戦闘ギルド
右耳にはイヤリング。私とお父さんの瞳と同じ色で、アメジストの宝石みたいだけどちょっと違う。
私の力を抑えることで世界の許容量をオーバーしないよう制御してくれる。
服は、神王直轄世界群第8番世界ティオラで一般的な服に自分好みの効果を付与した。その上にお父さんからもらったローブを着て、髪の毛をすっぽり隠す。
私がクラリスになってから相当な時間が経った。
前世を捨てた日に言ってみた我儘。本当に叶えてくれるなんて、とは思ったけど素直に嬉しい。
私は今、ちょこっと憧れのあった『異世界』に来てる。人の間をスイスイと歩いて、久々の人の世界を楽しんでる。
うん、そう。ここって日本から見た異世界。魔法があって、剣があって、魔物やドラゴンなんかがいるの。
人の多いこの場所は、ティオラの大国アルリアック王国の王都。確か名前はアラスティック。
ちょうど朝市の時間帯だったみたいで、すごい人混み。フードが脱げちゃう前に抜けよ。
「はぁ、やっと抜けられた」
人混み抜けるの大変。凄く疲れた……。
「リディガー様、おはよう御座いますぅ」
「おはよう」
「今日も依頼ですかぁ?」
「ああ」
噴水の方から猫なで声が聞こえた。
見たら、イケメン!って感じの人が数人の女の子に囲まれている。逆ナンかな?
王都だし、やっぱりそういうのあるよね。ナンパとかじゃなくても、私みたいに変わった髪の色してたら絡まれちゃうかも。
気をつけないとなぁ。茶髪が多いから、金髪は目立っちゃう。
あ、そうだ、冒険者ギルドに行かなきゃいけないんだった。
こっちでのお金は自分で稼ぐつもりだから、戦闘力を活かして冒険者ギルドに登録するつもり。
さっき逆ナンされてた人も冒険者かも。『依頼』って言われてたし。
異世界での第一歩。まずは、冒険者になる!
冒険者ギルドは、正式には戦闘ギルドって言う。
戦闘ギルド、商業ギルド、産業ギルドの3つが世の中でギルドって言われてるもの。他にも小さいのがあるけど、目立たないし知名度も低い。
アラスティックにある3つのギルドは、全て本部。そして3つのギルドを束ねる総本部もこのアラスティックにある。
まあつまり。このアラスティックは、世界一と謳われるほどの大国の王都にして全世界の心臓部。
アルリアック王国の国章が狼を形取っていることから、狼の心臓という意味を持つ『ウルベル』を別称ともしてるんだよね。
イヤリングのせいで相当知識も抑えられてるから、思い出せるのはこれくらい、か。
「お待たせ致しました。アルリアック王国アラスティック戦闘ギルド本部へようこそ。ご用件はなんでしょうか?」
私の順番がやっと来た。
「登録をお願いします」
「登録ですね、かしこまりました。ではあちらの部屋へお入りください」
渡された番号札を持って部屋をノックしてみる。返事はすぐ返って来た。
そっと中に入ってみると、優しい営業スマイルを浮かべる初老の女性が座っていた。番号札を見せたら対面するソファに座るよう諭される。
まあ、お言葉に甘えようかな……。
「登録をされるんですね?」
「はい」
「でしたらこちらの紙に必要事項をご記入ください。記入必須部には二重丸が書かれておりますが、その他の項目は出来る限りとなっております」
「分かりました」
ペンと紙を受け取る。
絶対に書くことが、名前、年齢、性別、種族、戦闘方法。
出来れば書くところが、出身地、苗字(ある場合)、身分(平民でない場合)、そして魔法適性。
うーん。私にステータスはないから、ある程度嘘ついてもバレないんだよね。
名前のところにはクラリス、年齢は17、性別が女、種族は人族、戦闘方法は魔法と体術って書いておけばいいかな。
他は……遠慮しとこう。
|この世界《ティオラ》には『ステータス』という世界法則規模のシステムがある。
RPGで見かける感じで、名前や年齢などの個人情報、体力や魔力などの身体的数値、スキルという技能の一種などがずらっと書かれてる。
神族や天使族はステータスを持っていない。
実は気付いていないだけで、全ての世界にステータスは存在してる。この世界は気付いてる部類。
別にステータスを人に見せるような文化もないから、なくたって困らないし。嘘ついても鑑定されてバレることないし。
多分大丈夫だとは思う。多分。
「ご記入ありがとうございます。では少々お待ちください」
本当に『少々』後、女性は私に新しいギルドカードを手渡した。
「おめでとうございます、クラリス様。貴女は今日よりEランク冒険者です」