神々の王を名乗る青年
周りに何もなく、ただ淡々と白が広がる場所。そこで先の少女は目を覚ました。
あの状況下で死なないはずもなく。死んだからにはここが死後の世界だろうと、キョロキョロと辺りを見渡した。
「お、目が覚めた?」
虚無の中に白だけを垂らしたような世界に。先ほどまで、少女以外に白と異なるものはなかった。
そんな世界に若い男性の声が響いたと思うと、白の一部が割かれ青年が入ってくる。
ふわりとした淡い金髪と深い紫の瞳を持つ美青年で、その表情はにこやかだ。
驚きで一瞬息を止めたが、少女は混乱することはなかった。なにせここは死後の世界。神や天使がいても、驚くことは何もない。
随分と落ち着いた少女の様子に、青年は感嘆する。
「落ち着いてるねぇ。もしかして、死んだってこと受け入れちゃってる感じ?」
「そうです、が?」
「ああ、ごめんごめん。僕が誰か分からないよね。僕はゼルテス。神様たちの王様」
サラッと重要な事柄を言われ、少女はパチクリと目を瞬かせた。言われたことを噛み砕き、ようやっと理解する。
神は複数いる。
そういう考えを持つ日本人だからこそ、少女は神が国に近いものを築き上げ王という統治者を置いているということを素直に受け入れた。
「さて。ご存知の通り、君は死にました。それも人助けの結果という若い死。まちがいないよね?」
「は、はい」
「それで、死んで喜んでたところとーっても悪いんだけど……。君には生き返ってもらいたいと思い〜す」
「……え?」
キャピッという効果音がついたかと思うほど明るくお茶目にゼルテスは言い切る。
明るいゼルテスに対して、少女は口を半開きにさせて驚いていた。
死後の世界に来たのだから、もう生き返るはずない。あの状況で生きていたらそれこそ化け物。
まず、もう異常な私に戻りたくない。
そんな気持ちが強かったのだ。
「おいおいちゃんとした説明はするんだけどね。簡単に言うと、ちゃんとした体に死んだ君の魂をポイってしたいんだよ。まあまずは前世通りの体だけど」
「ぽ、ぽいっと……」
「そ、ポイっと。あ、そうだ。生まれ変わったって言っても、日本に戻るわけじゃないから安心してね。新しい体を手に入れるってだけ」
「そ、そうなんですね……」
少しばかり理解が追いつかないものの、少女はホッと息を吐いた。日本に戻らないのなら化け物と称されることはない。
安心から心にちょっとした余裕が生まれ、目の前で突拍子もないことばかり喋る神の王を見た。
神というからにはとても美しい。後光も羽もないが、どこか高貴な雰囲気を持っていた。
「死んだばっかりに悪いんだけど、このままじゃ君の魂は無理にでも転生しちゃうんだよね。だから今すぐ僕と契りを交わして生まれ変わってくれない?」
「え、えと……契り、ですか?」
「そ、契り。僕と君は|父娘《おやこ》ですよって言う契り。ごめんね、テンポ早くって。頭追いつかないかもだけど、ここの決断は早くして欲しいかな」
ごめんね、と手を合わせる神の王は人間味があって。少女は固くなっていた肩の力を抜いた。
死んで生き返ってって言われて。おかしな出来事が一気に起こったせいか、ちょっとばかし適応スキルが上がったらしい。
苦笑すると問いに答えた。
「なぜ父娘なんですか?」
「君の魂と契りを交わせるのは僕の魂だけでね。関係性を考えた時、父娘が一番しっくり来たんだ。嫌?」
「嫌ではないのですが……。なぜ、転生してはダメなのか、と思って」
嫌でないという答えに目を輝かせた神の王は、少女の質問を聞いてそれもそうかと呟いた。
「君の魂って、特別なんだよ。うーん、話すと長くなるけど、時間はギリギリかな。聞いたらすぐ決断になると思うけど、いい?」
「分かりました」
少女の答えに満足そうに頷くと、神の王は話し始めた。
異常という枷を背負って生きてきた、加藤 美春といううら若き少女の魂の話を。