ステータス
「ていっ」
一角ウサギさん16号〜。
「てや」
一角ウサギさん24号〜。
「って! これ、生態系壊しちゃいませんか!?」
黙々と狩ってたから気付かなかったけど、大丈夫かな?
そーっと後ろにいるレドさんを見てみたら、お腹を抱えて笑っていた。リーズさんもちょっと震えてる。
えーっと?
「あのー」
「あははは! ちょ、ちょっと待ってくれ! って、うお!?」
リーズさんの鉄拳が飛んできて、レドさんは慌てて避ける。それで笑いも引っ込んだのが、小さく咳払いした。
「えー、それで、生態系だっけか?」
「はい」
「|魔の森《ロスリエ》じゃ、いろんなもんがわんさか出てくる。
言っとくが、どれだけ狩ったって採ったって減りやしない。冒険者がやってるのは単なる間引き。一角ウサギを100匹狩ったって何も起こりやしないんだ。
理解したか?」
……お父さん。その知識は制限して欲しくなかったかな!?
「ちゃんと理解しました」
「そうか。ならまだまだ狩るぞー!」
そう言ったレドさんはリーズさんの蹴りをお尻に食らった。どう考えったって、もう帰らないと日が暮れる時間だったからね。
レベルアップ祝いだとかで、私とレドさんとリーズさんは居酒屋に来ていた。お昼にも飲んでたのに元気だなぁ。
店内は王都民や冒険者で賑わっていて、酔って上機嫌なせいか誰の声も普段より大きい。まあつまり。
店内、騒がしい!
「よーし、酒も揃ったな」
レドさんとリーズさんの手にはビールのジョッキ。私の手にはフルーツジュース。
あれ? これって、子供扱い?
ま、まあ、お酒あんまり好きじゃないからいいけど。でも複雑。一応、100年は生きてるんだけどなぁ。
「じゃ。クラリスのレベルアップを祝って、乾杯!」
「乾杯」
あ、リーズさん言わないんだ。ジョッキは高く上げてくれてるけど。
「そういや、レベルは結局どれくらい上がったんだ?」
……基準が分からない。
レドさんはピタッと動きを止めた私を見て、不思議そうに首を傾げている。
「そ、その。まだ見てなくって」
「今カードで見れるだろ? ほれ、見せてみろ見せてみろ」
「ええ!?」
夜のうちにギルドカードのステータス画面、確認しておけば良かった! こ、ここは一か八か。覚悟を決めて見せよう。
まあ、ね。覚悟を決める云々の前に、既にカードはレドさんの手元だけど。
いつの間に?
「魔力流してくれ」
「はぁ。分かりましたよ」
「溜息吐いたな」
「そりゃあそうです」
カードに触れて、ちょっとだけ魔力を流す。そうすると文字が浮かび上がって来て、レドさんはヒョイっと私の手から遠ざけた。
え、私にも見せて欲しいのになぁ。
「ん? うおっ、なんだこれ」
ギルドカードを開いてステータスを見たレドさんは、首を傾げてカードをリーズさんに見せる。
リーズさんはしばらく考えるそぶりをみせると、いきなりカードを突っついた。動きの遅いスマホじゃあるまいし、なんていう冗談は通じない。
「どうしたんですか?」
「いや、予想以上に数値が高くてビックリしただけだ」
「見たことないので分からないです」
「ほれ」
ーーーーーーーーーーーーー
《ステータス》
Lv.5
【名前】クラリス
【年齢】17
【性別】女
【種族】人族
【職業】Eランク冒険者
HP:230/230
MP:300/300
【加護】
【称号】駆け出し冒険者
【スキル】
《剣術(2)》《体術(3)》
ーーーーーーーーーーーーー
平均が分からないからなんとも言えない。
ただ、お父さん頑張って仮のステータス作ってくれたんだ〜と思う。分かることはそれだけ。
私がイマイチな反応を示していると、レドさんとリーズさんは自分のギルドカードを取り出して私に差し出した。
ーーーーーーーーーーーーー
《ステータス》
Lv.32
【名前】レド
【年齢】23
【性別】男
【種族】人族
【職業】Bランク冒険者(PT『三段』リーダー)
HP:380/380
MP:150/150
【加護】
【称号】一流の冒険者
新人育成班
【スキル】
《剣術(6)》《体術(4)》
《火魔法(2)》
《毒耐性(1)》
ーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーー
《ステータス》
Lv.30
【名前】リーズ
【年齢】20
【性別】男
【種族】人族
【職業】Bランク冒険者(PT『三段』副リーダー)
HP:300/300
MP:360/360
【加護】
【称号】一流の冒険者
新人育成班
【スキル】
《体術(5)》《剣術(3)》
《風魔法(6)》
《毒耐性(2)》
ーーーーーーーーーーーーー
「30レベルと数値が近い、ですね」
「ああ。でもなんで魔力が多いのに魔法スキルがないんだ?」
「さあ? ちゃんと使ってるんですけど」
ウンウンと唸る私とレドさんのギルドカードを、リーズさんは何度も往復して見直している。突いてみたり振り下ろしてみたり。
考えるのに疲れたのか、レドさんがジョッキのビールを一気に飲み干した。
「だー! わかんねぇ。魔法使えるならスキルあるはずなんだけどなぁ」
「まずステータスの見方が分からないです」
「そこからかよ!」
そこからです。
私のステータスに関する知識はほぼ残されていないみたいで。重要なのになんで封じちゃったんだろう?
レドさんはリーズさんのギルドカードで私に説明をしてくれた。
一番最初に書いてあるのがレベル。
冒険者の多くが最終的に行き着くランクはC。
Cランクの平均レベルは20くらいだから、実はレドさんもリーズさんも強い。Bランクは一流だしね。
……まあ、新人育成班なる称号を持ってるけど。
次が名前。
名前がない場合は『Nameless』って表記になるらしくて、名前がないことを指すと考えられているらしい。
実際、英語でそのまま『名無し』だけど。
お父さん、システム作るときに手抜いたでしょ!
お次が年齢、性別、種族。
レドさんが思ったより若かった(失礼)。
けど、こんなに若いのにBランクってことは相当才能があるんだと思う。
でも結婚出来るのは遅くて25歳辺りの|この世界《ティオラ》。特にレドさん大丈夫?
そして次が職業。
職業の下には見覚えのある表記があった。HPとMP。RPGお馴染みのアレ。
Cランク冒険者で200くらいらしい。
2人も、レベルから考えるとこれくらいで丁度いいと思う。得意分野でバラツキはあるけど。
その下が加護・称号。
加護を得られる人は少なくて、称号は比較的簡単に得られるらしい。加護持ちは才能があって重要視されているとか。
最後に重要な重要なスキルの表記が来る。
この世界のスキルは技などを含まない極めてシンプルなもので、基本数も限られては来る。
スキルレベルが横に書いてあって、上限は10レベルらしい。
リーズさんある程度バランスいいけど、レドさんは偏ってるなぁ。
「分かったか?」
「十分に」
「……あっ」
「まだなにかあるんですか?」
「いや。そのステータスのこと、あんまり人に言うなよなって」
リーズさんも同意するように頷いている。
「言うわけないですよ」
平均値でも良かったけれど、まあお父さんにしては上出来かな。
「仮のステータスあんなので良かったかな?」
「平均より高いのは誤魔化しのため?」
「うん」
「なら加護持ちにしとけば良かったのに」
「あ」
その時、神界ではこんな会話があったと言う。