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魔獣狩り

 『ん? 魔獣を狩ったことがない? よし、今すぐ狩りに行くぞ!』
 そうレドさんが言ってから小一時間。私は魔獣の多く出る森に、レドさんとリーズさんと一緒にいた。


 ここは|中央大陸の魔の森《ミドラルロスリエ》。
 王国のある|中央大陸《ミドラル》でも結構な範囲を占める|魔の森《ロスリエ》で、王都にも近い。

 魔の森は魔獣や植物が多い危険な森のことを指す言葉で、必然的に冒険者も増える。



 中央大陸の魔の森の略称はミドロス。そのまま。

 王都からミドロスに入るにはミドロス東側門に並んで騎士のチェックを受ければいい。
 人じゃ迷えば出られないほど深くて、森の奥の方は未知数。

 門から入ってしばらくは、広めの獣道のような真っ直ぐ伸びる道が続く。確か第2区まで。

 この『区』っていうのが重要で、ミドロスを100個に分けている。
 一番浅い、つまり一番外っ側が第1区。
 数字が大きくなるほど、資源は豊富だけど危険度が高くなる。魔獣ももちろん強くなる。



 そういえば誰かが話してたなぁ。
 非魔族最強と謳われたSSランク冒険者でも、31区が限界だったって。もちろんそれが非魔族の最大到達区。

 非魔族限定なのは、魔族が種族的に強すぎるから。多分普通に50や60はいくんじゃないかな?


 「どうだ? クラリス。初めての魔の森は」

 「予想より普通でした」

 「だろー? でもそこで油断してちゃあ命取りだ」

 「分かってますよ」

 「そうかそうか」


 ニシシと笑うレドさんはいつも通り。リーズさんも、うん。いつも通り無表情。


 「クラリスのレベルは?」


 レベル……?
 あ、ステータスに表示されるアレか。どうしよう。ないんだよね、レベル。

 魔獣を狩ったことがないなら1じゃないのかな? 確かレベルを上げるには経験値が必要で、それは殺しでしか得られないから。


 「動物を殺したことがないと言えば分かりますか?」

 「つまり1だな。ご愁傷様」


 嘘は言ってない。
 オブラートに包んだように見せて、真実を葬り去っておいた。まあバレないかな!


 そうやっておふざけを繰り返しつつ奥へ進む。第2区に入ればチラホラ冒険者を見かけるようになって来た。

 レドさんはある程度交友関係が広いみたいで、挨拶を交わす数も少なくない。
 その度に「こいつ誰?」と聞かれるの、ちょっとだけ面倒だったりする。


 「1なら何を倒せんだ?」

 「わからないです」

 「だよなぁ」


 そんな風にレドさんと話していると、後ろから溜息が聞こえて来た。


 「リーズ、お前あからさまに呆れてるだろ!」


 レドさんに詰め寄られてもガン無視している。


 「ったく。で、わかってるんだろ?」


 頷いたリーズさんは小さく「一角ウサギ」と呟いた。レドさんも賛成みたいで、私をズリズリと引きずって先に進み始める。

 あのー、レドさん。フードだけは気をつけてね? 取れるの嫌だから。





 道からずれて森の中。
 魔の森は全体的に魔獣が強いとはいえ、ここは第1区。弱小モンスターがちょっぴり強くなった程度の魔獣ばかりだ。


 私のターゲットは一角ウサギ。
 木に隠れて様子を伺っているターゲットさんは、もしゃもしゃと平和そうに草を食べている。
 つぶらな瞳、つやつやの白い毛並み、鋭利なツノ。
 わぁ……。可愛い……。

 『いいか? 一角ウサギの危険度は最低だが、案外すばしっこい。油断するなよ』とは、レドさんの言葉だ。


 そんなレドさんの方を見ると、行けとでも言う風に一角ウサギを指差した。頷いて、レドさんが持たせてくれた短剣を握りる。

 実は普通に、殺しは初めて。だって神界で殺すことなんてなかったし。

 弱肉強食をちゃんと理解してるから心に傷を負うことはないだろうけど、取り敢えず可愛い子を殺すのってつらい。ううっ〜。
 グッと短剣を握りなおしたら、いち早く一角ウサギに近づいた。


 「てやっ」


 力の入っていない頼りないかけ声で短剣をつぶらな瞳に突き刺した。
 うん、脳天は急所。


 「おー、迷いなく急所にぶっ刺すなぁ」


 呑気にレドさんとリーズさんが拍手をする。目の前には死んだ一角ウサギさん。

 でもやっぱり、感情は少し人と違うのかもな。
 前の私なら泣いて泣いて懺悔しそうだけど、生死の感覚が希薄な神族になると糧となってくれてありがとうって感謝だけ。

 人らしい感情も残ってるけどね。
 私はハーフみたいなものだから、混じって迷って悩んで当然。そうお父さんは言ってた。今絶賛悩み中だよ〜。


 「レベルアップはこれだけじゃしないだろうが、まあ、お疲れさん。魔獣狩れたな」

 「……新人育成、今まで何人して来ましたか?」

 「いきなりだな!? 安心しろ、覚えてない!」

 「そこは覚えててあげて欲しかったです!」


 あ、この一角ウサギさんどうしよう?

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