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24話 2人の初対面の印象

 空が段々と赤から夜の色に染まっていく。
空は瞬く間に次々と変化していき、夜空となって満天の星空へと変わっていく。

 涼と愛理沙はベンチに座って、満天の星空を眺める。


「星空がきれい……はじめ、この公園で座っていた時は、心が沈んでいて、星空を見ても気分が晴れなかったわ」

「俺も1人でアパートにいると、急にアパートの中が狭苦しく思ったり、いきなり寂しさが募ってきてさ……この公園で夜空や街並みの風景を見ていると、少し心が解放されたような気がして座っていたよ」


 夜風が頬をなでる。その風が体に染みて気持ちがいい。


「初めて、涼を見た時は、1人で公園なんかに座って暗い人だなって思ってた。ずっと黙って遠くを眺めているし……孤独な人なんだなって感じた……暗い人だなって思ったし……少し怖かった」

「俺も初めて愛理沙を見た時、こんなにきれいで可愛いと思わなくてさ……女子が夜の公園でブランコに乗って、夜景を眺めてるなんて……何を考えているんだろうと思ってたよ……それも毎日、公園で会うしさ。友達いないんだと思ってた」


 涼と愛理沙は目を合わせて、お互いに顔を見て笑みを深めた。
第一印象はお互いに不審者と思っていたことがわかった。
夜の薄暗い公園での出会いだ……お互いにそう思っても仕方がないと思う。


「お互い、最初の印象は暗くて最悪に近かったんだな」

「だって、夜の公園で1人でずっと座ってる男子なんて怖いでしょう」

「それを言ったら、夜の公園で1人で座っている女子も相当に変だよ」


 まさか、そんな出会いをした2人が、今はこうしてベンチで手を握り合って座っているのだから、人の縁というのは、わからないものだと涼は思う。


「高校3年生になって、アパートで独り暮らしを始めてさ……初めて自由を手に入れたんだけど、自由ってさ、不自由にもなることなんだって、初めてわかった」


 それに自由ということは、自分で全てをしなくてはならない……自分の行動も自分で責任をもって決めなくてはならない。失敗をすれば全て自分に跳ね返ってくる。自由って子供の時に思っていたほど、自由ではないと涼は一人暮らしになって初めて感じていた。


「夜にアパートへ帰っても、誰も『おかえり』って言ってくれないことが、こんなに孤独だって思ったことはなかったよ。でも、誰とも交流しない時間が多く持てて、心が安心した部分もあった。」


 これで人と拘わらないですむ……人と心の距離を遠くできると安心している自分もいた。


「私は、小さな頃から親戚の人達に監視されて育ったの……だから自由になりたかった。人と一緒にいることが苦痛だった。孤独でもいいから早く1人になりたかった……だから、この公園に座ってた」


 愛理沙の親戚の家は酷かった。確かにあの親戚なら、小さい頃から愛理沙を監視して、まるで奴隷のように愛理沙のことを扱っていたのだろう。愛理沙が自由を求めた気持ちは理解できる。


「でも……1人で公園にいると、心のどこかで孤独は嫌だ。孤独は寂しいって……心の一部が泣いているの。でも……人にこれ以上、私の心に触れてほしくないと思ってた。もう人に心を壊されたくなかった」


 人と人がいれば、どうしても心が触れ合ってしまう。そのことが疎ましく思うこともある。あの親戚なら、愛理沙の過去へ土足で入ってきて、愛理沙の心を平気で踏みにじっただろう。
愛理沙が自分の心を守りたいと思ったのは仕方がないことだと思う。


「出会えたのが涼でよかった。涼は私の過去を聞いて来ない。涼は私の趣味も……私がどんなことが好きで、どんなことが嫌いかも、必要な分だけしか聞いて来ない……だから気軽に近くにいられた……涼……何も聞かないでくれて、ありがとう」

「俺も自分の過去を他人に言いたくなかった……過去を振り返りたくない……過去は忘れたかった……だから、自分もそうだから、愛理沙も心に踏み込まれるのは嫌だろうなと思った……ただ、それだけだよ」


 愛理沙の心に、あまり近づかない……少し距離を取ってあげる、そのことを涼は今でも守っている。
愛理沙も涼に対して同じように接してくれている。その心の距離感がお互いにとって今までは最良の心の距離感だった。


「これからカップルになるけど、愛理沙の心と時々は寄り添いたい。愛理沙のことが好きだから、時々はギュッとしたい」

「アウウ……いきなり公園でそんなことを言わないで……涼は恥ずかしいことを言うことが多すぎる……」

「嫌かな?」

「――――そんなことないよ……私も時々、涼にギュッとしてもらいたいし……何を言わせるの……恥ずかしい」


 愛理沙の顔が照れて真っ赤になる。そして恥ずかしがって俯いてしまう。その姿がとても可愛い。

 時々は、心の距離や壁を取り除いて、愛理沙と寄り添いと思う。この気持ちは間違っているのだろうか。

 これが恋という気持ちなのだろうか。最近、涼は愛理沙を見ていると、こういう気持ちが心の中から湧き上がってくる。この気持ちを冷静に判断することができない。

 涼は何も言わずに握っている愛理沙の手を、ギュッと握り直す。
何も言わずに愛理沙も涼の手をギュッと握り返してくる。

 これだけで心が通じ合っているような気がする。


「もうそろそろ、アパートへ帰ろうか?」

「―――うん」


 涼がベンチから立ち上がると、愛理沙は涼の腕に、自分の腕を絡めて寄り添ってくる。涼は愛理沙の体をそっと支えて歩き始める。

 夜空には三日月がのぼっていて月光が2人を照らす。

 2人であればアパートへ帰る道も、なんとなく楽しい。
涼は愛理沙の髪をそっとなでた。

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