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第07話 スパルタな二人

 【ユー視点です】

 エイジと別れて町を出てダンジョンに三人で向かった。
 私はクラマさんと一緒にヴァイスに乗っている。初めはブランシュに乗るマイアさんと乗る予定だったんだけど、私と一緒に並んでいる所を見られたくないと言って断られちゃった。

 仕方が無いのでクラマさんが乗せてくれたんだけど、マイアさんに嫌われちゃったのかと思ってクラマさんに聞いてみたら「そのケツのような胸のせいじゃ!」って笑われちゃった。
 ケツのようって……失礼よね。そのクラマさんの物言いって遠慮がないのよね。#妾__わらわ__#って言うわりにあまり上品じゃなさそうだけど、まさか貴族じゃないわよね?

 私はエイジから装備一式もらったので装備してるんだけど、二人共普段着で大丈夫なのかしら。どこかで着替えるのかな?
 でも、荷物も無いし、もしかして私みたいに収納のスキルを持ってるのかも。
 それにクラマさんもマイアさんも、それにエイジも鑑定できないって、この三人は一体何者? こんなの初めてなんだけど。
 レベル差が大きいと鑑定できないって聞いた事はあったけど、今まででもレベル300の人でも鑑定できたのに。この三人はそれ以上って事なの?

 クラマさんにもマイアさんにも私が鑑定した事がバレてるみたいだけど、それでも許されてるって事は私なんて眼中にないって意味よね。早くレベルを上げて見返してやる。

 ダンジョンに入り口に到着すると#厩__うまや__#があったので二頭を預けた。
 この馬達も、天馬だって言われたけど、なんなのって言いたい。鞍も馬具も一切着けてないのにこの安定感。しかも早すぎ。チートは私の代名詞のはずなのよ、決して馬に取られちゃいけないの!

 ダンジョンの入り口の小屋に入り、入場の手続きをした。冒険者ギルドを小さくした感じの所で、受付窓口は三つあった。
 入場用の受付は一つで、あとは退場用と精算窓口だった。
 二人には任せたと言われたけど、一番新参者でレベルも低いのだから雑用を押し付けられたのかな? それとも二人共、人見知りする性格なのかも。誰かと話してるのを見てないしね。

 別に雑用をするのは嫌じゃない、数学や英語は得意な方だったし、よく家のお使いも手伝ってた。掃除もマメにする方だし、母さん仕込みの料理にも少しは自信があるんだから。

 入場用窓口では、冒険者カードの提示を求められたので、私のカードを見せると「付き添いはいますか?」と言われた。
 壁の所で待っている二人に来てもらって、二人のカードも提示するとすぐに受付が完了した。
 「Aランクが二人いるのなら問題ありません」と言ってくれたので、ブレスレットを借り受けるためのお金を渡す。
 一人金貨一枚だったけど、ブレスレットを返す時に半分返金してくれるそうだ。実質銀貨五○枚って事ね。

 お金は私が纏めて支払ったけど、エイジから預かってるお金だから皆で使うのだし問題ない。返す時に内訳を説明すればいい事だしね。
 まさか二人共、計算が苦手って事はないよね?

 ブレスレットを左手首に装着し、ダンジョンの入り口に向かう。
 ブレスレットは金色の金属製で、手首に填めると自動で丁度いいサイズまで締まった。
 さすがファンタジーね。これなら剣を振り回しても邪魔にならないわね。

「? クラマさん、マイアさん。お二人は着替えないのですか?」
「着替える? 何をじゃ」
「何をって、今からダンジョンに行くんですよ? 普段着のままじゃ危ないですよ、防具を着けないと」
「ふん、雑魚を相手に必要ないのじゃ」
「雑魚って…ここは難易度が一番高いダンジョンだって聞いてますよ」
「くどいのじゃ」

 くどいって…心配してあげてるのに……
「マイアさんもですか? それに武器も持ってないじゃないですか」
「はい、防具など必要ありません。武器ならエイジにもらったこれがあります」
 そう言ってマイアが槍を出した。エイジからもらった自慢の槍『風牙』だ。

 !
 やっぱり収納スキルを持ってたんだ。それにしても立派な槍ね、美しい。
 「#妾__わらわ__#もじゃ」
 対抗してクラマが出したのは、大薙刀『#岩融__いわとおし__#』。なぜかクラマがドヤ顔をしていた。

