第12話 買い取りはどっちで
朝食を摂る為に来た一階の食堂に、昨日出会ったロンド姉弟が待っていた。
俺の居場所を探すのなど簡単な事だそうだ。
王家に招待されて王都で泊まる冒険者や貴族は、まず今俺達が泊まっている宿を使うそうだ。
貴族なら系列の屋敷に泊まる事もあるだろうが、冒険者はよっぽどの事が無い限りこの宿に泊まるのは、国家公認冒険者だと分かった時点でバレていたのだ。
だったら、昨日の帰りに「どこに泊まってるの~」なんて言うなよ! バレてないって思い込んでたよ。
「此奴らは何者じゃ? なかなか面白そうな奴らのようじゃのぅ」
薄めをしたクラマがロンド姉弟を見定めるように眺める。
「昨日、知り合ったんだけど、冒険者なんだって。一人は王都公認冒険者なんだよ」
説明としては間違ってない。余計な事は言わなくてもいいよな。
マイアは興味ないのか、さっさと隣のテーブルに座ってしまった。
「ちょ、ちょっとクラマ」
「知り合いなのじゃろ? よいではないか」
クラマは興味があるのか、シェルの隣に座ってしまった。俺はクラマを放っておくと大変な事になりそうだし、マイアを誘ってプリとシェルのテーブルにお邪魔した。
「おはようございます。今日はどうされたんですか?」
クラマが座ったとたん、緊張した感じのシェルには気にせずプリに話しかけた。
なにか分からないけど、シェルは黙ってるから触らない方がいいでしょ。話し出すと喧しいからね。
「おはよ、ちょっとお誘いにね。一緒に依頼を受けないかと思って。冒険者ギルドで待ってたんだけど、まだ来そうも無かったんで来ちゃった。私は一応止めたんだけど、私も会いたかったし、結局は賛成して一緒に来ちゃったの」
可愛い……
昨日の燥ぎっぷりからは考えられないけど、あれはシェルが騒いでたからってのもあるよな。
なぜかシェルが今は大人しくしてるから、ゆっくりとプリを堪能……無理っす。ジッと見続けるのは恥ずかしいっす。
「こちらの二人はイージのメンバー? 紹介してもらえるかな?」
首を少し傾けて尋ねてくるプリ。
可愛い……
紹介っすね。はい、喜んでー!
「えっと、こっちがマイアで、シェルの隣がクラマ。二人共Aランクなんだ。あと、まだチームには登録してないけど、ユーっていう女の子もいるんだ。ユーは昨日までCランクだったけど、もしかしたらまた上がってるかも。マイア、知ってる? あ、こっちはプリームさんでそっちはシェル君ね」
レベリングは昨日もしてるから、上がっててもおかしくないよな。昨日はGからCに上がったもんな。
お互いの名前だけ紹介したけど、マイアはあんまり興味が無さそうだ。
その分、クラマが妙にシェルに食いついてるね、なんでだろ。
「はい、Aになるって言われてましたね」
まるで興味無さそうにマイアが教えてくれた。
クラマもマイアも人間のする事なんて興味無いもんね。うん、一人で黙々と食べてるもん。
クラマはどうしたんだろ、シェルに興味を持ってるみたいだけど、シェルの様子もおかしいんだ。額から汗が出てるのも見えるし、普通じゃないな。
「A!? 一日でCからAに昇格するんですか?」
驚くプリの声でクラマ達から目を離す。
「えっと、はい、そうみたいです。正確にはGから二日でAですけど」
「ええ!? 何をしたんですか?」
何をしたんだろね、ダンジョンに行ったとしか聞いてないけど。
「ダンジョン?」
マイアに尋ねたらゆっくり首肯してくれたので、そのままプリに説明した。
「ダンジョンでの功績を認められたみたいですね」
もう一度マイアを見たが、もうこっちを見てなかった。食べる方が大事みたいだ。
マイアは食いしん坊じゃ無いのにな、よっぽど興味の無い話なんだな。
「どんな事をしたらそんなに……」
まぁ、スパルタなレベリングだろうね。昨日も一昨日もくたくたになってたからね。
「それより一緒に仕事ってどんな仕事なんですか?」
あまり探られるのもね。こっちは秘密が多いチームだから。
魔物に精霊に勇者って、どれも言いたくないよ。
「え? あ、そうですね、依頼でした。実は採取依頼があったの、ちょっと場所に問題があって一緒に行ってくれないかと思って誘いに来たの」
「採取依頼ですか?」
採取依頼ならいいかな?
