21.魔法
翌朝、朝食を宿屋の1階で食べ終えた頃、エルミアがやって来た。
「おはようございます。エルミアさん。」
「おはようございます。バルトさん。」
今日のエルミアさんはいつもと違った。
ギルドで会うときはスーツみたいな仕事着を着ているのだが、今日は私服だ。
服装が変わるだけでこんなにも印象が変わるのかと思った。
緑色のチャイナドレスのような服を着ており、服の間から見える足が非常に魅力的だ。
そして、胸元も強調されており、正直どこを見ればいいのか分からない。
「さっそく行きましょうか。」
「行くってどこに行くんですか?」
「街の外ですよ。」
街の外に出て少し街道からそれたところで魔法の練習を始めた。
ちなみにウィルはお留守番だ。
宿屋のおばちゃんに世話をお願いしてある。
「いいですか。魔法を使うのは実は簡単なんです。魔法で一番大事なのはイメージです。魔力があれば後はイメージさえ出来れば魔法は使えます。例えばこんな風に……ファイヤーボール!」
エルミアさんの手から火の玉が打ち出された。
「凄いですね。」
「ものは試しです。やってみてください。」
「はい。」
俺はイメージする。
さっきの火の玉の雷版を。
そして、イメージが固まったとき
「サンダーボルト!」
その言葉と共に俺の手から雷をまとったボールが出てきた。
「1発で出来るとは凄いですね!」
俺、想像力だけは凄いので。
「たまたまですよ。」
「そんなわけないじゃないですか!実力ですよ。バルトさんは謙虚過ぎです!バルトさんは凄いんですから、もう少し高慢になってもいいと思います。」
何でか少し怒られてしまった。
「まあ、いいです。身体強化魔法のほうも試してみてください。」
「分かりました。加速!」
速さを強化する魔法。
自分が風のように走るのをイメージした。
「身体強化魔法は、実際に動いてみないと分からないので動いてみてください。」
「はい。」
20メートルぐらい走ろうと、足に力を入れ一歩目を踏み出したとき、エルミアさんの「キャ」っという声が聞こえた気がした。
20メートルだけと思っていたのにその倍以上走っていた。
ヤバい、全然制御出来ない。
俺が走った跡を見ると、地面が物凄いえぐれていた。
この跡、このままでいいのかな。
そんなことを思いながらエルミアさんの所に戻った。
「全然制御出来なかったです。」
「最初ですからね。それより、その魔法使って走るとき、スカート穿いている人の近くで使わない方がいいですよ。」
「え?なんでですか?」
「なんででもです!」
――あ、そうか、あんだけのスピード出てたら、風も凄いのか。
さっき、エルミアさんの「キャ」っていう声は、捲れて下着が見えたからなのか。
是非とももう一度走って下着を拝んでみたいものだけど、さすがに怒られそうなので止めておいた。
「次のステップですが、今までのは自分の中にある魔力だけを使っていただけです。次は、空気中のマナを使用します。マナは属性ごとに火のマナ、雷のマナという風に存在しています。それを活用することで、魔法を長時間使えたり、強力な魔法を使えたりします。しかしですね、マナを100%活用することは今のところ不可能です。平均だとエルフで50%、人間で30%しかマナを使えていないのが現状です。」
「でも、マナを感じたことがないのに、どうやって使えばいいんですか?」
「1番手っ取り早いのは、マナを感じやすくなる霊薬を飲むことなのですが……高いので無理です。まあこれは一朝一夕では無理なので、徐々に感じれるようになると思います。」
マナを上手く使えるようになれば強くなれるのか。
まあ、焦らずゆっくりと行くか。
エルミアさんも一朝一夕では無理って言ってたし。
「そうなんですね。マナに関しては焦らずゆっくりいきます。雷魔法の練習をもう少ししたいのですが、どんなのがあるか分かりますか?」
「そうですね~。例えば雷で矢の形を作ってそれを放出するとかも有名ではありますね。」
矢か……それならいつも使ってるしイメージするのは簡単だな。
「雷矢サンダーアロー!」
矢の形が出来上がりそれを放出する。
うん、出来るな。
「いい感じですね。」
俺が次にやりたかったのは、剣に雷を纏わせて攻撃力を上げる魔法だ。
剣を鞘から出し、刀身に手を添える。
そして、刀に雷が纏うのをイメージすると、出来た。
「雷装ライソウ。」
俺は基本、接近戦で戦いたい。
だから、オークと戦ったときにもう少し攻撃力を上げられたらと思ったものだ。
「凄いです!魔法にそんな使いがあるとは思いもしませんでした。武器に魔法を纏わせるのは初めて見ました。大抵魔法が使える人は遠距離から魔法を放つだけですからね。これで、バルトさんの接近戦に磨きがかかりますね。」
ここまで魔力を使って気づいた。
体が少しダルいのだ。
「エルミアさん、何か体がダルくなってきたのですが。」
「あ、そろそろなってきましたか。自分の中にある魔力は有限なので、無くなってくると、体にダルさが出てきます。そして、すべて使いきると、物凄い疲労感が襲います。身体中に重りをつけているような感覚ですね。」
「使いすぎには気を付けないとヤバいですね。戦闘中にそんな風になったら死んじゃいますし。」
「はい、それだけは気を付けてください。」
マルスはグリフォン等の戦闘で、魔力を使いきったと言っていた。
つまり、マルスはこれの何倍もキツかったんだろうな。
そんな状態で、盗賊相手にあそこまで戦えるとは驚愕である。
「今日はこれぐらいにしときますか?」
「そうですね。最初ですし。今日はありがとうございました。」
「フフフ、それじゃ戻りましょうか。」
1、2時間ほど魔法の練習をし、エルミアさんと街に戻った。
「このあと、何か予定あります?」
「えっとー、特に考えてはいないです。」
「でしたら、この街を案内しましょうか?まだ、ちゃんと見て回ったこと無いんじゃないですか?」
「そうですね……じゃあお言葉に甘えてお願いします。」
そうして、今日1日はエルミアさんに街を案内して貰った。
いろんな店があって見ているだけでもかなり楽しかった。
「それじゃまた明日ね。」
「はい、また明日。」
夕方、宿屋の前でエルミアさんと別れた。
今日1日で、かなりエルミアさんと仲良くなった気がする。
端から見ればデートと見られていたかもしれない。
宿屋に戻ると、ウィルが出迎えた。
少しご立腹である。
「おや、今帰りかい?遅かったね。」
「少し用事ができちゃって。長い時間ウィルを見てもらってすいません。どうでした?迷惑かけたりしませんでした?」
「大丈夫だったよ。ウィルはお利口さんだったよ。」
「ウォン!」
ウィルは誉められて少し嬉しそうだ。
「それなら良かったです。」
「夕食も食べるんだろ?今準備するからね。」
「ありがとうございます。」
夕食を食べ終え、部屋に戻るとベッドに飛び込んだ。
今日は初めて魔法を使ったり、エルミアさんと出掛けたりと充実していたけど疲れた。
疲れのせいか、いつのまにか眠っていた。