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第13話 回復薬の効果

 少し遅くなってしまったけど、二時までにはプリの家を訪れる事ができた。

 どうせ王都観光するんだから、食べ歩きもあるよってマイアに言ったんだけど、昼食は食べますって聞かなくて、部屋で昼食を一緒に食べたよ。

 ユーは食べたらしいけど、美味しく無かったという理由で、やっぱり一緒に食べた。
 いやいや、美味しく無くても気の済むまで食べたんだろ? だったらいいじゃないかって思うのは俺だけ?

 マイアと一緒に、食べ過ぎた~と苦しがるユーも連れて、プリの家の扉を叩く。
 迎えに出て来たプリ、ホント可愛い~。
 マイアと並んでも遜色ないからね。マイアって上位精霊なんだよ? 今はオーラを隠してくれてるけど、それでも美しいのには変わりない。
 ユーだってダイナマイトバディを除いて顔だけで勝負しても十分可愛いのに、この二人の前では霞んでしまう。
 今の所、ユーは色気より食い気みたいだし、本人もあまり気にして無いみたいだしね。

「じゃ、行きましょうか」
 さっそくプリが案内してくれるようだ。

「どこに連れて行ってくれるの?」
「お昼だから、まずは食事はどう?」
「えーと……プリはまだ食べて無いの?」
「ええ、皆と一緒にと思って」
「そ、そうなんだね。こっちはユーが食べちゃって。軽めの所なんかある?」

 もう無理っす~と呻く後ろのユーを見て苦笑いの俺。
 俺も今すぐには食べたくないけど、ユーをだしに使わせてもらおう。

「じゃあ、屋台が多く出てる所があるから、そこに行きましょうか。そこも王都で有名だから」
「あ、いいね。じゃあ、そこでお願いします」

 今いる場所から冒険者ギルドに行く途中に大きな交差点があり、それを曲がるとすぐに屋台が始まった。
 ずーっと屋台が続く通りで、名前も『東屋台通り』まんまだった。
 色んな焼き物の匂いがして、昼食を食べた事もあってか、匂いだけで更にお腹が膨れる気がした。ユーなんか、ギブギブと言って、俺の肩にずっと右手を置いて寄りかかっている。左手は口を押えてるよ。

 まぁ、見事に焼き物だけだった。
 串焼きや鉄板焼きの違いはあっても、すぐ食べられる物は焼いてる物ばかり。
 偶に飲み物を売ってる所と、素材をそのまま売ってる所があるぐらいで、よく似た食べ物屋が多かった。

 逆の通りだとアクセサリー屋もあるらしいけど、この通りは食べ物に関する物のみの通りなんだって。

 道もここはあまり綺麗ではない。食べかすや串など、ゴミがよく落ちていた。
 ゴミ箱も用意して無いようだし、日本のようには行かないか。

 だからか、ネコや犬の姿もチラホラ見かけた。一匹だけ犬? かと思う程デカいネコがいたけど、サッとどこかへ行ってしまった。
 デブ猫のクセに素早かったよ。

 俺達は腹ごなしも兼ねて散歩がてら見て回ってるけど、プリはバンバン食べている。
 少し遅れた事と、ユーが食べてしまってお勧めの料理屋さんに連れて行けなかったと悔しがってたプリに、お詫びの印におごるよって言ったら、もう遠慮なしに食べまくっている。

 こういうのってギャップ萌えって言ってもいいと思います。

 さっき、白金貨単位で儲けて来たからね。銀貨一枚もしないものばかりだし、どんどん食べてもらってもいいんだけどさ。
 さっき銀貨一枚を渡したら、お釣りだよって銅貨と一緒に鉄貨という薄い貨幣を渡された。
 鉄貨百枚で銅貨一枚みたいだ。
 フィッツバーグにもあったのかな? 見た事がないけど。

「あ、すいません」
 鉄貨を眺めながら歩いてたら向かいから歩いて来た男の人と肩がぶつかった。
「ああん? 痛ぇーじゃねかこの野郎!」
 あ、フラグ。いや~まさかぁ、こんなベタベタな。

「おー! いい#女__あま__#ぁ連れてんじゃねーか。おお? 三人も連れてんのか、一人ぐらいこっちに寄こしな」
 あ、イベント発生の予感?