「ええ、イージはAランクだって言うし、手伝ってもらえないかなって思ってきたの」
「うん、別にいいんだけど、少し用事があるんだ。昼からならいいんだけど、どうかな」
さすがにもう商業ギルドに行っておかないとね。いつまでに行かないといけないってないし、予定より早いぐらいなんだけど、忘れてしまいそうでさ。
「昼から……外での泊まりは避けたいんだけど、何とか間に合うかな?」
「じゃあ、明日にする? 僕の方も昼までに終わるかハッキリしないし、明日の朝からにしようか?」
「そうね、だったら今日の昼は王都の案内でもしましょうか?」
「ホント! それは嬉しいな、お願いしてもいい?」
「ええ、喜んで」
「ありがとう! クラマとマイアはどうする? ユーも一日ぐらい解放してあげてもいいんじゃない? あ、こっちの仲間も一緒でいい?」
ニッコリ笑ってオッケーしてくれるプリ。
マイアがプリをジッと見た後、同行すると答えた。
今の間はなんだろ、何か意味があったのかな? 顔は笑ってるけど目が笑ってないような……
「#妾__わらわ__#は此奴とダンジョンじゃ。ユーはもうよいのじゃ」
「え? シェルを連れて行くの? ユーはいいって、もう卒業って事?」
「言葉のままじゃな。#妾__わらわ__#と此奴は今からダンジョンじゃ」
「今からって、シェルの方はいいの? 装備は着てるみたいだし、クラマと一緒なら安全だと思うけど」
「よいのじゃ、のぉ!」
バンッ! と肩をクラマに叩かれたシェルが力無く肯く。
プリに目で確認したけど、肩を竦めるだけ。プリにしたらどっちでもいい感じだ。
なんなんだろ。
クラマがシェルを連れて出て行くと、交代でユーが入って来た。
「おまたせ~」
「あ、ユー。紹介するよ。こちらこの王都のCランク冒険者のプリームさん、プリって呼んでる。こっちはユーです」
「はじめまして~、ユーです」
「こちらこそ、プリーム・ロンドです。プリと呼んでください」
紹介も終わったし、ユーにも聞いてみるかな。
ユーの朝食を頼むと今日の予定を聞いてみた。
「ユーは今日、何か予定があるの? 昼からプリが王都見物の案内をしてくれるって言うんだけど、一緒に行かない?」
「え~、楽しそう! 行く行く。昼からだね、だったら冒険者ギルドで用事を済ませる時間があるわね。食べたらすぐに行って来るわね」
「あ、ランクアップの手続き?」
「そう、ホント二人の指導はスパルタだから、もう大変よ。でも、レベルも上がったし、ランクも今日からAだし、二人に指導してもらって良かったと思ってるよ。もう行きたくないけどね」
「やっぱり卒業?」
「うん、後は自分で頑張れって。キッカさんってエイジの仲間にいるんでしょ? その方もそうだったってクラマさんが言ってたよ」
確かに、ある程度上がったらクラマはノータッチだったね。
でも、あの三人は二週間ぐらい鍛えられてたような気がするけど。
ユーの場合は勇者チートのスキルがあるからレベルアップも早いもんな。だからかな?
