24 ビーン一家②
13は、その斧を避ける。
その斧は、すぐにそのオークの手へと戻る。
「その斧、危ないね……」
13が、そう言うとオークが笑う。
「勘がいい猫だな。
この斧はアックスデスイート。
俺が当てた生物の魂を削る。
雑魚ならこんな風に一撃で死ぬ」
オークが、近くで倒れている男たちを斬る。
すると男たちは、傷ひとつ付かない。
しかし、その場で絶命した。
「その武器怖いね……」
13が、そう言うと赤の魔導砲を構える。
「いいねぇ……
いいねぇ……
いいねぇ!その目!
猫にしておくには勿体ないぜ?
恐怖、絶望、人間だったらさぞかし楽しい表情を見せてくれたんだろうな?」
オークが、そう言うと13が笑う。
「猫でよかったよ」
13は、そう言って赤の魔導砲を放つ。
するとオークは、その赤の魔導砲を片手で弾き飛ばす。
「君がバカでよかったよ」
13が、余裕の笑みを浮かべてそういった。
しかし、オークも余裕の笑みを浮かべている。
「魔力吸収か?
欲しければくれてやる!
100か?200か?
それとも1000か?10000か?
俺の魔力を舐めるな!」
オークが、そう言って口からエネルギーを放出しフェニーチェたちの方に向けて放つ。
フェニーチェが、華時雨を広げそのエネルギーを吸い取った。
「この魔力、すごすぎます……」
フェニーチェは、そう言うと華時雨を折りたたみオークの魔力を跳ね返した。
オークは、その魔弾を片手で弾き飛ばす。
「……俺に俺の魔力は効かない!」
オークが、小さく笑う。
「ディジー何をしている?
お前もそいつを殺すのを手伝え!
それともお前は、デザートになりたいか?」
オークが、そう言ってディジーの方を見て笑った。
「は、はい……!」
ディジーが、そう言って短剣を抜く。
13とフェニーチェは、大きく下がりディジーとも距離を開ける。
「さぁ、楽しいショーターイムの始まりだ!」
オークが、そう言って楽しそうに笑う。
その狂気にフェニーチェたちは震える。
しかし、黙って死ぬわけにはいかない。
とそのときだった。
トマトが降ってきた。
いや、正確にはスライスされたトマトに手と足が生えた謎の物体だ。
「僕、リトルサマーキッス。
よろしくね」
リトルサマーキッスと名乗るそのトマトに表情はない。
怒っているのか笑っているのかもわからない。
するとディジーが、うっとりとした目でリトルサマーキッスの方を見る。
「ステキ……」
ディジーは、短剣を捨ててリトルサマーキッスを抱きしめる。
そして、リトルサマーキッスにディープなキスをした。
リトルサマーキッスの口が何処にあるかはわからない。
しかし、ディジーはディープキスを続けた。
「マジか?」
オークが、少し驚いている。
「ああ……
女の人がいた……」
リトルサマーキッスは、残念そうに呟く。
「キス、キス、キス……
ああ、アンタの口はどこにあるんだい?」
ディジーが、とりつかれたようにリトルサマーキッスにキスをする。
「えっと、フェニーチェさんと猫さん。
ここは、逃げましょう!」
リトルサマーキッスは、そう言ってディジーを軽く蹴り飛ばすと猛ダッシュでその場を逃げた。
13もフェニーチェも走る。
「……逃げれるとでも思うのか?」
オークは、そう言って斧を投げる。
リトルサマーキッスは、自分の体を叩き汁を飛ばす。
するとその汁はその斧に命中し、そのまま地面に落ちる。
「さぁさぁ逃げましょう。
あのオークは、ガイルと言って危険なモンスターなんです。
ガイルがいたら目即逃が、この世界の常識なんだけど……
この世界を知らないフェニーチェさんにはわからないことですよね」
リトルサマーキッスは、そう言って汁を飛ばしながら走る。
「君は、味方?」
13の問いにリトルサマーキッスが、答える。
「敵ではないですね。
ハデスさんに頼まれて助けに来たんです」
「そう……なら、味方ですね!」
