第04話 王都ジュレ
ユーを仲間? にした俺達は、本当なら地図を先に消化したかったんだけど、ユーの身分証明など、先に自分の居場所を作って安心させたかったから王都に向かう事を一番とした。
ユーは俺と一緒にノワールにまたがっている。俺が前で後ろがユー。
自転車の二人乗りというよりはバイクの二ケツって感じ。
嬉しい様な恥ずかしい様な、こんなの初体験だから緊張しちゃってその時の事はよく覚えてない。
道中も、時折「あれは何?」とか「あの樹ってものすごく大きいね」とか言って近づいて肩に手を掛けて来るユーのナニが当たるんだよ。ロケットというかミサイルというか、アレだよ。
ラッキー! と心の中では狂喜乱舞してるんだけど、声に出して言えるほど勇気は無い。
緊張はしたけど、いつもは魔物も出なくて居眠りしそうなぐらい暇な道中も楽しく過ごせた。何を話してたかなんてはっきりとは覚えて無いけどあの柔らかい感触だけは覚えてる。
異世界って…いいとこかもしれない。
因みにマスターとの二人乗りは俺の中ではカウントされてない事になっている。
天馬達が頑張ってくれたので王都までもうすぐの所で二日目を終えた。あとは飛ばずに地面を走ってもらおう。それでも十分速すぎるんだけどね。
小屋には三部屋しかないから新たに衛星に作ってもらった。
今度は二軒に分けた。
一軒は個室だけ四部屋作ってもらって部屋を広く取った。
もう一軒は半分が食堂、半分が風呂にして、トイレはそれぞれ完備した。
トイレはもちろん水洗なんだけど、どこに流れて行くのかは知らない。
どこかに溜めてる訳でも無さそうだし、どうなってるんだろうね?
ユーには衛星の事は言ってない。今後、彼女が城に戻される事があるかもしれないし、敵対はしたくないけど、国が関わって来るかもしれないから、今のところは秘密にした方がいいと思ったんだ。
衛星に頼むのも、日本語の分かるユーがいない時にしかやってない。
同じ日本人だし仲間でいたいけど、せめて王都の件が終わるまで保留だね。
装備も武器と防具は渡してある。ユーのサイズに合わせて地味目のものを衛星に作ってもらった。服や下着も一緒にね。
ユーは収納スキルも持ってるから余分に作ってもらって渡しておいた。
感激して跳んではしゃぐもんだから揺れるものが気になって仕方が無い。クラマやマイアでもここまで気にならなかったのにな。
武器は一通り渡してある。俺の持ってる剣と同じぐらいの攻撃力300程度の物を渡した。
剣、#拳__ナックル__#、槍、弓、斧。熟練度はどれも低いけど、全部の武器に精通してるみたいだから全部渡しておいた。収納があるから問題無いでしょ。
◇ ◇ ◇
フィッツバーグの町を出てから三日目の昼前に王都ジュレに到着した。
領主様に言われてた通り、頂いた馬車で入る事にした。
引くのはノワール、ヴァイスとブランシュにはそのままクラマとマイアが乗って馬車に並走。
御者は俺がしようと思ったけど、ユーがしてくれる事になった。やっぱり俺が主賓で呼ばれてるのに、その俺が御者っていうのはおかしいってユーに言われて任せる事にしたんだ。
曳くのはノワールだからユーは御者台に座ってるだけでいいから馬車の操縦の大丈夫だろ。
入門ではちょっと得をした。
俺達は貴族特権みたいなものがあるらしく、入門の列に並んでたら見回りの兵士に門へと案内された。ジロジロと恨めしそうな目で見て来る並んでる皆さん。ホントすみません。
入門時は俺達は冒険者カードも持ってるし馬車のおかげで水晶判定はせずに身分証を見せるだけで良かったんだけど、ユーは持って無い。ユーだけは仮入門をする事になったんだけど、ユーは空白の期間を魔族と過ごしてるから犯罪者認定の水晶検査で引っ掛からないかと不安だった。どれだけの期間、魔族といたかも分かってないしね。
でもそんな心配は杞憂に終わった。クラマが「そんなものはどうとでもなると言ったであろう」と、ユーの横で水晶を睨んで捜査してくれたから問題無く入門できた。
本当はどうなのか知りたかったから、衛星に同じ水晶を作ってもらった。
入門してすぐに人気の少ない所で馬車に乗せて、犯罪者判定を水晶で試してもらったら白判定だったのでホッと胸を撫でおろした。
仮入門証と入門料銀貨十枚で入門できたユーには手っ取り早く身分証にできる冒険者ギルドに登録してもらう事にした。「これで私も冒険者なのね!」って喜んでたから、ユーもチート転生小説の愛読者なんだろうね。
