げ切ることはできるが」
だとしたら、リスクのありすぎる判断だった。
確かによう子ちゃんはあそこで発見された。拓真がそこに向かう気持ちはよくわかる。
しかし、わざわざもっとも敵が強いとされるようなところを選ぶ必要はなかったはずだ。そこで生きられる保証なんてないというのに。
「じゃあ、もしかして、あいつとは一生会えないってことなのか?」
「壁を乗り越えれば可能かもしれませんが」
そんなことは不可能に決まっている。登山用の道具があってもよじ登ることはできそうもない。
しかもそこから先にどこへ行けばいいのかもわからない。この世界の地図をおれたちは持ってはいない。
「そもそも、ゲートが壊れた場合はどのように対応するのですか? 数十年も経っていれば故障のひとつやふたつはあったと思うのですが」
芹沢が受付に聞く。
「わたしはそのような担当ではないのでなんとも言えません。故障などの対応は全て日本側の人間が対処をするので」
そうなると、拓真が廃都に逃げたことも日本へ報告しないといけないということか。
それはそれで困るが、いずれは発覚してしまうことでもある。
果たしてどちらが正しいのか、おれにはよくわからなかった。
単純に二人の命を優先をするのなら、いますぐに日本に報告をしてもらい、ダンジョンから救ってもらうべきだ。しかし、それは少なくとも拓真の意思には反してしまう。
不思議と、二度と拓真には会えないという寂しさは感じなかった。おれは薄情な人間なのだろうか。
いや、おれはああいった行動に憧れているのかもしれない。
おれたち契約者は日本に意思を縛られている。召喚師のためにのみ存在し、日本の国土を守るために命懸けで働かされる。
ーーここにいる限り、まともな自由というものはない。
拓真が自分の意思で決断をしたことに、おれは羨ましさを感じている。
その気持ちが友人を失った失望よりも大きく現れている。あいつが自分で選んだ幸せなら、おれはそれを尊重したいと思っている。
仮に悲劇が待っていたとしても、日本の奴隷として死ぬよりはましだと思うから。