校外学習と過去の因縁⑫
路上
「嬉しい! 今から一緒に行動できるの!?」
「この服超可愛いね! どこで買ったの?」
「ねぇ、これからどこへ行くー?」
「・・・」
「・・・」
自分たちの近くで椎野の班の女子と悠斗の班の女子が、合流したことを心から喜んでいる中――――二人の少年は、何も言わずに黙ったまま見据え合う。
そして――――やっとの思いで、椎野から先にそっと口を開いた。
「・・・で? どうして、悠斗一人?」
不審な目をしながらそう尋ねられると、思わず視線をそらしてしまうが何とか答えていく。
「未来は、先生に捕まって・・・。 夜月は、知らない男の人に連れていかれた」
「知らない男って・・・」
「でも大丈夫。 相手は、夜月と知り合いみたいだったし」
「・・・」
その言葉を聞いて彼が黙り込んでしまうと、続けて悠斗が質問した。
「ところで・・・北野は?」
その問いに対しても、椎野は悠斗と同じく視線をそらしながら答えていく。
「朝、北野に『今日は別行動する』って言われた」
「え? どうして」
「・・・今、喧嘩中だから」
ここで気を遣いながらも、喧嘩の内容を尋ねた。 すると昨日起きた出来事を、簡単に説明してくれる。
「北野がいけないんだ。 北野が俺のストラップを盗んだのがいけない」
「でも、まだ盗んだって決まったわけじゃ」
「そうだけど。 ・・・でも別行動するっていうことは、俺とはもう仲直りする気がないってことだろ」
「ッ・・・」
その言葉に何も言い返すことができなくなってしまうと、椎野はそんな悠斗を見て慌てて口を開いた。
「あぁ、いいよ。 無理に返さなくて。 ごめんな、愚痴っぽくなっちまって」
「・・・」
―――よかった・・・椎野が気持ちを読み取ってくれた。
ここで改めて彼の性質に感謝していると、近くにいる女子たちが動き始める。 そんな彼女たちを見て、椎野は言葉を発した。
「俺たちも付いていこうぜ。 はぐれないようにな」
「うん」
そして――――自分たちの目の前でガールズトークが繰り広げられている中、椎野は歩きながら悠斗に向かって先程の話をさり気なく持ち出してくる。
「ところで、未来は先生に捕まったって言っていたけど、何かあったの?」
「え? あぁ・・・。 何かやらかしたのかな?」
―――これは・・・言えるわけがない。
突然のその問いに、苦笑しながらそう答えた。 それを聞いて、彼も苦笑を返す。
「そっか。 でもまぁ、未来ならあるあるだな。 ・・・で、夜月の方は本当に大丈夫なのかよ」
「さぁ・・・? どうだろう。 でも夜月だけじゃなくて、その男は俺と未来のことも知っていたよ」
すると椎野は、呆れた表情をオーバーに見せた。
「はぁ? 悠斗たち3人はソイツのことを全く知らないのに、その男は悠斗たちのことを知っていたぁ? そんなことが有り得るのかよ。 本当に見覚えのない男だったのか?」
「・・・うん」
その大きなリアクションに困りながらも、小さく頷く。 すると彼は思い出すことに協力してくれるのか、悠斗に尋ね続けた。
「んー、その男とは小さい頃に出会っていた・・・とかは?」
「小さい頃?」
「おう。 ほら、小学生の時とか。 それなら10年弱くらい前の話だし、忘れていても無理はない。
でも相手が悠斗たちのことを憶えているっていうなら、その男にとって悠斗たちの印象は凄く強かったっていうことだろ?」
「・・・」
何とか思い出そうと、過去と正面から向き合う。
「その男は同い年くらいか?」
「いや、年上」
見た目でも年上だと分かるため、そこは確信を持って言えた。 そんな悠斗に、椎野は更に言葉を続けていく。
「年上かぁ。 年上だとちょっと難しいかもなぁ・・・。 じゃあ、小学生の頃に仲よかった奴とかいねぇの?」
「小学生・・・」
そこで悠斗は、ある一人の少年の記憶がふと蘇った。
―――え・・・理玖?
―――いや・・・違う。
―――あんな男が理玖なわけがない。
―――だとしたら・・・。
―――・・・琉樹・・・にぃ・・・?
頭の中に“琉樹”という名の青年が思い浮かぶと、悠斗は一瞬にして血の気が引き思わずその場に立ち止まる。
「ん? どうした、悠斗? 体調でも悪いのか?」
そう言いながら、心配そうな表情で椎野が覗き込んできた。
―――え・・・まさか、本当に琉樹にぃ・・・?
―――琉樹にぃと夜月と言えば、夜月は昔、琉樹にぃにいじめられていたって・・・ッ!
―――だとしたら・・・。
「夜月が・・・」
「悠斗? 何か思い出したのか?」
「夜月が・・・危ない・・・」
「え?」
その言葉に、椎野は訳が分からないと言った顔で困惑している。
―――どうして・・・?
―――どうして琉樹にぃが、神奈川なんかに・・・。
「悠斗、今すぐに夜月を探すか?」
悠斗の異変に気付いた椎野は、悠斗を心配するのと同時に夜月のことも心配し始めた。
~♪
だが―――――そんな時、突然空気を読まない着信音がこの場に鳴り響く。
その携帯の持ち主であるのは椎野であり、この状況でかかってきたことに不満そうな表情をしながらも電話に出た。
「もしもし? 御子紫?」
そして――――次に聞こえた御子紫からの一言で、椎野も一瞬にして血の気が引くことになる。
『あ、椎野か? 大変だ、北野が倒れた!』
「は・・・?」
突然動作が固まった椎野に違和感を感じた悠斗は、そっと口を開いて尋ねてみた。
「椎野・・・? どうかしたの?」
「北野が、倒れたって・・・」
「え」
その言葉を聞き、彼に向かって再び尋ねる。
「今すぐ北野のところへ行く?」
「あ・・・! 当たり前だろ!」
一度携帯を耳から遠ざけ、悠斗のことを真剣な目で見据えながらそう返してきた。 そんな椎野に、力強く頷く。
「うん、分かった。 なら俺も行く」
「いや、でも夜月は」
「今一番危険な状態にいるってことが分かっているのは北野の方だ。 夜月はまだ、危ないとは決まっていない。 だから、北野のもとへ急ごう」
その言葉を聞くと彼は頷き、再び携帯を耳に当てる。
「分かった、今すぐそっちへ行く。 御子紫、今いる場所は?」