フェニーチェのその言葉にリトルサマーキッスが答える。
「僕はただトマトに釣られて助けに来ただけです。
僕は、バラバラになったトマトの破片を全部集めることで元の姿に戻れるんです」
「そ、そう……
いろいろ複雑なんだね」
13が、状況がわからないままそう言うとひとりの少女が立っているのが見えた。
フェニーチェには、見覚えがあった。
ハデスだ。
「あれ?ハデスさん?」
「まぁ、とりあえず逃げよか」
ハデスは、そう言って風呂敷を広げると自分を含めたフェニーチェたちを包み込んだ。
するとフェニーチェたちは、姿を消した。
「ち……逃げられたか」
オークが、そう言って舌打ちを打つ。
そして、ディジーの方を見る。
「ガイルさま……」
「腹減ったな」
ガイルと呼ばれるオークが、斧でディジーの首を跳ねる。
「まぁ、今日のところはコイツを食おう」
ガイルは、何も考えずにディジーの体を食らった。
フェニーチェたちが、ついた先はギョロの村から少し離れた森の中。
「あのガイルってモンスターは何者なんですか?」
フェニーチェが、ハデスに尋ねる。
「あれはガイル。
この世界の神の中のひとりモトフミクライヌシノオオミカミによって作られた人工生命体や」
「モトフミクライヌシ……?」
長い名前にフェニーチェが戸惑う。
するとリトルサマーキッスが、苦笑いを浮かべて答える。
「モトフミクライヌシノオオミカミです。
モトフミと僕たちは呼んでいます。
正確にはガイルは、モトフミが作り上げた組織テオスが生み出した恐怖の生物です。
王国騎士が、何度か討伐に出向かったのですが、全て全滅するくらい強いですね。
残念ながら生きて帰った人はいません」
リトルサマーキッスが、そう言うと13が不思議そうに答える。
「あれれ?
それだとおかしくない?
生きて帰ったものがいないつまり情報は漏れてないわけだよね?
なのにどうして、その情報を君たちが持っているの?」
すると今度はハデスが答えた。
「それは、ウチのギルドの諜報部の力や。
って言ってもウチの諜報部のメンバーの力でもかなりやつに喰われてもうたけどな……」
ハデスのその表情はつらそうだった。
「ハデスさんのギルドって?」
「パンドラや。
希望が残された箱と書いてパンドラと読むんや。
ウチのギルドは、変わりもんばっかやで?
ウチの他にも魔王がいよるし神さまだっていよる。
ホンマ、滅茶苦茶やねん。
個性豊かで楽しいで、アンタもどうや?」
ハデスの誘いにフェニーチェが戸惑う。
戸惑いながら13に尋ねる。
「僕は、君の行動を支持するよ」
13が、そう言うとフェニーチェが答える。
「僕は失った記憶を取り戻したいです。
武器はきっとこの華時雨だけじゃない気がするんです」
フェニーチェが、そう言うと懐の大剣が声をあげる。
「フェニーチェ、パンドラに入ってしまいなさいな!
パンドラといえば結構有名なギルドよ。
他にも強いギルドはいっぱいあるけれど、パンドラなら貴方もきっとすぐに馴染めると思うわ!」
狂音がそう言うとフェニーチェがうなずく。
「では、ハデスさん。
僕をパンドラに入れてください!」
「まぁ、決定権はウチにないんやけどな。
おやぢが決めることなんやけど、アンタらならすぐに歓迎されると思うで?」
「そう。
じゃ、暫くそこで世話になろう」
13がそう言うとフェニーチェが答える。
「そうですね。
僕たちの目標は元の世界に戻ることですしね」
「そうだね。
それまでって条件付きで僕らもそのギルドに入ろう」
13が、そう言うとフェニーチェがうなずく。
「はい!」
「んじゃ、そういうわけで近くの街にGO!やな!」
ハデスが、そう言うとリトルサマーキッスもうなずく。
「新しい仲間が増えて嬉しいです」
リトルサマーキッスには、顔がない。
そのため笑っているのかどうかはわからない。
だが、心の底から歓迎してくれることをフェニーチェにもわかった。