 !
 大きい! なんて立派な槍? いえ曲刀だから薙刀ね。クラマさんも収納スキルを持ってるのね。

 二人に収納スキルは無くエイジから貰った収納バッグを使っているだけなのだが、ユーの鑑定が通じない以上、この誤解は仕方が無いだろう。

 ダンジョン入り口には兵士が立っており、入場者チェックをしているようだが、三人がブレスレットをしている事を確認すると特に何も言わずに通した。

 ダンジョンに入ると薄暗いが前が見えない程では無い程度の明かりはあった。
 そうはいっても10メートル先も見えない暗さだ。にも関わらずクラマさんとマイアさんはどんどん進んで行く。

「ちょちょっと、お二人には見えてるんですか? 私には暗くてあまり見えないんですが」

 ―――暗闇耐性を取得。暗視スキルを取得。

 あ、暗闇耐性が付いた。あ、暗視スキルも。
 普段は取れなかったのに、やっぱりダンジョンだからかも。気持ちも戦闘モードで昂ぶってるものね。

「なんじゃ、ユーには見えぬのか。仕方が無いのぅ、これでどうじゃ?」

 ボッ!
 青い人魂のような炎が私達の五メートルぐらい前に出た。

 照明のように煌々した明かりでは無かったけど、十分に見えるようになった。
 今、取得した暗視スキルも併用すると昼間のように明るく見えた。たぶん、今出したのクラマさんの炎が無くても見えそうね。

「ありがとうございます。でも、今『暗視スキル』が取れたみたいなので、もう大丈夫みたいです」
「うん? 今取れたのかの?」
「はい、そうみたいです。やっぱりダンジョンだからでしょうか」
「ふむ……」
 少し思案したクラマさんが何か思いついたような目を向けてきた。

「ふむ、それならこんなのはどうじゃ?」

 ボッ!

「きゃー!」
 私のすぐ傍に、さっきと同じ青い火が現れた。
「熱いっ! 何するんですか!」
 青い火はすぐに消えたが、手は赤くなって少しヒリヒリする。軽い火傷をしたみたい。

 ―――熱耐性を取得。HP自動回復(大)を取得。

 うわー! また何か取れた。熱耐性にHP自動回復(大)? こんなに簡単に取れるものなの?

「ふむ、その顔は上手く行ったようじゃの」
 怒っていた顔がすぐに驚きの表情になったのでクラマさんがそんな言葉を呟いた。私がスキルを取得した事がわかったみたい。

「素直にお礼が言えない気分ですけど、ありがとうございます。でも、なぜこうするとスキルが取れるって知ってるんですか?」
「#妾__わらわ__#の下僕どもを鍛える時によくやったのじゃ。ユーはちょうどいい時期のようじゃの」
「いい時期なんですか?」
「そうじゃ、発動スキルや耐性スキルなどを多く取得できる時期があるのじゃ。人によってレベルや年齢など違いはあるが、ユーは今がその時期なんじゃろう」

 へぇ~、クラマさんって物知りなんだね。こんなの城の人達も知らなかったと思うよ。でも、私の場合はチートだからじゃないかな? だって勇者だもんね。

「この階層には大した魔物はいないようです。ユーの練習台にしましょう」
「そんなのも分かるんですか?」
「今のユーにもできるようになるかもしれませんね。周囲の気配に耳を澄ませてみなさい」
「は、はい」
 今度はマイアさんに言われた通りに周囲に気を配って集中する。
 ん!? 何か気配というか違和感が次の曲がり角の先に感じる。

―――気配察知(広)を獲得。周辺検索(拡)を獲得。
 あ、また。やっぱり私ってチートね~。

「これはサービスしておきますね」
 マイアさんが小瓶を差し出した。
 その小瓶を取ろうとすると、急に眩暈がしてよろけてしまった。

―――#魔力吸収__マナドレイン__#耐性を獲得。MP自動回復(大)を獲得。

 ステータスを確認するとMPが残り僅かになっていた。

「これを飲んでください。何か取得できましたか?」
「は、はい。#魔力吸収__マナドレイン__#耐性とMP自動回復(大)が取れました」
 マイアさんから小瓶を受け取って飲み干す。

 すごーい! 一気にMPが回復した。MP自動回復も取れたけど、この小瓶の薬の方が早いよ。全回復だもん。

「そこの角を曲がった所に魔物がいます。拘束しましたので倒してください」
 え? マイアさんが何かしたの? 呪文なんて聞こえなかったけど。

 角を曲がってみると、魔物が三体いた。三体とも植物の蔓のようなもので縛られて身動きが取れないみたい。
 振り返ってマイアさんを見ると、一つ頷いてくれた。
 私は剣を抜き魔物に斬りつける。

 やーっ!

