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神王と新たなる娘

 世界はなにも、地球だけではない。
 地球以外にも生命を宿す星があり、地球のある宇宙以外にも宇宙がある。地球の所属する世界以外にも世界はあるし、次元とてある。

 全てを知っているのは『神族』のみ。
 全ての世界・次元を見守るため、最高位の次元世界である神界に住まう種族だ。


 この神族、人が元来思い浮かべる神とは違う。
 人が神話を形作り崇めしものは、その世界や次元、惑星や地域ごとに存在する。神話が具現化した存在である者らは総じて『神話族』と呼ばれた。

 もちろん神族の中には神話に登場する者もいる。
 一部の神話族は神族の存在を知っているし、天界に住まう神話族と神界に住まう神族が狭間の神殿で交流を深めることもある。


 そして。あまねく全ての世界、次元、神……。それら全てを束ねるのが、神族の王、神王ゼルテスである。
 神王以外を縛る|理《ことわり》を司り、理を守護し、理を制御し、唯一理の外に在るのが神王だ。

 人の男の性別に近い容姿や人格を持つ彼は男神。ゼルテス様と広く神界で慕われている。


 理を越えた存在である神王になるには、世でたったひとつの素質が必要となる。それは、魂の素質。

 全ての魂には階級があり、階級によって生まれも能力の幅も決まると言っていい。
 神話族にも、神話族に使える話天使族にも、神族にも、神族に使える天使族にも、神王自らにもそれは当てはまる。

 神王となるには、神王級の魂が。神族ならば神級の魂が。
 階級にも順位があり、もちろんのこと神王級は頂点。二番手の神級の遥か高みにある。

 そして、理で全てを則るからこそ、神王級や神級を揺るがす階級を持つ魂など生まれるはずがないのだ。



 ある日ゼルテスは、慌てた様子の天使に連れられある場所へ足を運んでいた。

 そこは魂を司る神族たちが、部下の天使族とともに魂の管理を行う場所だった。
 魂が生まれるのもここ。魂の階級を正式に決めるのもここ。生を全うした魂のケアを行うのもここ。魂に能力を授けるのもここ。魂を転生させるのもここだ。

 だからこそここは重要な場所。
 ゼルテス自身が呼ばれるということはそれ相応の緊急事態で、果たして何があったのやらと苦笑した。

 一生懸命に話す神族の言葉を要約すると、階級が|鑑定でき《みれ》ないということだった。


 問題の魂はほかの新生魂より美しく、どこか壮大な力を持っているように感じた。
 ジッと見ていると、ほんの一瞬だけ顔が見えた気がした。輝かんばかりの金髪に、澄んだ深いアメジストの瞳。

 確かに鑑定してみれば結果は鑑定不能。
 神王の鑑定すらをも弾いたその魂。ただ確実にわかることは、階級は、神王のそれ以上であるということ。

 しばらく無言で考えたゼルテスは、この魂の階級を『超越級』と決めた。
 そして神にこれから絶対に今回のようなことがないようしっかりと言い含め、魂の扱いについて考え出した。

 人の国で言う貴族のような存在。重鎮、とでも言うべきか。神界でもトップクラスの神たちが集まり、結局は無難な結論に至った。





 「また、隠せなかったみたいだね——美春」


 ゼルテスは今日も、超越級の魂を持ち生まれた少女を見ていた。

 あの会議の日に決まったのは、無理矢理な解決策だった。
 どのような世界にも許容量があり、越えると崩壊する。だからこそ、一旦許容量の大きい世界に生まれさせようと。

 そして選ばれたのが、神王が直々に収める世界の中にあり、武力的行為の少ない場所。日本だった。


 「あの時は、神族たる器がなかった。だから緊急手当的に人に生まれさせたけど……ちょっと軽率だったかな? 流石に地球でも耐え切れないみたいだ」

 「そのようで御座いますね」

 「体はちゃんと置いてある? 最初は前世の体だから焦らなくてもいいけど。
  多分、地球自体が美春の存在に耐えきれなくなって、美春を若くして殺してしまうと思う」

 「ご安心を。神王様手ずから創られた体、しっかりと保存しております」

 「ならよかった」


 ゼルテスの問いかけに、控えていた1柱の神が静かに答えた。


 生まれた魂は一刻も早く生まれさせなければならない。
 一番妥当なのは神族だが、ちょうど体の元となる物質を切らしていた。天使族にするのも気が引け、結局は人族を選んだのである。

 けれども頼みの綱であった地球すら今や軋みを上げ、美春自身は異常なまでの才能に苦しめられていた。


 どうせ、長くは保たない。

 そう考えたゼルテスは、美春を見る中で次第に芽生えていた感情を成熟させるよう動いた。
 日に日に増す想いは、愛しい娘でも出来たようで。どうせなら実の娘にしたいと考えたのだ。

 あの日見た顔そのままに体を創り上げた。
 淡いだけの自分とは違い、輝かんばかりの金髪。吸い込まれそうな自分とは違い、澄んで深い紫の瞳。真っ白な肌に、自分に似ているあの日見た顔。

 自信作だ。|父娘《おやこ》として似るよう、丹精込めて創ったのだから。
 他でもない神族の王が。


 限界だと言わんばかりに、地球は異常な少女の魂を天へ帰そうと行動を始めた。人には聞こえぬ大きな亀裂音が響き、美春という少女の人生は幕を閉じる。
 そして、今からが本番だとばかりに、ゼルテスや神界の民たちは動き出した。

 ゼルテスは、愛しい娘を迎えるために。

 神界の民たちは、新たな王女を迎えるために。

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