22 金色の瞳③
「さぁ、そのメガネを掛けて私を使ってあの男を倒すのよ!」
若者は、そう言った狂音の体を掴む。
「では、お体お借りします!」
若者が、狂音を構える。
「くそ!
奴隷が反発しているぞ!」
男が、そう言って他の商人たちを集める。
「結構な人数がいますねぇー」
若者が、ため息をつく。
「ってか、貴方!
なんて魔力の量なの!
こんな魔力感じたことないわ!」
「そうなのですか?」
「なんだ、お前……
俺らのときは、ひとことも喋らなかったじゃないか!」
商人の男のひとりが、そう言って怒鳴ると狂音が笑い混じりの声で言った。
「アンタたちみたいな魔力のかけらもない奴らに話す言葉なんてないわよ!」
「糞が!
お前なんて鉄喰虫の餌にしてやる!」
商人の男が、そう言って剣を抜いた。
そして、若者に襲いかかる。
若者は、その剣を狂音で流しそして商人を斬った。
「コイツ!飼い主を斬りつけたぞ!
殺せ!殺せ!コイツを殺せ!反逆の罪で殺せ!」
商人たちが、次々へと剣を抜き若者に攻撃を仕掛ける。
若者は、その剣を狂音で弾いていった。
「死にたくないのなら、そこを退くのね!」
狂音が、そう言って悲鳴を上げる。
すると商人たちは、次々へと倒れていく。
「何をしたのですか?」
若者が狂音に尋ねる。
「フレンジーバウンドよ。
私の悲鳴は、魔力・精神の低いものを倒すことが出来るの」
「それって殺したってこと?」
若者が心配そうに声を出す。
「大丈夫。
それなりに力をセーブしたから死ぬことはないわ!」
「なら、よかったです」
若者がニッコリと笑う。
「……まぁ、そんなことよりも今は目の前の敵をどうにかした方がいいわね」
「敵ですか?」
若者が、首を傾げると目の前に大きなドラゴンが現れた。
「ドラゴンよ!
あの男を焼き殺せ!」
商人のひとりが、ドラゴンにそう指示を出す。
ドラゴンが火を吹き若者の周りを火の海にした。
「この人たちは、貴方の仲間じゃないんですか?」
若者が、商人数人を持ち上げると火のないところへ向けて投げた。
「それがどうした?
そいつらは、俺の奴隷だ。
奴隷が奴隷商人をやって奴隷を扱う。
こんな楽しい話ほかになにかあるか?
さぁ、ドラゴンよ!あの小僧を焼き殺せ!」
ドラゴン使いの商人が、そう言ってドラゴンに指示を出す。
ドラゴンは、指示にしたがい火を吹いた。
若者は、その炎を避ける。
避けて避けて避ける。
「避けるだけか?
避けるだけでは、ドラゴンは倒せないぞ!
はは!」
ドラゴン使いの商人が嬉しそうに笑う。
「悔しいけどあいつの言うとおりよ。
あのドラゴンを斬らなければ殺られるわよ!」
狂音が、そう言って悲鳴をあげる。
「五月蝿い……!
なんだこれ?
耳鳴りが止まんないぞ……!」
ドラゴン使いの商人が、頭を抑えながら若者を睨みつける。
「あいつもなかなか強いみたいよ!
私のフレイジーバウンドが通じないもの!」
「うん。
あのドラゴンさんも強いですよ!
皮膚がとっても硬そうです!」
若者は、そう言って周りを見渡す。
若者は何かに反応する。
「どうしたの?」
狂音の質問に若者が答える。
「声がする」
「声……?しないわよ?」
狂音が、そう言うと若者は一本の傘を見つける。
「傘……?」
若者が首を傾げ傘に近づく。
「おいおいおい!
俺は無視か?
さぁ、ドラゴンよ!
その小僧を焼き尽くせ!」
ドラゴン使いの商人がドラゴンに指示を出す。
するとドラゴンの口から灼熱の炎が吐かれる。
若者は、狂音を鞘に収め傘を広げる。
灼熱の炎は、その傘によって防がれる。
「俺のドラゴンの炎が効かないだと?」
「はい、この傘……
僕のです。オリハルコンで出来ているんです。
ドラゴン程度の魔力の炎なら余裕で防いでくれます」
「ドラゴン程度だと?
お前は、ドラゴンの恐ろしさを知らないようだな!
さぁ、焼いて焼いて焼き尽くせ!」
ドラゴン使いの商人が、そう言ってドラゴンに指示を出す。
ドラゴンが、炎を吐く。
若者が、その炎に突っ込む。
「華時雨・雨笠」
若者は、小さく呟く。
炎がその傘、華時雨に吸い込まれていく。
若者が、そのドラゴンの口の中に傘をねじ込む。
そして傘を折りたたむ。
「華時雨・折笠」
若者が、そう言って先ほど吸収した炎の魔力を一気に解き放つ。
ドラゴンの口の中で、魔力は爆発しドラゴンは気絶する。
「俺のドラゴンを一撃で倒しただと?」
「ドラゴン一匹……
この華時雨があれば、簡単に倒せますよ。
しかも、炎しか吐けない一色ドラゴンなんて簡単です」
若者はそう言ってドラゴン使いの商人に向けて狂音を向ける。
「頼む!命だけは……!」
ドラゴン使いの商人は怯えた声で若者に命乞いをする。
「見苦しいわね」
狂音が、そう言葉を放つ。
「命だけは!」
ドラゴン使いの商人が手を合わせて頼む。
「なら、両手両足をもいだろか?」
そう言ってひとりの少女が現れる。
黒髪の眼鏡の少女だ。
「あ、貴方さまは……」
ドラゴン使いの商人が、腰を抜かす。
「ウチは、ハデス。
魔獣商人のハデス!
人身売買は協会で禁止されてんねんで!
アンタは、協会違反を犯した。
よって逮捕させてもらうわ」
ハデスと名乗る少女が、そう言うと手にロープを召喚する。
そして、ドラゴン使いの商人をあっという間に拘束した。
そのままハデスは、その若者の方を見る。
「アンタ、強いな。
名前は?」
「名前?」
若者が首を傾げる。
「名前ないんか?」
ハデスが、若者に尋ねる。
すると狂音が答える。
「フェニーチェよ」
「フェニーチェ?」
ハデスが、目を細める。
「不死鳥って意味よ。
今、思いついたの。
だって今のこの子の魔力は、不死鳥レベルなの!」
「……そっか。
フェニーチェ。いい名前やな」
「あとこの子、記憶もお金もないから寄付してくれると助かるわ!」
狂音がそう言うと、ハデスが笑う。
「寄付は嫌いやから仕事の斡旋したるわ」
「あ、ありがとうございます」
フェニーチェの名前を貰った若者が、小さく頭を下げる。
「ああ、よろしくやな!」
ハデスが、手を差し出す。
フェニーチェも手を伸ばしふたりは、握手した。