プリには家で待っててもらう事にして、俺は商業ギルド、ユーは冒険者ギルドで午前中に用事を済ます事にした。マイアは俺に付いて来るんだって。
昨日、行きそびれた商業ギルド。
受付に行き、自分の番になり商業ギルドのカードを見せると、すぐに対応してくれた。
受付の後に沢山いる職員から、一番奥の席に座っていた男性がやって来て、別室へと誘導された。
別室に入り、お互いの自己紹介が終わると、今回の用を話した。
因みにマイアは受付の辺りを散策すると言っていたのでここには入って来てない。
「では、フィッツバーグ領特産の小麦を売りたいという事でございますね?」
「はい、そうです#副__サブ__#マスターさん」
この人、商業ギルドで二番目に偉い人でした。
セシールさんには馬車一台分ぐらいの収納バッグを買って入れて行けって言われたけど、買わずに衛星に作ったんだよね。
しかも五十個も。
だって、【星の家】に小麦が余りまくってるんだよ。農業ギルドで売る分は、売り過ぎてもダメなんだって。一か月に二回持って行っても五トンしか捌けない。自分達で食べる分を除いてもどんどん収穫した小麦が増える一方なんだ。
倉庫にも入り切れなくなるから俺の収納の肥やしになっている。
ジャガイモはもっと余ってるよ。
だから今回は収納バッグ二五個ずつ小麦とジャガイモを入れて来た。馬車五〇台分だね。
フィッツバーグ領の特産品かと言われると違う気もするけど、フィッツバーグ領で穫れたものには違いないんだからいいよね。メイド・イン・フィッツバーグには違いないんだから。
「この小麦なんですが」
収納バッグを一つ出し、その中から一握り分の小麦を机に出した。
「ほぉ、これは良質な小麦ですね」
「あと、ジャガイモもあるんですが」
別の収納バッグを出し、そこからジャガイモを三個出した。
「ほぉ、こちらも良い出来ですねぇ」
「ありがとうございます」
「他には?」
「え? いえ、これだけですが」
「そうですか」
え? 急にどうしたの? なんか、雰囲気まで変わって無い?
田舎者がって小声だけど聞こえてるよ?
「このような品でしたら本来なら農業ギルドへ紹介するのですが、Aランクのギルド会員であれば無碍にもできませんな。次回からは直接農業ギルドに行く事をお勧めしますよ」
そりゃ確かにそうだろうけど。でも、言い方がねぇ。何ならいいんだろうね、商業ギルドは何でも扱うって聞いた気がするんだけど。あ、量か。薬草でも大量なら扱うって言ってたよな。
「そうだったんですね、初めて王都を訪れた田舎者ですのでご容赦を」
仕方ありませんな。と言って、収納バッグ一袋ずつ買い取ってもらった。収納バッグ毎の買い取りならと、中身は両方で金貨一枚、フィッツバーグの町の農業ギルドの半値だった。
収納バッグも金貨一枚だったので、ここでは金貨三枚を受け取った。
次回からは農業ギルドに行きますからと場所を教えてもらって、さっさと商業ギルドから出て来た。
ここに来たのはセシールさんへの義理を果たすためだけだから、別に儲けとかいいんだ。
でも、ちょっと頭に来たから残りは農業ギルドで買い取ってもらおう。
実は一番沢山持ってるのは砂糖なんだよね。
同じ馬車一台分の収納バッグで一○○個。クラマとマイアがバカほどサトウキビやてん菜を作るんだもん。もう、余って仕方が無いんだよ。
【星菓子】でケーキを作る分と、農業ギルドで少し卸す分の何十倍と余るんだ。今回用意した収納バッグに入ってる以外にもメチャクチャ余ってるんだよね。
流石に今回の分の砂糖の精製は自分でやったよ。【星の家】の子達には悪いからね。
自分でやったと言っても衛星にやってもらったんだけどね。
その足ですぐに教えてもらった農業ギルドに行き、残りの小麦とジャガイモを中身だけ買い取ってもらい、フィッツバーグの相場より高い一袋分で金貨三枚で売れた。
やっぱりそうだよね、王都の方が物価が高いはずだもん。金貨144枚GETだぜ~!
対応も凄く愛想よくしてもらったから、更に砂糖を出してみたら五〇袋は欲しいと言われたので、そのまま売ってあげたよ。
なんと、一袋分で金貨五〇枚。
また白金貨が増えちゃった。
小麦やジャガイモを売った喜びが半減しちゃったよ。
後日、この情報を商業ギルドが嗅ぎつけて、あの副マスターさんがどうなったかは興味が無いから知らないよ。
さ、プリの案内で王都見物だね。