コントラの名手

　翌日、入学式が行われた。ある意味音楽のエキスパートを育てるところだから、一つ一つの楽器の人数は少ない。その代わりに、楽器の種類がものすごく多い。実際、ゲームの『コントラの名手』でもかなりの数の楽器が選べた。中には、シンバルやティンパニーなどの打楽器系もあって、興味本位でちょっとやってみたけど、叩いてなんぼの打楽器……華やかな曲はいいけど、荘厳な曲でもやたら叩くところがあって（神ってるモードは特に）ティンパニーはまだしも、シンバルはさすがに退いた。
　長々とした学院長の挨拶の後、弦楽器の最初の課題曲が発表されたんだけど……
「エリーゼのために！？」
まさかのピアノ曲スタート？　いや、別に『エリーゼのために』がイヤだと言っているわけじゃない。バイオリンで演奏する『エリーゼのために』も素敵だよ。（着信音にしてたのもいたし）でもねぇ……記念すべき入学後最初の曲がピアノ曲ってのはなんだかなぁ……
　ま、みんなが知っているクラシックが基本だし、楽器がたくさん選べるといっても、その楽器に合わせて曲が選べるようになっていたら、容量がいくらあっても足りないと言えばそうなんだけど。ま、まだクラシックなだけマシかも。大人の事情（スポンサーともいう）でアレンジはかなりされてるけど、ＪＰＯＰも何曲かは入っていたから。いきなりそこ行かれるともっとモヤってたかな。
　ただ、攻略が進むと、攻略対象に合わせて曲が変わる。どう転んでもイケメンだし、選択肢を間違わなければ将来有望なので、私は曲で選んでいた。重ねて言うが、私は音ゲーがしたいのであって、乙女ゲーがしたいのじゃないから。
　……ただ、その攻略曲が事前に分かっているのも攻略サイトあってこそ。顔と曲が曖昧なのがいるなぁ……ん？　ビヴァルディ『四季』から『春』！　こっちはサンサーンス『白鳥』！！　コントラを持ったままで攻略対象を見ていた私はその対象の頭の上で、個別攻略曲（一曲目）のタグが浮かんでいるのを見て、思わずコントラを落としそうになる。うわぁ、落としちゃって壊れちゃったら、のっけから完全に詰みじゃん。私はあわててコントラをケース（ディスプレー）の上に置いた。途端に、個別攻略曲のタグが消える。へぇ、じゃぁ、コントラ持ったままならイベント時にも選択肢が現れるのかも知れない。どれを選べば正解かはわからないとしても、その場の状況で常識的なものを選べばそんなに間違いはないはず……ヤンデレ系の対象でなければ……あるのよね、かなり条件的には難しいんだけど、攻略対象がヤンデレ化して、屋敷に鎖につながれて拘束ＥＮＤってやつが。それだけは何としても回避しなくちゃ。　
　そう思いながら改めて個別攻略曲のタグを見ていた私は、その中に見覚えのない曲のタグを発見した。
（『亡き王女のためのパヴァーヌ』、何？　一応ピアノ曲からオーケストラチェンジされてるけど）私がタグから目線を下げてその攻略対象をみてまたビックリ。そいつは黒目黒髪で、手にはコントラを……バイオリンじゃなくコントローラーを手にしていたのだ。