第03話 女勇者
クラマを追ってマイアが出て行ったのを見届け、衛星に女性を起こしてもらった。
女性の目が開いた事を確認し話し掛けた。
「君は今、拘束されてるんだけど、特に危害を加えるつもりは無いんだ。こんな状況で信じてはもらえないかもしれないけど、俺は話がしたいんだ。俺の言ってる事を分かってもらえる?」
女性は少し考えて、小さく頷いた。
「まずは、状況の説明をしたいけど、口の拘束だけを解くから大声を出さないでね」
大声を出されても、周りに人はいないので問題無いんだけど、やっぱり騒がれたくはない。
《衛星、この女性の口の拘束だけ解いて》
『Sir, yes, sir』
女性は口の部分の拘束を解かれたけど騒ぐことは無かった。ただ、目を大きく見開いて驚いた表情をしていた。
「今の状況を説明するね」
女性が首肯したので話を続けた。
「君は、魔族に囚われてたんだ。その魔族の話では、君は勇者としてこの世界に召喚されて、その後魔族のパシャックって奴に心を封印されて一緒にいたんだけど、僕の仲間がパシャックを倒して君の封印を解いたんだ。ここまでで質問はある?」
まだ状況が分からないようで、女性は俺を見たまま黙ってる。
「さっきも言ったけど、俺は君と敵対する気は無いんだ。信じてもらえるかな?」
「……分かったわ。【鑑定】で何も見抜けないって事は、あなたは私より相当格上のようね。逆らっても無駄なようだし、抵抗はしないわ」
お! やっと返事をしてくれた。鑑定を妨害してるのは、たぶん衛星だと思うけど、レベルだけで言ったら格上なのは間違いないな。
「ありがとう。じゃあ、拘束を解くよ」
衛星に言って拘束を解いてもらった。
うおぉぉ!
なんじゃ! そのミサイルは!
拘束していたロープが解かれると、ボンッ! と現れた彼女の胸に驚いた。
彼女も苦しかったのか、ふぅ~とため息を漏らしていた。でも、まだ苦しそうではある。服がピチピチなのだ。
デカ過ぎだろ! クラマの2倍とまでは言わないが1.5倍はあるぞ!
マイアのだったら2倍はあるな。
顔が細面だったから予想外で余計に驚いたよ。
いやいやいやいや、今はそれどころじゃない、落ち着け落ち着け。まずは話が先だ。
衛星に言って、下着と身体のラインが分かりにくい服を作ってもらってそのまま渡した。
彼女には個室で着替えてもらい、着替え終えると落ち着くために軽食と飲み物を提供した。俺も違う事情だが落ち着くためにコーヒーを三杯お代わりした。
彼女は無言で食べていたけど、時折「美味し」って言ってたから、だいぶ落ち着いて来たんじゃないかな。
今の状況も彼女なりに分析してるんだろうな。
「じゃあ、お互いに自己紹介をしない? 僕はエイジ、君は?」
俺の方もゆったりした服を着てもらった事でだいぶ落ち着いたし、そろそろいいかと思って俺から切り出した。
「私は……まだ名前が無いの。あなたの言った通り、私は勇者召喚されたと思う。その時に女神様に会ったんだけど、色々な特典を付けてもらう代わりにこの世界での名前にしろって言われたの。召喚後に城で付けてもらえって言われたんだけど、名前を付けてもらった記憶が無いの。あなたは誰に付けてもらったの? さっきのは日本語でしょ? あなたも女神様に会ったでしょ?」
なにその正規ルートは。正に勇者召喚の王道じゃないですか!
