6、仕方あるまい
アスーの勇者達の様子を見て、俺はこれなら1号に任せても大丈夫だろうと判断した。
1号の脅し文句を聞いて、怒鳴っていた奴らもすっかり大人しくなったし。何より、力を封じられたうえで生き埋めにされているんじゃほとんど何もできないだろう。
万が一脱走されても分体が一人につき一体くっついていけば居場所の把握だけはできるしな。
『1号、4号に繋いでくれ。ドナートをここに呼びたい』
「おう? それは良いけど、一体何するんだ?」
『貴様はここを黒の使徒の祭壇だと言っただろう? だが、貴様は使徒共をどうこうする奴ではない』
「ならばどこへ行ったのか、ということですね?」
いやぁそんな照れるじゃないか、とくねくねし始めた1号は無視して話を続ける。
察しの良いエミーリオが俺の言いたいことに気付いたようだ。
『そうだ。その向かった先に、暗黒破壊神の手がかりがあるのではないかと思ってな』
「確かにドナート殿は以前、モンスターの足跡から向かった方角を見極めておりましたね」
「あ。俺達、というか生徒達がだいぶ踏み荒らしちゃったけど大丈夫かな?」
『その時はその時だ。予定通りノルドへ向かう』
4号と感覚を繋いだ1号が言うには、今ドナート達はこの祭壇の入り口だった洞窟の近くにいるらしい。少し戻ることにはなるが、すぐに来るとのこと。
オーリエンの勇者達も一緒になってしまうが、これ以上あちらから戦力を引いたらモンスターと遭遇した時守り切れなくなるし仕方あるまい。
「ここに来るまでにそれっぽい足跡を注意してみてみたんだけど、あまり期待しないで欲しい」
暫くして、やってきたドナートの返答は生活痕なのか移動した際のものか判別はできないとのことだった。やはり、と納得しつつ、どこか残念なのは否めない。
だが、ドナートが言うにはもう少し調べたいとのことで。他のメンバーは現場を踏み荒らさないよう離れた場所で待機させているそうだ。エミーリオがドナートの代わりとしてそちらに向かった。
「取り敢えず、内部も少し見て良いか?」
頷くと、ドナートは地面をジッと見ながら進み始め、迷うことなく祭壇へと向かう。
因みにあの分体達は一度全部アスーの勇者を閉じ込めてある部屋に詰めてもらってる。ギッシリ、というかみっちりという擬音がピッタリな有様で、勇者はその中に埋もれて見えない。
ドナートはそんな居住区は無視して、反対側へと進んだ。そして、何もない空間をじっと見たかと思うと、壁を数か所叩き始めた。
『何をしているのだ?』
「うん? あぁ、足跡がね、あっちとここに繋がっていて」
あっち、とは居住区の扉の方だ。扉の方は床がすり減り黒ずむほど行き来が多いから普段使いの部屋だろうと判断したらしい。当たりだ、と先に調べていた1号が答える。
コン、と話しながらも壁を叩き続けると、ここだ、とドナートが呟きぐっとその場所を押さえた。
すると、壁が押戸のように奥へと動き空間が現れた。1号が白い光を放つ球を魔法で出すと、そこは宝物庫のようだった。
「……不自然だな」
『長旅なら金目の物は置いて行かぬからな』
「また戻ってくるつもりだった、とかはないのか?」
ドナートの予想に、1号が少し出かける感覚だったら隠し扉の中の貴重品を持ち出したりはしないと主張する。ドナートはそれも否定する。少し出かけるつもりで、全員は出ていかないだろうと。
祭壇の荒れ具合から、まだ出ていって1年くらいだろうと。それはちょうど暗黒破壊神の復活時期と重なる。ならば出かける目的は暗黒破壊神だろう。
それにしては宝物だけでなく、武器類や食料まで残っているのが不自然でならなかった。
「取り敢えず、いったん外へ持って行って手がかりになりそうな物がないか調べてくれるか? 俺は洞窟の周辺の足跡をもう一度追ってみる」
『あぁ、頼む』
ドナートの指示で、洞窟を出てすぐの一帯に並べていくことに。
ドナートはこの辺り、と足跡を踏んで平気な場所を示すとそのまま行ってしまった。
俺と1号は宝物庫へと戻ってきたが、エミーリオはアルベルト達の手伝いにやってしまったし、どうやって運ぼうか困ってしまった。
「あ、そうだ。あるじゃん、人手。ちょっと待ってな」
1号がどこかの分体とやりとりを始める。
暫くすると、居住区の中から女子が1名、分体に連れられて出てきた。その体と服は土で汚れ、視線はとまどうようにキョロキョロと泳いでいる。
少しぽっちゃりした体型で身長は150㎝ないくらいだろうか。目が隠れるくらいの前髪に、肩甲骨の辺りまで伸びた髪のせいかもっさりした印象だ。
「リージェ、この子は増田。美術部だった奴だ。増田、この竜はリージェ。聖竜だ」
「あ、よ、宜しくお願いします。それと、今まですみませんでした」
『ああ、宜しく頼む。さっそくだがこの中の物を運び出してくれ』
1号は俺が彼女を覚えていないと踏んで紹介してくれた。それはその通りなのだが、実は彼女の存在自体は認識してはいた。
日本での彼女は全く記憶にない。しかし、感じの悪いアスーの勇者達の中で、少し後ろの方で周りに無理に合わせたように行動しているのが目についていたのだ。
生き埋めにしておいて彼女を解放するということは、やはり1号も気づいていたのだな。
と思ったのだが、次の彼女の言葉に俺は絶句してしまった。
「あの、これ、全部運びます。だから、終わったら、谷岡君達を許してあげてもらえませんか?」