 私の一振りで魔物が真っ二つになる。
 なにこの剣! 凄い切れ味じゃない!
 防具と一緒にエイジにもらった物だけど、こんな剣は城にもなかったと思う。
 防具にしてもそう。城では私に合うサイズって無かったのよ。それがまるで#誂__あつら__#えたようにピッタリって、こんな装備どこにあったのよ。

 今はそんな事を考えてる場合じゃないわね、さっさと魔物を倒さないとね。
 縛られて無抵抗の魔物を斬って倒す。
 倒した魔物は少し経つと床に吸収されて無くなった。
 魔物がいた場所には魔石が三個と牙が一本あった。ダンジョンでは魔物を倒すとダンジョンに吸収されるようね。

 魔石が三つと牙? 魔石は分かるけど牙はなんで? あ、ドロップ品ね! 一回目の戦闘からドロップ品が出るなんて。さっきの犬みたいな魔物の牙よね? 大きな魔物だとは思ってたけど、この牙も大きい、私の肘ぐらいまでありそう。
 こんなの毎回出たら、どうやって持って帰るの? 私達は収納スキルを持ってるからいいけど、普通の人ならこれで一旦帰っちゃうんじゃない?

「何をやっておるのじゃ、早よぅせぬか」
「あ、ごめん」
 魔石と牙を収納し、走って追いつこうとしてこけてしまった。
 くっ、恥ずかしい…私はドジっ#娘__こ__#じゃないのに。

「あら、あなたって上がり方が凄いのね。これを飲めば落ち着きますよ」
 マイアさんがさっきと同じような小瓶を渡してくれた。

 小瓶を飲み干すと眩暈が嘘のように無くなった。
 ステータスを確認するとHPが全回復していた。っていうか、レベル18? HP346?
 魔物を三体倒しただけよ!? レベルが6も上がってる?

 急激なレベルアップとHPやMPのMAX値の上昇によって眩暈がしたのね。さっきのマイアさんがくれた薬はHP回復薬だったようね。

「あの、ありがとうございます。それでさっきの魔物ですが……」
「さっきの雑魚の事ですか?」
「雑魚って……あの魔物って何ていう魔物だったんですか? 凄くレベルが上がったんですが」
「さぁ~知りませんわ。クラマは知ってますか?」
「たしかヘルハウンドとかいう雑魚じゃな。雑魚などどうでもよいのじゃ、さっさと次に行くのじゃ」
「へ、ヘル……」

 ヘルハウンドって大物じゃない! 確か脅威度Cは超えてたはずよ? 軍が出動するレベルだったはず、それを雑魚?
 簡単に拘束するマイアさんに雑魚と言い捨てるクラマさん。それに私の力でも簡単に斬ってしまえる剣。チートの私が霞むじゃない!

 それからもマイアさんが拘束してくれたり、クラマさんが瀕死にした後に#止__とど__#めをさしたり、時折私に色んな攻撃を仕掛けて来て、耐性を増やしてくれたり。
 その度に、マイアさんが薬をくれて肉体的には回復はするんだけど、精神がもうヘトヘト。
 五階層が終了した時点で、ギブアップ宣言をした。

「も、もう、帰りませんか?」
「なんじゃ、もう音を上げるのか。まぁ今日は初日だからのぅ」
 よかったぁ、帰ってくれるんだ。

「まだ#妾__わらわ__#もマイア殿も楽しんでおらんから、あと五階層で終わるとしようかの」
「ええ、それぐらいでいいですわね」
 え? え? あと五階層? やっと五階層終わった所なのよ?

「う、うそ…」
「ほれ、#呆__ほう__#けておらんでさっさと行くのじゃ」
「そうですよ、夜までまだ時間はあるとはいえ、ゆっくりしていては時間の無駄です。ここからはペースを上げましょう」
 いえいえ、十分ペースは早かったわよ? 四階層で出会った六人組の冒険者は昨日の朝から入ってると言ってたもの。私達はまだ入ってから半日も経ってないのに……今日だけで十階層まで行くつもり!? 帰りもあるのよ?

 二人に両脇をホールドされ、六階層への階段を下りて行った。
 この二人って絶対Sよね? さっきまでと違ってすっごく楽しそうだもん!
 このあと、私はどうなるの? もうレベルは39までになったんだから今日はもういいの、帰りたいの。もう十分満足したの。

「ねえ、もう帰りましょ? 帰りましょ?」
 という私の言葉は受け入れてもらえず、結局十階層を終えるまで地上に戻る事はできなかった。

しおり