校外学習と過去の因縁⑩
日中 電車の中
ガタンゴトン、と静かに揺れる電車の中。 今は平日であり日中ということから、結構空いていた。
ちらほらと人が席に座っている中、彼らに交じって少年二人の姿がある。 隣同士で座り、自分の横で少し俯いている彼に、御子紫は小さな声で口を開いた。
「・・・北野、本当にいいのか?」
「・・・うん」
昨日 夜 北野の部屋
北野の部屋に集まった御子紫、コウ、優を交え、ここでは椎野と北野の喧嘩をどうするのかということについて話し合っていた。
「で・・・。 どうする?」
一通り北野から事情を聞いた彼らは、この流れだとこのまま沈黙することに気付き、それを阻止しようと優が慌ててそう言葉を発する。
それを聞いてから数秒後、御子紫が大きな声で北野に尋ねた。
「まぁまずは、北野は椎野と仲直りしたいと思っているのか? YESかNOで答えよ!」
「それはっ・・・。 YESだけど・・・」
最後の一言を言いながら北野を指差してそう問うと、彼は戸惑いながらもそう答える。 それを聞いて、御子紫は腕を下ろした。
「仲直りするためには、とりあえずどちらかが最初に折れなければならない。
どっちが正しい、どっちが間違っているとかは関係なしに、どちらかが先に折れて謝って、それから話し合うのが大切だ」
「・・・」
「北野は、自分から折れることはできるか?」
「・・・」
その問いに北野は答えられず頷くこともできずにいると、続けて腕を組み自分の意見を述べていく。
「でも俺は、北野も椎野も互いに謝らなくていいと思うんだ」
「それは、どうして?」
その言葉を聞くと、北野の隣にいるコウが優しくそう尋ねた。 その問いに腕組をしたままその場に立ち、部屋の中を歩き回りながら答えていく。
「だって、そのストラップは未だにどこにあるのか分かんねぇんだろ? 北野は持っていないし、椎野も持っていない。 つまり、ストラップは行方不明というわけだ」
「まぁ、そうだね」
「どちらが悪いかなんて、まだ確定していない。 だから、互いに謝る必要はないんだよ。 だってまだ二人共、悪くはないんだからさ」
「なるほど」
優しい表情で理由を言い終えると、コウも納得し優しい表情で頷いた。 それを見て笑顔になり、その場に立ち止まって続けて大きな声で言葉を放つ。
「だから、二人共謝らずに仲直りしよう!」
「どうやってー?」
「え? あ、んー・・・。 そうだな」
決め台詞を言い終えて満足そうな表情をする御子紫に、優はすぐさま問いかけた。 それを聞いて、御子紫は一瞬にして難しそうな表情を浮かべ考え込む。
「・・・明日」
「「「?」」」
それぞれが考え始め静かになると、北野が小さな声で呟いた。 それが聞こえると、この場にいる3人はその声の方へ視線を移し、彼らか出る次の言葉を待つ。
そして北野は少しの間を置いた後、落ち着いた口調で言葉を綴り出した。
「明日、俺・・・。 お寺まで行って、椎野が持っていたストラップを買ってくるよ」
その言葉に、御子紫は慌てて返していく。
「いやッ・・・。 それは流石にキツくねぇか? だってあの寺までは結構距離があるんだぞ。 電車で片道一時間以上はかかるし」
「うん、別にいいよ。 明日の朝、班の女子に『俺だけ班を抜けて別行動する』って伝えておく」
「なら俺も行くよ。 北野を一人、放ってはおけないし」
自分の意志を変えない北野に、御子紫はそう口にした。
「いや、時間がかかるし大丈夫だよ」
「平気平気。 俺も後で、班の奴らには言っておくから」
そんな彼らのやり取りを聞いて、この場にいるコウも口を開く。
「俺たちも行くよ」
「あぁ、二人はいいよ。 今日一日、二人の邪魔をしちゃったし、明日くらいはお前らの時間を楽しめ。
つか、俺が二人の間に勝手に入っておいて『何を言っているんだ』って感じだけど」
御子紫がやんわりとそう断ると、彼は優しく返事をした。
「二人だけじゃなくて、女子もいるけどな。 じゃあ、まぁ・・・北野のことは、御子紫に任せたよ」
コウはその言葉に甘え、そう口にする。 そしてその後に――――結人が部屋にやって来たのだ。
現在 電車の中
「・・・本当に、付き合わせちゃってごめん」
北野が申し訳なさそうに、隣にいる御子紫に謝りの言葉を述べる。
「いいっていいって。 俺が北野たちを、放っておくわけがないだろ」
「うん・・・。 ごめん。 でも椎野に屋台の場所を聞けなかったから、探すのには時間がかかると思うよ」
「分かった。 つか屋台の場所が分からないなら、一人よりも二人の方が見つけやすいだろ」
そこで御子紫は、一つの提案を出した。
「行くついでにさ、そのストラップ・・・俺たちの分まで買おうぜ。 3人分な」
「え?」
小さく聞き返してくる北野に、微笑みを返す。
「いいだろ? 俺たちの、割り勘で」