入門料はフィッツバーグの町の倍だったのは、流石に王都だと思ったね。
冒険者ギルドのスキル鑑定水晶の時にもクラマにユーのスキルでヤバそうな所を隠してもらって無事ユーの冒険者登録が完了したが『#煌星__きらぼし__#冒険団』には登録しなかった。もう少しお互いの事が分かってからだと思うから、「他のメンバーに紹介してからね」と言って濁しておいた。
王都の冒険者ギルドは大きかったよ。フィッツバーグの町の冒険者ギルドの三倍はあった。しかも二階もあるというから六倍はあるかも。
と、ここまで順調だったように紹介しているが、結構なトラブルはあった。
まず、ユーだ。その豊満なボディは、どこに行っても男の視線を攫う。だからショールを掛けてもらってたんだけど、前で縛るから余計に目立ってしまった。それからは前開きポンチョというか、短マントのような物を着てもらっている。
冒険者ギルドでも絡まれた。
やはり弱そうな男が美女三人連れてれば、絡んでくる脳筋は何処にでもいるようだ。
俺だけが装備を着ていてクラマはいつもの如く巫女服のような和装。マイアもいつも通り薄手のふわりとしたドレス。そしてさっき紹介した前開きポンチョを着たユー。
ミーハー女に冒険者ギルドを案内しているモテたい小僧冒険者と勘違いされても仕方がなかったとは思うけど、あまりにもテンプレ過ぎて対応が遅れてしまったんだ。こういうテンプレって俺の周りではあまり起らなかったからね。フィッツバーグでも無かったし。
こういう時って冒険者カードを出せば治まると思ってる。
こういう輩って脳筋だから上のランクにはヘコヘコしてるイメージがある。それだったら俺のAランクカードを先に見せてやればテンプレも回避できると脳内予行練習は何度もしてたんだけど、カードを出す前にクラマとマイアが片付けてしまった。
あ、手は出して無いからね。「やいやいやい、そこの小僧!」とテンプレ通りの台詞と共に現れた四人パーティの筋肉ダルマ達はクラマの威圧とマイアの#香り__スメル__#であっさりとお寝むだ。
でも、あれだけ殺気を放ってあれ以上俺に近づいてたら衛星に迎撃されてたかもしれないのでクラマとマイアのファインプレーだと思っておこう。
テンプレの四人組が倒れたのは俺達から離れた所だったし、人は寄って来たけど俺達とは関係ないと思われたので端に寄せられて放置されていた。雑な扱いだったなぁ。
「さて、これからどうする? 宿は取るとして、俺は王城に一度顔を出しておこうと思ってるんだよ。いつ行ってもいいとは言われてるけど、手続きが直ぐにできるとは思って無いから予約をしておこうと思ってるんだ」
「何の手続き?」
「あ、ユーには言って無かったね。国家公認の冒険者にしてくれるって言うからさ、土地の為にもなっておこうと思ってね。その手続きは王城でしかできないんだって」
「へ~、エイジって凄いんだね。国家公認の冒険者かぁ、私も負けてられないね」
たぶん大丈夫だと思います。俺なんかすぐに追い越されると思いますよ。
宿は近くにあったので、俺だけ宿には入らずにそのまま王城を目指した。
宿の手配は任せたけど、三人には金貨十枚ずつ渡しておいたから大丈夫だろ。
王城まで徒歩で一時間程度と聞いていたのでノワールにまた馬車を曳いてもらった。馬車で行くようにも言われてるしね。人が多かったからゆっくり走ってもらったので三十分も掛かってしまった。
城門の兵士に冒険者カードとフィッツバーグ領の領主様から貰った短剣を見せて用を言った。特にもらってる手紙などの書類は無い、短剣を見せるだけでいいって言われてる。
話はすぐに済み、明日の昼頃に来るように言われた。
初めはぞんざいに扱われてたけど、短剣を見せてからは兵士の対応も凄く丁寧になった。そりゃ馬車には俺一人だから御者もして来たからね、貴族だと有り得ないんだろうな。
でも、俺は冒険者と来てるから納得してくれたみたい。対応してくれた兵士は四〇歳ぐらいの人だったけど、俺に対しても敬語を使ってくれたもん。
滞在先の宿を聞かれたので、さっきの宿を伝えておいた。仲間がちゃんと取ってくれているはずだから。
さっきの宿に戻ると部屋は取ってくれていた。馬車と厩舎の手配もしてくれてた。
受付で部屋を聞き、そのまま部屋に行った。この宿はフィッツバーグの町で泊った宿よりワンランク上って感じだな。
でも、受付の人がニヤニヤとしてたのは営業スマイルには見えなかったな。
……で? 広くていい部屋だとは思うけど、なんで皆いるの?
