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第2話 目覚めた先は……

 
「あ、あれ?」

 自分は夢を見ているのだろうか。
 そこに広がっていたのは草木と様々な花も咲いている。
 ただ、住んでいる景色の面影はなく、建物なども一切ない。
 野性的というか。とにかく都会では味わえない雰囲気と匂いが鼻につく。

(はやく夢から覚めないと……学校の時間が)

 ただ、不思議なことに意識がはっきりとしている。
 頬をつねろうと、痛いだけで意識が戻ることはなかった。
 ということは、自分が見ているこの状況はそのものなのか。

 状況が掴めず、優は辺りをキョロキョロ見渡していると……。

「あ! いたいた! おーい、優」

「やっぱりお前もここにいたか」

 聞きなれた声が耳に届いて優は安心する。
 そこには、手を振りながら近づいてくる楓。
 こんな時でも楽観的で明るい晴木。
 何処に行っても三人は一緒になる運命。

 しかし、優はあることに気が付く。

 それは、楓と晴木以外にもここに来ている人物がいるということ。

 目が覚めた時は気が付かなかったが、楓と晴木がいるところまで歩くと大勢の人がいた。

 いや、それに優も楓も晴木もよく知っている人物ばかりだった。

「これって……」

「ああ、気が付いたか? なんか分かんねーけど、クラス全員ここに来ているらしい」

「そうなのよ! でも、誰に聞いても理由は分からないって言うし、どうやってここに来たかも知らないって……」

 この謎の場所に集められたクラスメイト達。しかも一か所に。
 楓が言うには誰に聞いてもここに来た理由。どうやって来たかも分からないとのこと。
 二人は顔を見合わせながら困った表情をしている。
 どうやら、周りも楓も晴木も理由が掴めないようだ。

 優は白い雲が流れている空を見上げながら考える。

(死後の世界? いや、それはないか……こんな一斉に人が死ぬことなんて起きてないし、普通に考えて有り得ない、となると)

 と、優が色々と考えている時だった。

 突如。クラスメイト達の中心に赤い光が放たれる。
 とても眩しいもので思わず全員で目を閉じる。
 優は一瞬だけ地面に魔法陣が描かれているように見えた。

「な、なんだ!?」

「お、おじさん!?」

 現れたのは白い髭が特徴的な老人。
 片手には杖を持っており、目は宝石のように青かった。
 困惑するクラスメイト。ざわつくクラスメイト。
 とにかく普通の状態ではなかった。

 楓と晴木は現れた老人を警戒していたが、優はじっと見つめるだけだった。

(なんだこの人、なんかやばいぞ)

 そして、老人は杖を地面に叩く。
 同時に独特な音がこの場に鳴り響く。
 その音に全員が静まり返る。老人はそれを見るに全員に向かって話し始めた。

「おっほほほ! やっぱり若い戦士の候補はいいものよぉ」

「はぃ?」

「何言ってんのあの人? 戦士って言ったけど、どういうこと?」

 老人は優達を舐めまわすように見て、まるで人形を見るかのようなものだった。
 気持ち悪いと言うのが第一印象か。
 ただ、何処かに感じる威圧感。そして、飲み込まれるような青い瞳。
 言っていることは一見訳が分からなかったが、優はすぐに感づく。

「眠っている僕達をその魔法陣で飛ばしてここの世界に連れて来た……戦士というのは、僕達をここで戦わせる戦士ということですか?」

「ほほぉ……これだけで察する者がいるとは、なかなか期待がもてそうですな」

「なるほど、優の言う通りかもな、とは言ってもまだ信用出来ない部分は多々あるけどな」

「でも、凄いよ! たった一言で理解するなんてもしかして優って天才?」

 晴木には感心され、楓には褒められる。
 周りのクラスメイト達にも意外な表情で優のことを見ていた。
 若干だが、照れながらも優は老人の方を見るだけだった。
 自分では驚くほどに冷静だった。

