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第06話 魔人の尋問

 ジュレ公爵に連れて来られたのは、さっきの本館から出た別塔の地下室だった。
 四階建ての塔だったから最上階にいるのかと思ったら地下だった。
 地上階だと逃げられる恐れがあるからだろうね。

 護衛の#全身鎧__フルアーマー__#の騎士五名に案内されて来たのは地下に下りた扉。
 門の所にいた人達もそうだけど、この人達って騎士でいいよね? #全身鎧__フルアーマー__#で歩兵って事は無いだろうから騎士だと思うんだけどな。
 でも、城にいるんなら#重装歩兵__ベヴィソルジャ__#かもしれないか。騎士の方が言いやすいから俺の中では騎士と呼ぼう。だって#重騎兵__ヘヴィカルバリ__#の方が格好いいしね。

 扉には先に入るように促され、一番目に入る事になった。
 なんで先頭なんだよ! そりゃ引き受けたのは俺だけど、魔族の前に行くまでは案内してくれたっていいじゃん! そりゃ、ガッチャガッチャ煩いとは思ってたけど、口に出して言ってないじゃん。サービス悪いよホント、俺のビビり度をなめんなよ!

 小声で「お邪魔しまーす」と言って、扉をそーっと開けてはいると牢屋が三つあった。
 扉のすぐの前の牢には俺と同じぐらいの少女? …いやたぶん少年だと思う人が入っていた。
 だって胸が#開__はだ__#けてるし、男の胸で間違いないと思う。
 白髪のようにも見えなくないけど、キラキラした髪をしている美少年だった。これが噂のプラチナブロンドってやつか? 凄っごく綺麗な髪だよ、顔も男のくせに美人って感じだしモテるんだろうなぁ。俺とは違う世界の住人だな、それこそ異世界人って感じだ。

 その美少年が口元に少し微笑みを浮かべた。

 ゾクッ!

 今、背筋に走ったのはなんだ? こいつ……ヤバそうだよ、魔族では無さそうだし、今回の件に関係無さそうだから見なかった事にしよう。うん、そうしよう。

 真ん中には縄でグルグル巻きにされた奴が寝転がっていた。寝てるのかな? 目が開いてないから寝てるのかも。
 こいつは見覚えがあるな、偽領主様と一緒にいた魔族の奴だ。確か何か吐こうとして衛星にアッパーカットを食らって口内で爆発して気を失ったんだよな。
 歯がボロボロになってたと思うけど、もう治ったのかな?

 次もグルグル巻きだな。だったらこっちが偽領主様だった奴か。
 あれ? だれ? こいつはだれ?
「ん? おおお! 貴様はー!」
 向こうは俺の事を知ってるみたいだな。でも、見た目が三〇歳過ぎぐらいだし、こんな顔の人なんか知らないんだけど。

「ぐぐぐ、貴様のせいで……」
「えーと……だれ?」
「誰だと! 儂は貴様のせいで捕まったのではないか!」
 俺のせいで捕まった? 人聞きの悪い。捕まえた事って言ったら盗賊と間者と魔族ぐらいだよ。捕まえた人達の顔もなーんとなく覚えてるけど、こんな人知らないよ。

 檻の中だし、グルグル巻きにされてるから怒ってたって全然怖くない。
 じっくり観察してみる。おー! 目が赤く変わったよ。そういやパシャックも目の色が変わってたようなそうで無かったような……よく覚えてないや。でも、目が赤くなると魔族っぽいね。

 チッ!

