第11話 ロンド姉弟
ようやく落ち着き話し合えるようになった。
さっきまでは俺が椅子に座り直すと、すかさず両サイドに二人が座って来るんだよ、話し辛いって。
なんとか向かいに二人で座ってもらったので、ようやく話ができるようになった。
こういうオチだったのか。プリだけならいいのに、とつくづく思うのは普通だよな?
とにかくだ、こんな運命は認められない。ここはハッキリと言ってあげないとな。
「申し訳ないんだけど、俺は普通に女性が好きなんです。申し訳ありませんが…」
もう話し方も普通にできるし、プリも呼び捨てできるようになった。
こんな雰囲気だからね、まだ少し遠慮はしてるけど、敬語を使うのがバカらしいよ。
「初めはみんなそう言うのよ~。大丈夫、あたしがリードしてあげるから」
「ダメよシェル。イージは女性が好きだって言って困ってるじゃないの、今回は私に譲りなさい。前回は私が折れてあげたでしょ。いつも私が譲ってあげてるのは大本命が現れた時に絶対譲りたく無かったからなの」
ぞぞぞ~。すでに犠牲者が出てたのか。これは絶対に逃げ切らなければ。
なんかいい事も入ってる気がするけど、どうやって逃げるか考えるのに精一杯で他の事を考えてる余裕なんか無いって。
「ダメよ~、あたしの好みは知ってるでしょ。あなたとは少し違うのよ」
「あなたこそ私の好みを知ってるでしょ。今回は譲らないわよ」
「ノンノンノン、あなたの好みは黒髪黒目で弱そうで守ってあげたいタイプでしょ? あたしも大体は同じだけど、あたしの場合は守ってほ・し・い・の。彼、こう見えて凄いんだから~」
パチンとウインクをしてくるシェル。
ぞぞ
なんか言い方がもうアレなんですけど。俺の何がどう凄いのか、具体的に言ってください。
「そうなの? イージって強いの? ぜーんぜんそうは見えなかったわ」
ええ、そうでしょうそうでしょうとも。もう身に染みて分かってますよ。どこでも言われ続けてきましたから。
「彼って、こう見えて国家公認冒険者なのよ。しかもこの国で初めて魔族鑑定をしたの。凄くな~い?」
「うそ。国家公認冒険者って言ったらシェルより上じゃない。しかも魔族鑑定? それって勇者様でもできなかったんでしょ?」
なんかもうグダグダだな。俺が口を挟む隙がないよ。
勇者も鑑定できなかったの? あとでユーに聞いても分からないかなぁ。
「そうなの、勇者様っていつも最後は魔族を倒しちゃうでしょ? 鑑定もあまりしないみたいだし。倒しちゃったら鑑定水晶でも見れなくなっちゃうのに絶対に#止__とど__#めを刺しちゃうのよね~。そこがまたス・テ・キなんだけどさ~」
シェルは勇者を思い浮かべてるのか、うっとりした顔をしていた。
勇者はシェルを受け入れてるのか? 正に勇者だな。
確かにシェルも美しい。油断すると見惚れてしまいそうなぐらいだ。いやいや、気をしっかり持てよ、俺! ここが踏ん張りどころだ。
プリと甲乙付け難い容姿をしているからホント油断できないな。双子なんだし当たり前なんだけど。美しいからリアルに女みたいだし、間違う男もいるよね、きっと。
けど、シェルは間違いなく男なんだ。いくら好かれても俺が彼を好きになる事はないと断言できる。色々と自信の無い俺だけど、これだけは譲れない。
「そうよ、あなたは勇者様がいるんだからいいじゃない。イージは私がもらうわよ」
「ダメよ~、勇者様もいいんだけど、あの俺様な所もいいんだけど、見た目がダメなのよ」
「それはわかるわ。でも、勇者様もイージもなんて許せないわ。あなたは勇者様と一緒じゃ無ければ国都からも出られないんでしょ? だったら勇者様一本に絞りなさいよ」
勇者って醜男なのか? この二人のタイプとか知らないけど、揃って容姿を貶すなんて相当酷いのかもな。
「だいたいイージが国家公認の冒険者だったら王都にジッとしてないんだから、あなたには無理でしょ。諦めなさい」
「それはそれよ~、愛の力で何とかなると思うの。あんな呪われた力なんて、イージとあたしの愛の力で乗り越えてみせるわ!」
なに? 呪われてんの? いや、十分に呪いが発症してるとは思いますが、これ以上になんかあんの?
そんな俺の疑問にはプリが教えてくれた。
「あ、呪いってそんなに怖いもんじゃないのよ。この子の場合は、私の家の直系男子だから持ってるもので、月夜で変態しちゃう体質でね、紫の月の時は勇者様がいないと自我も無くなっちゃうの。今回の魔族と討伐には連れて行ってもらえなかったから、暴れないように城の牢に入れられてたのよ」
さら~っと重大発言をしてない? 変態っすか……色んな意味が重なってるんすね。
そんな事、俺に言ってもよかったの?