「…ただいま」
「おかえりー、どうだった?」
「おかえりなのじゃ」
「おかえりなさい、エイジ」
「えーと、城にはまた明日行く事になったんだけど、これってどういう事? 俺の部屋は?」
「何を言っておる、広くていい部屋なのじゃ」
「そうです、あの小屋の部屋は小さすぎてダメです」
「わ、私もいいよ、だってエイジの従者なんだし」
皆の言ってる意味がよく分からない。ユーの言葉には色んな思いが駆け巡る。
変な方に向かおうとする考えを抑えて整理してみた。
「……部屋は何部屋取ったの?」
「何部屋? 寝るだけなのじゃ、一部屋でよいではないか」
「俺もここで寝るの?」
「何を当たり前の事を聞くのじゃ、いつもの事ではないか」
いやいやいやいや、ダメだから。全員で寝るのはダメだから。ユーがいつもの事って呟いて赤くなってるのは勘違いだから。実際に寝てはいるけど、何にも無いから。
「もう一部屋取って来る」
「エ、エイジ。もう部屋はいっぱいだって言われたよ。この部屋しか空いて無いんだって」
何その都合が良すぎる設定!
クラマを一旦部屋の外に連れ出し小声で相談した。
「ダメだろ、ユーは人間の女の子なんだから男の俺と一緒の部屋はマズいよ」
「ユーがいいと申しておったのじゃ」
「だからってダメだよ、ユーだって引け目を感じてるから我慢してるんだよ。それにクラマが妖狐だって言って無いんだよ。マイアの事だって言って無いし二人の正体がバレたらどうするの」
「なんじゃ、そんな事か。もうユーは知っておるぞ、鑑定でもしたのじゃろ」
「えー! バレてるの?」
「馬鹿者! 人間の鑑定でバレたのはエイジだけじゃと言うたじゃろ。ちゃんとこのカード通りの設定にしておる。それはマイア殿も同じであろう」
そう言ってクラマが冒険者カードを見せた。
「そうか、それなら良かったよ……いや、良くない良くない。二人を人間だと思ってるんなら余計にマズいじゃん! 俺がエロ大王って思われてるんじゃない?」
「なんじゃ、エロ大王は嫌いか? #妾__わらわ__#は別に構わぬぞ」
いえ、大好きです。いやいやいやいや、大好きですけど今は違う! 女三人男一人で同じ部屋はマズいよ。
「もう部屋が空いて無いんなら、俺は別の宿か馬車で寝るよ。最悪、町の外に出て小屋でもいいしね」
「それはならん! #妾__わらわ__#もエイジと寝るのじゃ。もう何日も添い寝をしておらんではないか。初めの約束と違うのじゃ」
そんな事言ってもさぁ……それに妖狐の姿にならないんなら余計にマズいと思うんだけど。
そこに俺にとっては嬉しい知らせが届いた。
城からの使いという兵士が来て、宿を手配してくれたと言うのだ。
貴族達が泊まると言う宿があって、来賓はそこに泊まるようになっているそうだ。宿泊費も払ってくれるというので、すぐにそちらに移る事にした。
こっちの宿代は返してくれなかったけど、向こうが無料だしトントンだね。いや、向こうの方が高い宿みたいだし、差し引きプラスと考えよう。
向かった先の宿でも一室だったけど、凄く広かったし中で部屋も分かれていた。
泊まった事も入った事も無いけど、たぶん超高額スイートルームってこんな感じなんだろうな。
ベッドルームも二部屋あったから俺だけ別に寝ればいいね。
ラッキースケベの可能性もあるけど、それは俺のせいじゃないとしておこう。