 そうだ、【鑑定】だったね。今なら気持ちにも余裕があるからできそうだ。


――ガレンダ・レギオン(魔族):LV84 ♂ 3655歳
 HP:1544/1544 MP:2341/2341 ATC:980 DFC:902 SPD:1103
 スキル:【変身】【結界】【魔眼】
 武技:【拳】Max【杖】Max
 魔法:【水】Max【闇】Max
 称号:魔導師


 おお! やっぱり魔族だ! 【変身】って持ってるからこいつが領主様に化けてた奴かな。
 名前がガレンダ・レギオン? パシャックもレギオンだったような……覚えてないなぁ。一回見ただけで覚えきれる程、印象に残ってないからね。
 パシャックって名前は覚えてるけど、ファミリーネームまではねぇ。他のステータスを見る方が急がしかったもんな、今度からはメモを取るように心がけよう。
 こうやってジックリ見てみると、俺の方がステータスが高い所が多いんだけどなぁ。さっきのジュレ公爵の話を聞く限り、普通に対戦したら俺が負けるんだろうな。そう思うとホントいつもながら衛星様々だね。

 因みに俺のステータスはこうだ。

――星見 衛児(人族):LV152 ♂ 16歳
 HP:1822/1822 MP:1687/1687 ATC:1732 DFC:1712 SPD:1848
 スキル:【鑑定】
 武技:【刀】1/10【弓】1/10
 魔法:【火】1/10【水】1/10【風】1/10【土】1/10【雷】1/10【光】1/10【空間】1/10【闇】1/10
 称号:【転生者】【衛星の加護】
 従者: クラマ(九尾狐)、マイアドーランセ(森の精霊)、サーフェ(サンフェアリー)、ドーラ(ドライアド)、プーちゃん(フラウ)、ベルデ(ニンフ)、ヴェール(エント)、星見ユー(勇者)
 #下僕__しもべ__#:ノワール(ベエヤード)、ヴァイス(ペガサス)、ブランシュ(エポナ)
 奴隷:トレント多数(1007体)


 ステータスだけなら余裕で勝ってる、魔力が負けてるぐらいだ。
 戦ってはいないけど、勝てるイメージが沸いて来ない。ま、実戦経験が無いからかもしれないけどね。でも、前回のパシャックよりはレベルは上みたいだから、敵わないだろうね。

 魔法欄も魔法書と契約したから賑わってるけど、内情を知ってる自分自身としては虚しい限りだ。武技欄も今は弓だけに絞って稽古してるんだけど、全く熟練度が上がらないのは何でなんだろうね。魔物に当てないと上がらないとか? もしそうなら俺は一生上がらないかもしれないぞ? そうじゃ無い事を祈ろう。

 従者も増えたよねぇ。だからどうなんだって感じなんだけど。別に従者を欲しいとも思ってないしね。特に人間の従者って…どうもねぇ、しかも勇者って。
 どうやったら解除できるんだろ、クラマなら知ってるかもな。#下僕__しもべ__#だった天馬が主人をクラマから俺に変えたんだし知ってると思うんだよな。

 #下僕__しもべ__#欄と奴隷欄が増えてるけど、関係ないか。何かのボーナスかもしれないけど分かんないしね。強さに影響するもんでも無いから気にする事もないな。しかし、トレント1000体って……増え過ぎじゃね?
 増えた奴まで奴隷になるの? 奴隷の子は奴隷みたいな? ま、今は関係ないから後で考えよ。

 で? さっきまで怒鳴ってたのに、急に大人しくなるから色んな事を考えちゃったよ。どうしたのかな?
 あれ? 白目剥いてる?
 確かめてもらおうと思って周りを見たけど誰もいない。

 おい! なんで俺しかいないんだよ! 皆、入って来て無かったの?