「変態って……そんな大事な話を俺にしてもいいんですか?」
「ええ、別に秘密にはしてないし、王都では私達の実家のロンド家は有名よ。ただ、この子の場合は紫の月の影響が大きすぎて……でも、そのおかげで勇者パーティに参加できてるんだけどね」
「変態って…んも~、そんな目で見ないでよ~、照れるじゃない~」って巫山戯た事を言ってるシェル。
全然褒めてねーし、もうスルーでいいだろ。
「因みにどうなるか教えてもらっても?」
「ええ、結構男らしくなるのよ。今とは別人みたいにね」
性格的なものじゃなくて、容姿の方が知りたかったんですが……。
「姿の方は?」
「え? そっち?」
そっち以外で聞く気はありません。
「いや~ね~、イージも人が悪いのね」
そんな話し方したら、どっちがどっちか分からなくなるよ。
「体長三メートルの#狼男__ウルフロード__#になるの。昼は本領発揮までとは行かないけど、満月の夜は強いわよ~。身内の私でも引いちゃうぐらい強くなるの」
月で狼っすか、そこはベタなんすね。
「でも、そのせいで今回は置いて行かれちゃったのよね~。今回の探索場所が洞窟だったのよね、大きくなると崩れちゃうでしょ~? でも、そのおかげでイージに出会えたのよ、もう運命としか言えなくなくなくない~?」
うぜぇ。
「でも、勇者様と離れた事によって牢で過ごす事になるのはいつもの事だけど、わが弟ながら不憫に思うわ」
「いいのいいの、子供の時に比べれば勇者様が一緒にいれば牢に入らなくても済むんだから~」
勇者の力ってそんなのもあるんだ。やっぱり勇者って凄いんだ。
「勇者様って凄い力を持ってるんですねー」
「違うわよ~、勇者様が王様から頂いた指輪に力があるの。この国の唯一つしか無い『月の指輪』を持ってらっしゃるのよ~。その指輪のおかげであたしは暴走せずに済むってわけ。わかった?」
なるほど、そんなアイテムがあるんだね。でも、説明の後に投げキッスはいらないんだよ。
そろそろ帰らないと、本当にヤバくなりそうだ。これ以上はちゃんと線引きした方がいいよな。
「あの~、そろそろ帰らないといけないんだけど……」
「何言ってんのよ、今日はここに泊まって行きなさい。夕食も一緒にするのよ」
「流石に泊まれとまでは言えないけど、夕食ぐらいはどう? 食べて行かない?」
泊まって行けというシェルに対して常識的な提案をしてくれるプリ。
ここで、夕食をお呼ばれしてしまうと、ズルズルと行ってしまいそうな気がする……
「すみません、連れもいるので帰らないと皆がこまりますので。嬉しいお誘いなんですが、また日を改めましょう」
「そうね、今日は急だったものね。仕方が無いわね」
そう言ってようやく送り出してくれたプリの後では、「日を改めるってあした?」とか「どこに泊まってるか教えなさいよ」とか「連れって女じゃないわよね」とか煩いシェルを振り切って宿への道を急いだ。
やっと帰れるよ~。怖かったなー。プリとは友達になりたかったけど、あんなのが付いてるんじゃ無理だよ~。
でもプリは綺麗だったなぁ、見た目は美人だから凄くクールに見えてたのに意外と気さくな感じで最後は話しやすかったなぁ。冒険者だからっていうのもあるのかな? Cランクっていってたもんな。
そのプリにそっくりなシェルか……いやいやいやいや、あれは男だから、いくら綺麗でも男だから。
色々と聞かされた事もあったし、聞けなかった事もあるけど……全部忘れよう。
もう関わり合いになるのは辞めた方いいと思う。俺の危機管理能力が全開で警鐘を鳴らしているよ。
さっきのあれを完全ロックオン状態って言うんだろうな。気を付けよう。
宿に戻ると昨日と同様ユーはダウンしていた。
今日も非常にお疲れのようだ。
俺達は夕食の為に宿の一階食堂へ行くつもりだったんだけど、クラマとマイアの要望で部屋で食事をする事になった。
やっぱり二人にもここの食堂の味はイマイチらしい。
俺に作ってほしいと言われたから、俺も衛星の作る美味しい料理の方がいいから衛星に頼んで料理を作ってもらった。
今日のメニューはサバの塩焼きとみそ汁とご飯。質素かと思うかもしれないけど、肉ばっかり続くと魚料理が食べたくなるんだよ。
それは二人も同じだったのか、ご飯もサバの塩焼きもみそ汁もおかわりしてたよ。
ユーの方は昨日で懲りたのか、風呂は朝入ると言ってすぐにバタンキューだった。
食事も摂らずに寝ちゃったね。夜中にお腹が空いて起きたら、俺の事を起こすようにメモでも書いておこう。
そんな心配は必要なかったみたいだ。ユーは朝までグッスリだったようで、朝食に行くからと起こされるまで寝ていた。
俺達は先に食事をするからと、朝風呂に入るユーを置いて先に一階食堂へ向かった。
「あら~、遅いのね~。冒険者は早起きじゃないと務まらないわよ~」
「ごめんなさい。この子がどうしても行くって聞かなくて」
「……」
なんでいるの? 場所は教えて無いよ。
なんで昨日のロンド姉弟がいるの! 何しに来たのー!
俺、ピーンチ!