「おー、どしたい」
「あ、兄貴ィ!」
 イベント発生?

 長身痩躯の悪っぽい奴に絡まれた後、大柄で片目に眼帯をした隻腕の兄貴と呼ばれる男が出て来た。
 こりゃイベント発生っぽい。大体すぐに兄貴が出て来るはずがないもんな。どこかから見てたんだろ。

 どうしよ、こっちは強いとはいえ女が三人いるし、先に逃げてもらって……おい! ちょっとー!

 プリはそろそろ串から手を離さないか? ユーは『いい#女__あま__#ぁ』に反応して照れてる場合じゃないだろ! マイア! デブ猫はもう放っておけ! そいつ意外と素早いから捕まらないって!

 なんなの、この緊張感の無いうちの三人は。緊張してんのは俺だけじゃないか!

「#兄__あん__#ちゃん、なんだか楽しそうだな。なんか、うちの若けぇもんと揉めたみてぇだが、勘弁してやってくれ。おいっ! 素人さんにぁ迷惑かけんなっていつも言ってんだろ! 何やってやがんだお前ぇはよ!」
「へいっ! すいやせん!」

 え? 実はいい人? あんなに怖い顔してるのに?

「おい! 行くぞ!」
「へい! 兄貴ィ!」

 へ? あれ? イベントは?
「あ、あのー」
「あん? なんでい! まだ不足でもあったかい?」
 しまった! イベントが発生しなかったから、つい声を掛けてしまった!
 何やってんの俺は!

「い、いえ、とんでもない」
「流石に土下座はできねぇぞ?」
「いえいえ滅相も無い。そうじゃなくてですね。そ、その……」

 あっ! そうだ!
「その、親分さんにちょっとそこの脇道で渡したいものがありまして」

 親分さんっていい人みたいだし、前から試したかったものを試してみよう。
「ほ~そうかい。俺は親分じゃねーが、見た目通り強ぇーぞ? 撤回するなら今のうちだぜ?」

 何か勘違いさせちゃったかな?
「いえ、ちょっと付き合ってほしいんです。渡したい物があるんで」
「ほ~、わかったぜ、意外と骨のある奴みてぇだな。おい、お前ぇらは手出し無用だ。わかってんな」
「へい!」

 いつの間にか子分が五人に増えていた。
 なんか喧嘩する流れになってる? そんなつもりで言ったんじゃないんだけど。

 先に親分さんが脇道に入って行く。俺も後を付いて行った。路地のように狭くも無いし突き当りでも無さそうだ。でも、人通りは少なく、今は誰もいないようだ。
 
「さぁいいぜ、どっからでもかかって来やがれ!」
 いえ、喧嘩なんかする気は無いんで、掛かって行きませんけど。

 俺は収納ポーチからマンドラゴラから作られたマイア特製の回復薬を出した。
「あ~ん? なんでい、男なら武器なんか持たねぇで拳一本で掛かって来やがれってんだ!」
 そう言って親分さんは右腕しかない腕を前に突き上げる。

「あの、なにか勘違いされてますけど、勝負なんかしませんからね。はい、これを飲んでください」
 今にも戦闘になりそうだからさっさと渡して誤解を解こう。

 あれ? 違ったかな? そうか、間違った。部位欠損は丸薬を生やしたい所に植えてHPかMPの回復薬を振りかける、だった。

「なんでぃ、毒じゃねーだろな」
 疑いつつも親分さんは渡された小瓶を一気に飲み干した。10cc程度の小瓶だから小さな子供でも一気に飲める程度しか入って無い。

「すいません、間違えました。まずこれを付けてからふりかけ……え?」
「ぐっはあああぁぁぁぁ! 目がぁ目があああぁぁぁぁ!」
 ええ! 目? 目がどうしたの。
 親分さんの絶叫が通路に響き渡る。
 
 えー! これって回復薬じゃ無かったの?
「小僧! お前ぇ、何飲ませやがった!」
 いえ、回復薬ですけど。マイアの自称ですけど、よく効く幻の回復薬のはずなんですけど。

 ブチッ!
 親分さんが眼帯を引きちぎった。

 ガシィ!
 その勢いで俺の両肩に掴みかかった親分さん。

 あれ? 衛星が反撃しなかった。じゃあ、これは攻撃じゃ無いの?