 急いで入り口まで戻ったら、ジュレ公爵も#全身鎧__フルアーマー__#の騎士達も待っていた。

「おお! 無事だったか。それでどんな具合だ、魔族は何かしゃべったか」
 無事だったかって…一人で行かせといてそりゃないよ。

「えーと、まだ何も話してません。俺…僕を見て怒鳴って来ましたけど、急に目が赤くなったと思ったら気絶しちゃって。それで確かめてほしくて戻って来ました」
 そうだったそうだった、国の偉いさんだった。慌ててたからタメ口になりそうだったよ。

「気絶? それは本当か! 赤い目をしたという事は魔眼を使ったようだが、それで気絶をした事は無かったと思うが……おい!」
 ジュレ公爵が騎士に声を掛けると「はっ!」と返事をした一人の騎士がガッチャガッチャ言わせて中に入って行った。
 お前も行けとばかりにジュレ公爵に背中を押されたから俺も付いていくしかなかった。
 なんなんだろうね、人使いが荒いというか。俺に何を期待してるんだろ。

 扉から入るとまた美少年と目が合った。
 今度は明らかに微笑を向けられた。ぞぞっ
 やっぱり関わらない方が良さそうだ。急いで騎士の後を追った。


「確かに気を失ってるな。だがなぜだ……」
 騎士がひとり言の後に檻の外から魔族を検分している。
 何かに気がついたようで、俺に質問してきた。

「君、この魔族の顎の所を見てくれ」
 言われるままに見てみると、見覚えのある痣があった。
「あそこに痣のようなものが見える。何か思い当たる事はないか」
 メッチャあります。あれってパシャックを倒した時と同じ痣だよ。って事は犯人は衛星じゃないか。

「えー…その…たぶん僕のせいかな…と思います」
 ここで嘘をついたら、嘘の上に嘘を重ねて行かなければならない気がしたので正直に白状した。
「そうなのか! 思い当たる事があるのだな? 一体何をしたんだ」
 何をって言われても反撃をしたとしか言いようがないんだよな。

「…その…言いにくいんですけど…魔族の目が赤くなったから反撃をしたのだと……」
「反撃だと!? 君はそんな事ができるのか! 魔眼に対してどういう反撃をしたんだ」
「それは…僕にもよく分からなくて…」
「…そうだったな。君は冒険者だったな、それも国家認定の。秘匿もあるのだろう、了解した。後の事は私に任せて欲しい。だからすまんが君も協力してくれるか、絶対悪いようにはせんから信じて欲しい」

 納得してくれたの? 冒険者って隠したがりが多いのかな? 納得してくれたんならこっちからこれ以上説明する事もないし、元々協力する予定だったから、それも問題ないね。

「はい、協力させて頂きます。何をすればいいですか?」
「おお、協力してくれるか。では、こいつが起きるのを待って名前を吐かせてくれるか」
 え? 名前? 鑑定の人っていないの?

「名前は鑑定で分かるんじゃないんですか?」
「ふむ、君の言いたい事は分かる。だが、鑑定者が来てもこいつの魔眼で邪魔をされるのだ」
 じゃあ、目を塞いでしまえばいいんじゃねーの? って疑問は言っちゃいけないのかな?

「魔眼は近寄れば近寄るほど効果が高くなる。私もこの距離ならば#抵抗__レジスト__#できるが牢の中に入ると#抵抗__レジスト__#できないだろう」
 そういう事情があったんだ。だったら簡単じゃね? 目を塞げばいいんだよね? ついでに聞きたい事も聞けるように衛星に頼んでみるか。

「ちょっと試してみますね」と言って、例によって日本語で衛星にお願いした。

《ここの魔族の目隠しをしてくれる? それと、聞きたい事があるんだけど、素直に言ってくれるようにしてくれないかな? できる?》

『Sir, yes, sir』

 一瞬で魔族に目隠しがされた。よくバラエティ番組で見るやつだ。目は描いて無かったけどね。
 「おお? なんだ、どうした」って隣からも聞こえたから、隣の魔族にも目隠しがされたんだろう。
 その声もすぐに無くなった。こっちの魔族も拘束状態はそのままで座っていた。
 「なんなりと」と言ったから起きたんだろうね。

