教会
「教会」
ベンはキリスト教徒だったが、毎朝トイレの小部屋でマスターベーションをすることを日課としていた。
そうすることで、その日1日の運気が上がると信じていたからだ。
ステファニーは閉まりきらないジーンズのファスナーを丈の長いニットセーターで隠していた。
彼女は誓いを立てたダイエットのプログラムも守らなかったし、実際の体重よりも5kgもさばを読んで、ごまかすために履いた高いヒールのかかとをいつもグラグラと揺らしていた。
サリーは屠殺場でよく切れる包丁を使って精肉を作っていたが、それは夫をこん棒で叩き殺さないために必要な仕事だった。
ボブは嘘つきだった。
彼だけじゃない。みんな嘘つきだ。しかし、彼の嘘は少し特殊だ。
僕は誰かれ構わず、自分がいかに幸せであるかを吹聴する。それを聞いた人たちは少し憂鬱な気持ちになる。
それはボブのあまりにみすぼらしい身なりのせいだろう。人々はボブと目を合わせることなく、あいまいな笑みを浮かべる。
リザはスーパーマーケットやレストランのレジの脇に置かれたサービス用のキャンディーをトレーごとくすねるのが得意だった。
それをやると胸がすっきりするのだ。
日曜日になると人々は町の教会に集まってミサを捧げた。
彼らの歌う聖歌は神秘的でとても美しかった。
皆、心が洗われた。
さて、その日はミサの後に教会の敷地内で、募金と布教活動を兼ねた簡単なガーデンパーティが行われた。
教会の門は万人に開け放たれた。
ベンは大きな大きなガラスポットから注いだレモネードのカップを手渡すたびに、爽やかな笑顔で握手をした。
それはトイレの小部屋でベンを快楽へと導いた右手だった。
パーティーのたびに彼がレモネードを担当すると、不思議と寄付がたくさん集まった。
だから彼のジンクスもあながち外れではない。
もちろん、サリー特性ハンバーガーも好評だった。
このハンバーガー目当てにパーティに参加するファンもいるくらいだ。
秘訣はパテだ。念入りに叩き潰したひき肉は粘りが出て、齧ると肉汁を滴らせる。
誰もがパーティーを楽しんでいた。
皆が楽しめば、寄付は自然と集まった。
ボブもパーティに参加していたが、誰も気づかなかった。
それはいつものみすぼらしい格好ではなく、清潔な服で身を包んでいるせいだった。髪を整えると、ボブはなかなか男前だった。
ステファニーは大きく息を吸い込み、そっと腹の肉をへこませてボブに近づいていった。
「こんにちは。今日は暖かね」
「本当に」ボブは微笑んだ。
やがて彼らは意気投合して、教会から姿を消した。
もちろん、ステファニーは相手がボブだということに気づいていなかったが、そんなことはどうでもいいことだ。
実際、ボブは金を持っていなかったが、ステファニーには死んだ夫が残した金がたくさんあるのだし。
パーティも間もなく終わりというとき、リザはデザートがわりにキャンディーをみんなに配った。
「神の思し召しを」
それは盗品のキャンディーだったが、彼女がそう言ってキャンディを手渡すと、みんなはよろこんでそれを受け取った。
前方がふさがれリザがふと顔を上げると,そこには山のように大きな男が立っていた。
それはベルト上に腹の肉がたっぷりとのったスーパーマーケットのオーナーだった。
リザはすくみ上った。
彼はキャンディののったトレーをじっと見ていた。
トレーはリザの手にあり、それはかつてスーパーマーケーットのレジの脇に置いてあったものだ。
それほど特徴のあるトレーではなかったけれど、間違いなかった。
「ありがとう」
男はキャンディーをトレーからつまみ上げた。
「神のご加護を」
そう言って、大男が去っていくと、リザは少し泣いてしまった。