―― (人族):LV12 ♀ 16歳
HP:113 MP:121 ATC:105 DFC:102 SPD:133
スキル:【鑑定】【亜空間収納】【マップ】【周囲検索】【危機察知】【HP・MP自動回復】【レベル限界突破】【武具精通】【言語】【経験値倍化】(常時発動)【レベルアップ時上昇率二倍】(レベルアップ時自動発動)
武技:【体技】1/10【剣技】2/10【槍技】1/10【斧技】1/10【弓技】1/10
魔法:【火】1/10【水】2/10【風】1/10【土】1/10【光】1/10【付与】1/10
称号:【転生者】【勇者の卵】
確かに名前は無い、か。さっきは色々持ってるなぁって思って、ザクッとしか見て無かったけど、よくよく見てみると反則的なものが多くない? まさに、ザ・勇者って感じなんだけど。
これでも勇者の卵なんだよね。どうやったら勇者になれるのか知らないけど、もう十分チートでしょ。
俺もこういうのが希望だったんだけどなぁ。
出会った頃のキッカと同じぐらいのレベルなのに、ステータスは倍ぐらいあるのはスキルにある【レベルアップ時上昇率二倍】(レベルアップ時自動発動)のお陰なんだろうな。【経験値倍化】(常時発動)のお陰でレベルアップするのも早いんだろうし、チートな人が持ってる物を全部持ってるよ。
あー! 羨ましすぎる~! 色んな意味で。
「それであなたは何処の国で召喚されたの? 私と同じミュージャメン王国? それとも敵対してるジュラキュール王国? それともまた別の国?」
「……会って無い」
「え?」
「僕は……俺は女神とは会って無いんだ」
「え? え? どういう事?」
「そんなの俺が聞きたいよ。俺は君みたいにチートな能力なんて貰ってない! だから名前も元のままエイジって言うんだ。誰かに名付けてもらったんじゃ無いんだ!」
「そう……」
場を沈黙が支配する。
俺は理不尽な能力差や待遇に込み上げる怒りを抑えるのに力を費やした。
彼女の方も、どういう事なのか考えてくれてるようだ。
そこにタイミングよく? クラマとマイアが戻って来てくれた。
「エイジ、終わったのじゃ」
「処理完了です」
どうやら処刑したんだろうな。マイアが処理完了って言ったから、森に還したとかかな?
「ご苦労様。もう襲われる事は無いんだね?」
「もちろんじゃ」
知りたいけどどうやって殺したとか聞きたくないのでそれ以上は聞かなかった。
「じゃあ、次は彼女の事だね」
気を取り直して彼女にこれからの予定を説明した。
さっき彼女が言った”敵対する国”の王都へ向かう予定である事を話した。
俺自身はこの国の城で召喚された訳じゃ無いから、この国の味方って訳じゃ無いけど、この国しか知らないし、今は【星の家】や【星菓子】があるから敵対する気は無いんだよね。
どことも敵対する気も無いしね。っていうか、相手から見たら俺なんか敵にすらならないんじゃない?
「どこか近くの町まで送って行けばいいかと思ってたんだけど、隣の国の関係者だったら不味いかな?」
行きたい所があれば近くまで送って行ってあげたいけど、俺も王都には用があるから、時間はまだあるとはいえ悠長に構えられないんだよね。
予定はどんどん早めに片付けて行きたいからね。これも日本人気質なのかも。
個人の性格もあるけど国民性もあるよね。
五分前集合だったりノーと言えない日本人だったり十分ドンベーだったりさ。
最後のは違うか。
「その前に名前を考えてほしいの。このままじゃ名前も呼んでもらえないでしょ? 城では『勇者様』って呼ばれてたから何か付けてほしいの」
そうか、勇者だもんな。名前が逆に邪魔になる事もあるのかもな。
「勇者○○様が」とか言うと名前が残るけど、「勇者様が魔王を討った」となれば「勇者様」しか残らないから城側としては都合がいいのかもな。
「娘! それはいい所に目を付けたのじゃ! やはり分かるものには分かるものなんじゃな」
「そうですね、エイジは名付けが上手いですものね」
何シレ~っと俺に押し付けてるんだよ! 名前ぐらい自分で考えればいいんだよ!
「名前なんか…自分…で……」
そんな期待感満載の目で見るなよ! 自分で考えればいいじゃん!
