夢現
次の日、私は森の中にいた。
リィーグルが私を見つけた場所。
それは、リィーグルの家からさほど離れた場所ではなかった。
「ちょうど散歩をしてるときに見つけたんだ」
そう言いながら、リィーグルは木の根元を指さす。
「そこに、白いシーツ一枚にくるまって眠るようにディメルがいた」
たぶん、私はここにいた時意識があった。
眠るようにって言うけど、実際目を開けるのがだるくて眠ったのだと思う。
「何か思い出さないか?」
「・・・・・・」
私はリィーグルの問いに答えることができなかった。
何も思い出すことができないのだ。
どんなに記憶を探っても、私にはその先が見えない。
私はゆっくりと首を振る。
「そうか」
リィーグルはポンと私の頭を叩いた。
「まっ、焦ったって思い出せないものはしょうがないよな」
「そうですね・・・」
私は力無く頷く。
「そう、落ち込むなよ。そのうち思い出すさ」
そして、ポンッと頭を撫でてくれる。
わたし・・。
この手を知ってる気がする。
いつもこうしてくれた気がする。
この人は私を知らないのに?
どうして・・・
「・・・。おい。聞いてるか?」
!?
「え。あ、何でしょうか?」
ボーとしてて、全然聞いてなかった。
「だから、街に買い出しに行くけど一緒に来るかってきいてんだよ」
「あ。はい。行きます」
悩んでたって、分からないものは仕方ないよね。
思い出すのはゆっくりで、良いんだから。
うわ~。
すごい・・・人がたくさん!!
こんなにたくさんの人初めて。
広い街道。大きな建物。
私はきょろきょろと周りを見回していた。
「さてと、迷子になるなよ。ディメル」
リィーグルがふざけた調子で言う。
「私、そんなに子供じゃありません」
ムッとしてぷいっとそっぽを向く。
「ごめん。ちょっとからかっただけだよ」
・・・。
私・・。いくつ?年・・・。
私の年はいくつなの?子供じゃない?
大人?
違う・・・大人でもない。
私。いつから生きていた?
生きていた・・・?
「ところでさ、その。敬語は止めないか?」
急に無言になった私にリィーグルが語りかけてきた。
「えっ、私、敬語になってますか・・・って。あれ?」
敬語になってる・・・
こんな言葉遣いしか知らない。
「もっと普通に話せないのか?」
「あ。はい・・・。そうします・・。じゃなくて、そうする」
普通に話せる?
普通に話してた?
誰と?何処で?何時?
・・・。考えても仕方ないって分かってるのに・・・
街の雰囲気とは逆に気持ちが沈むのを止められない。
街は賑やか・・・。私は独り。
一人っきりだ。誰も、私を知らない。
私すらも―――
なんとなく覚えているのは 耳の奥で鳴る機械音。
あれは何?
《何もかも忘れなさい》
忘れる?なぜ?私はダレ?
《忘れてしまいなさい》
そして・・・、悲しく響く声。
ただ、それだけが私の記憶。