「なんだ! 今のは魔法か!? 君は凄い魔法を使うんだな。しかし約束だ、この事は内密にさせて頂こう」
 なんか勝手に納得して内緒にしてくれるみたいだ。

「ありがとうございます、ご配慮感謝します。これで魔族も質問にも色々と素直に答えてくれると思います」
「そ、そうか。いや、こちらこそ感謝する。この件は閣下にも内密にすると約束しよう」
「あ、ありがとうございます」
 そんな約束してもいいの? 罰が与えられる事はないよね? こっちが心配しちゃうよ。

「では、質問してみよう。お前の名前は?」
「ガレンダ・レギオン」
「種族は」
「魔族」
 質問をする度にメモを取っていく騎士さん。万年筆みたいなものを使うんだね。紙も毛皮のようなものを使ってるよ。俺も忘れずに鑑定結果を書いておこう。

 !
 おーい!! どうなってんだ! 再鑑定したら『星見衛児の奴隷』ってなってんぞ! ちょっとヤバいんじゃないの? 俺が魔族の親玉って思われるんじゃないの? やだぞ! そんなので捕まるなんてゴメンだぞ!

 そんな事を思ってたら水晶球が浮かんで俺の方に向かってゆっくり飛んで来た。
 衛星が水晶玉の傍にいるから衛星が持って来てくれてるんだろう。
 騎士さんは尋問に夢中だからこっちの事は気づいてないな。もう聞きまくってるよ。

 飛んで来た水晶を手に持つとステータスが出ていた。
 これって冒険者ギルドにあるステータス鑑定用の水晶玉じゃないか。なんでこんなもんを…と思いながらも表示されてるステータスを確認した。
 それは今俺が鑑定した魔族、ガレンダ・レギオンのステータスのものだった。
 しかも、そこには『星見衛児の奴隷』って文字が無い。俺の鑑定では出てた文字が無かった。
 念のためガレンダ・レギオンをもう一度鑑定したら『星見衛児の奴隷』って出てる。が、鑑定推奨には出ていない。

 普通に鑑定されたぐらいじゃバレないって事か。安心したよ。
 じゃあ、この水晶玉を騎士さんにあげた方がいいか。

 騎士さんに水晶玉を渡すと、ものすごく喜んでくれた。
 ここまで尋問した内容も書きとめ、一度ジュレ公爵の元に戻った。

 騎士さんに説得されたが、半信半疑のジュレ公爵と共に扉の中に入る。騎士も全員一緒だ。鑑定水晶玉を見せられ決断したみたいだ。
 牢の中の目隠しをしてある魔族を確認すると、大きなどよめきが起こったが、その顔は全員笑顔だった。

 それから尋問に付き合わされ、城を出た時は辺りは暗くなっていた。
 別に俺は何もやってないよ、立ってただけ。
 でも、俺がいると安心だからって、この場に留まるように命令された。
 俺も残れて良かった事はあったけどね。だってこの魔族が「ご主人様」って言わないか心配だったんだ。その心配も杞憂に終わってホッとした。俺の奴隷になっても根本にある主は魔王だったみたい。

 「お前の主は誰だ」って聞かれて「魔王様」って言ってたからね。もう心臓がバクバク言ってたよ。

 魔王もいるんだね。そりゃ勇者がいれば魔王もいるか。
 ユーは勇者だから魔王退治に行くのかな? その事も聞いておかないといけないね。

 今回の件でデメリットであった、『年に一回の国への奉仕』ってのは免除されたけど、最後にそれ以上に忙しくなりそうな事も言われたよ。
「王都専属の冒険者に申請できるようフィッツバーグ伯爵に打診をする」だって。
 そうなる前にこの国から出ようかな。凄い出世のような気はするんだけど、この国の事や作法も知らない俺がそんなのを受けても敵を増やすだけだと思うんだよね。まして冒険者のクセに魔物討伐ゼロだからね。
 他の国にも行ってみたいし束縛はされたくない。
 【星の家】や【星菓子】はまだ放ってはおけないから、なんとか身を隠して……ま、当分は大丈夫みたいだし、本気で逃げたい時は天馬に頑張ってもらおう。

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