 そして、話は本題へと移っていく。

「お主の言う通り、お前たちはこの世界【ワールドエンド】を侵略しようとしている怪物【ガリウス】を倒すためだけに呼んだのじゃ」

「な、なんか専門用語多くない? 整理させてくれよ」

「簡単に言うと怪物を倒す駒として呼ばれた訳ってこと? なんか怖い……」

「現実世界ではどうなっているんですか? こんな一斉に呼んだということは絶対に混乱が起こってますよ」

 優にはこれが一つの気がかりでもあった。
 家には父親は幼い頃に死んでいるが、母親はここまで育ててくれた恩がある。
 苦労をかけて、必死に育ててくれたのにこんな形でいなくなるなんて親不孝にも程がある。
 優は強くそう思い、老人に強く問かざした。

「その点はこちらで対処してある、記憶を断片的に処理させて貰った……ガリウスを倒し、このワールドエンドを救えば元通りになる、仕掛けじゃ」

「便利だな、それ、まあそれならいいか」

「よかったぁ……パパとママに迷惑かけなくて」

 それぞれが安堵する中。優もこれ以上は何も聞くことなく後ろに下がる。
 出る杭は打たれると言うし、あまり目立つのもよくない。
 ここからはしっかりと老人の話を聞くことにした。

「さて、話を戻すとしようかのぉ、はやい話、今のお主達の状態ではガリウスは倒せない、じゃがこの世界に来た直後からお主たちには【エンド】という力が与えられた」

 老人が言う【エンド】という力。これは、このワールドエンドの人々全員が使える能力のようなもの。
 すると、説明の途中に老人は全員の目の前に一枚の紙を出現させる。
 優はそれを手に取ると、そこにはゲームで言うパラメーターらしきものが書かれていた。
 最後に自分の【エンド】の能力タイプ。これが、この世界で戦っていくために必要なものなのだろう。

 と、じっくりと優がそれを熟読していると歓声が上がる。

「うひょー! すっげ! 地面から水が出てきたぜ!」

「こっちは火が出てきたぜ!」

「見て見て、体が宙に浮かんだ!」

 優の思った以上にこのエンドという能力は力強いもの。
 一瞬で水や火を発生させたり、重力や風を操る者。
 一人一人の個性が出ており、個人差はあるがどれも魅力的である。

 そして、楓と晴木はその中でもトップクラスに上位に位置するエンド能力だった。

「エンドランク【A】【勇者】なんだこれ?」

「ほほぉ、お主のエンド能力は大当たりじゃの」

「え、そうなの?」

「いいなぁ、流石は晴木だね! でも、あたしも負けてないよ!」

 優は興奮する楓の能力を見る。そこにはエンドランク【A】と書かれており、その内容は【白魔導士】というもの。
 単純明快で二人共強いと一目で分かる。
 能力というかは職業というべきものだが、老人が言うには上位のエンドランクになると万能的になるらしい。

 伝説の勇者と魔術を使いこなしたら敵がいない白魔導士。

 優はこの世界でも二人に置いてけぼりだと気付いた瞬間だった。

「そうた! 優はどうだったの? ねぇねぇ」

「聞くなよ! 優もなかなか強いんじゃないのか?」

「い、いや……僕は」

「ふーむ? 貴様、恐らくこの中で一番のハズレじゃの、残念だったのぉ」

 老人の発言に興味が湧いたのか楓と晴木は優の能力を同時に見つめる。
 そこに書かれていたのは優の絶望的な各能力が書かれていた。

 笹森優

 ※ランクはGからSまで

 エンドランク【G】【フォース】
 内容……不明

 パラメータ

 体力 G 攻撃 G 耐久 G 敏捷 F 魔力 G 

 器用 D 運  D 指揮 F

「言い忘れていたが私の名前は【ルキロス】……それでは、今からお主達が生活する村に移動するかのぉ」

 微妙な空気が流れる中でもルキオスと名乗る老人は、渇いた笑いを浮かべながら優達を村に誘導する。
 思えば、この時から始まっていたのかも知れない。
 絶望へのカウントダウンが。

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