 両肩を力強く掴まれて動けない。
 両肩? え?

「おい小僧! これは何の薬だったんだ!」
「えーと、回復薬?」
「誰に聞いてやがんだ、何かと間違えたんじゃねーだろうな。だが、それでも構わねぇ。何なんでぃ、見ろよこの腕! 俺の腕があるんだぜい! しかもそれがよーく見えんだ、両の目で見えるんだぜー!」がーっはっはっはっはー

 親分さんは俺を抱き上げ何度も一人胴上げをする。
 小さい子じゃないんだから、高い高いされても嬉しくないって。
 うわー! まってキスは辞めて、それだけは勘弁して。これならシェルの方がマシだー!

「兄貴ィ! この小僧が悪りぃとはいえ、もうちょっと手加減してやれば……」
 親分さんに揉みくちゃにされ横道から戻って来ると、クタクタのヨレヨレになってる俺を見て、そんな言葉を掛けて来た。
 HPは全然減って無い、フル状態だ。でも瀕死状態に近いほど疲れた。

「あれ? 兄貴、トレードマークの眼帯がありやせんぜ」
「ああ、もういらなくなった」
「え? どういう事ですかい?」
「今日から俺とこのイージとは五分の兄弟になった。いや、六分四分で俺が舎弟だ。お前ぇらも忘れんじゃねーぞ!」
「「「へい!」」」

 一頻り無茶苦茶にされた後、豪快にお礼をされ、兄弟になろうと持ちかけられた。
 もちろん即座にお断りをしたが、ファミリーとは関係ない義兄弟として結んで欲しいとDOGEZAされた。

 俺がうんと言うまでこの場から動かねぇって言われたから渋々OKしてしまった。
 親分さんの名前はオージュロス、ファミリーのナンバースリーで親分では無かったみたい。
 通り名は『ワンパンオージ』と呼ばれているそうだが、王子様とは遠くかけ離れた容姿なんだけどな。

 「オージとイージで本当の兄弟ぇみてぇじゃねーか」ってご機嫌で話してくれたけど、俺は苦笑いしかできなかったよ。漫才コンビじゃねーっつーの!

 今から宴会をやるから来いと言われて四人でお邪魔する事になった。
 完全強制だったよ、拒否権無し。

 普通は部位欠損を回復する場合、超高価な『エリクサー』か、超高位魔法の『#聖なる__ホーリー__##神の祝福__ゴッドブレスユー__#』だそうだが、どちらも超破格なんだそうだ。
 呪文が破格って言うのもおかしいけど、使える司祭職の人が国に一人しかいないそうで、超高額の寄付金が必要なんだそうだ。
 エリクサーもあると聞いた事があるだけで、王都民で見た者などいない。実際にあるかどうかも怪しいそうだ。王家の者なら見た事もあるかもしれねーなって言われちゃったよ。

 蘇生魔法や蘇生薬についても聞いてみたけど、大昔にはあったと伝えられているが、今は夢物語でしかないそうだ。

 だったら衛星に言って、その魔法書を作ってもらおうかな。

 そんな薬を俺があげたもんだから、大喜びするわけだな。
 お金が払えないから誤魔化された気もするけどね。
 人間、金じゃねーんだって言ってたから。でも、恩を感じてくれてはいるみたいで、何かあったらいつでも言って来いって言われたよ。
 何も無くても来るんだぞとも言われたけどね。

 もう一つ気になったのが、あの雄叫び。
 痛かったのかって聞いたら気持ち良かったんだって。
 あれだけの絶叫をする気持ち良さか……ちょっと試してみたいけど、手を斬るとか目を潰すなんてゾッとするよ。
 
 マイアにも確認したよ。
 部位欠損は丸薬じゃ無かったのって。
 マイアクラスを基準に考えたらそうらしいんだけど、HPが500程度のオージだったら部位欠損も回復すると説明された。

 それって、一般住民なら誰でも部位欠損を回復できる薬って事じゃ無いの? 先に言っとけよ。
 今後、考えて使わないとね。

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