「お願いしてもいいの?」
「……はい」
「わぁ~ありがとー!」
くっ、弱ぇ、ホントに弱ぇ~な俺って。
「……な、なにか自分で名乗りたい名前って無いの?」
「別に無いよ。元の名前も思い出せないし、この世界で付けてもらえって言われたって事は日本人の名前って呼びにくいんじゃないのかな? だから付けてもらった方がいいと思うんだけど、なるべく可愛いくて強そうなのにしてね」
日本人の名前が呼びにくい? だから俺の名前を言えない人が多いのか?
しかし、可愛くて強そうな名前ね。そんなのあるの? 俺には思いつかねーよ。
「ユウとか?」
「ユーか、いいねそれ! それで決まり! 今日から私はユー! ホントに名前を付けるのが上手いんだね、凄く気に行っちゃった」
微妙に違う感じもするけど本人が気に入ってくれたんならいいか。
「次に行き先なんだけど」
「うん、エイジと一緒に行く」
「はい? いや、だって…君は……」
「君はだなんて言わないの。ユーって呼んでよ。エイジっていい人みたいだから付いて行く事にしたの。この世界に召喚されてから一か月ぐらいの記憶しか無いし、たぶんそれぐらいで攫われたんだろうし、ミュージャメン王国の人達だってもう忘れてるよ。ね? いいでしょ?」
たぶん忘れてないと思います。
いいのかなぁ。でも、このまま放っておく事もできないし、連れて行くしかないんだろうね。
ちゃんと名前が付いてるのか、確認しとこ。
―― 星見 ユー(人族):LV12 ♀ 16歳
HP:113 MP:121 ATC:105 DFC:102 SPD:133
スキル:【鑑定】【亜空間収納】【マップ】【周囲検索】【危機察知】【HP・MP自動回復】【レベル限界突破】【武具精通】【言語】【経験値三倍化】(常時発動)【レベルアップ時上昇率三倍】(レベルアップ時自動発動)
武技:【体技】1/10【剣技】2/10【槍技】1/10【斧技】1/10【弓技】1/10
魔法:【火】1/10【水】2/10【風】1/10【土】1/10【光】1/10【付与】1/10
称号:【転生者】【勇者】【星見衛児の従者】
ちゃんと名前が……あり? 名字がホシミ? 経験値三倍化? レベルアップ時三倍?
ちょいと、色々おかしくない? 称号に卵が取れて勇者になってるからだと思うけど【星見衛児の従者】って何? おーい! どうなってるんだよ!
「ユーさん? 自分のステータスって見れる?」
「もぉ、さんは付けなくていいよ。ステータスぐらい見れるわよ?」
ユーって結構、気安い感じの#娘__こ__#だったんだね。
「あっ! 勇者になってるー! それに上昇関係が三倍になってるよ」
「えーと…それだけ?」
「そうね、あと何かあった?」
「…名字とか従者とか……」
「名字はエイジが付けたんだから当たり前じゃないの? それに『従者』でも称号が増えるって事は何かいい事があるんだよね?」
名字が付くとか初めてですから。クラマもマイアも他の人達には付きませんでしたから。
従者の事も気にしてないって…超前向きな#娘__こ__#なんだね。やっぱり羨ましい。
「#其方__そなた__#…ユーもエイジの従者になったのじゃな」
「では、仲間ですね」
「はい、ユーと申します! これからよろしくお願いします!」
「こちらこそなのじゃ」
「はい、私はマイアドーランセ、マイアと呼んでください」
「#妾__わらわ__#はクラマなのじゃ。#妾__わらわ__#の事もエイジが名付けたのじゃ」
「うわぁー、エイジってやっぱり名付けるのが上手なんだねー」
三人で盛り上がっちゃって、俺は置いてきぼりかよ。
魔物に精霊に勇者って……トラブルの予感しかしないんだけど。
これって勇者パーティ? じゃない気がする。
ユーのその前向きな性格を少し分けてほしい……。