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vs, フラモン Round.2

 
挿絵


大男(おおおとこ)総身(そうみ)シャンタン、(まわ)りカレー』──か、どうかは知らないけれど、やはり動きは愚鈍だった。
 ボクは持ち前の運動神経を()かして、()(そそ)巨拳(きょけん)()け続ける。どんな威力でも当たらなければ意味は無い──と、シャ ● 少佐も言ってたし。
 とはいえ、二次被害は甚大(じんだい)
 グラウンドにはボコボコと鉄拳の(あと)が増産され、植え込みへと身を隠せば空振(からぶ)る鉄腕に植樹(しょくじゅ)()()られる始末(しまつ)
「ガンバレー!」「負けるなー!」「行けー!」
 身の安全を確信したからか、各教室から他人事(ひとごと)テンションな声援が向けられてきた。
 事の成り行きから、どうやらボクを〝味方〟と判別したらしい。
 ホント、現金なヤツラだよ。
 全身鋼質化に加えて〈PHW(セーラー)〉を着込んでいるから、正体がバレる心配は無いだろうけどさ。
「ちゃんと勝ってよね? 今月、ポケマガチヤバなんだから」
 ネイルケアがてらにギャル系がゴネた。
「オマエらーーッ! 小遣(こづか)(かせ)ぎのトトカルチョ開催(かいさい)してるだろーーッ!」
『マドカ、集中して』
 胸ポケットのパモカが(いさ)める。
「ジュン? いま、何処さ? おっと危な!」
 頭上からの鉄拳を回避しつつ、現在地を確かめた。
『二階の電算室。此処なら滅多に誰も来ないし、対策に熟考(じゅっこう)できるもの』
「で、策は?」
『現状、圧倒的に情報不足なのよね……一応、此処のコンピュータをパモカ補佐に使って模索(もさく)してるんだけど』
「まさかの策無し?」
『う~ん? 大概(たいがい)〈人型ロボット〉っていうのは〝人間〟を()してるせいか、御丁寧(ごていねい)に頭部へ重要回路を集中搭載(とうさい)しているのよね……AIとか各種センサーとか。そこ(・・)を破壊できれば、(ある)いは勝算も──』「ラジャっす!」『──って、マドカッ? いまの、単に考察だからッ! 作戦じゃないからッ! マドカ、聞いてるッ?』
 泡食って制止するも……ゴメン、もう後の祭り。
 (すで)にボクはフラモン頭部の高度まで急上昇していた!
「んにゃろ!」
 渾身(こんしん)の鉄拳を鉄面(てつめん)へと(たた)()む!
 効かない。
 むしろボクの方が鏡返しを喰らった。
「シビビビビビ……ッ!」
 鋼質化ボディの内側を衝撃の振動が駆け抜ける。
「なら、これで!」
 玉葱(たまねぎ)(あたま)を踏み台に、真上へと跳躍!
 そのまま落下の勢いに乗せ、空中前転を加味した(かかと)()としを繰り出す!
 (つづ)(ざま)延髄(えんずい)()り!
 ローリングソバット!
 ミドル! ハイ! ミドル! ロー! ミドル!
 ()りのラッシュを、がむしゃらに顔面へと打ち込む!
 にも(かか)わらず、フラモンは無表情に涼しい顔……腹立つ!
「クソッ! 効かないや!」
『じゃなくて、心配かけない! どうして考えなしに即決(そっけつ)するの!』
「考えるな、感じろ」
『……香港(ホンコン)の大スターに謝れ』
「ブゥブゥ! だって、もう行動に入ってたんだもん!」
『まったく……でも、あなたの〈エムセル〉よりも硬いって、どんな宇宙金属なのよ?』
「うん、宇宙は広いよね……って、ふぇ?」
 眼界(がんかい)が薄暗く染まった。まるで日陰のように。
 イヤな予感に頭上を(うかが)い見ると、高々と振り上げられている平手があった!
「どわわわわ~ッ? 待て待て待て!」
 と、不意にボクの腰へと何か(・・)が巻き付く!
 弾力性に()んだ極太ロープみたいなヤツ。緑色のタイヤチューブみたいな代物(しろもの)
「ん? 何さ、コレ?」
 ロープの出所(でどころ)を目で手繰(たぐ)り追うと、それ(・・)は屋上から伸びていて──「でぇぇぇええーーッ?」──そのまま平行バンジーを()いられたよ!
 瞬発的なGがエグッ!
「何だ何だ何だ! コレは!」
「どうやら絶妙なタイミングだったようですわね」
 バンジーロープが(しゃべ)った!
 聞き覚えのある声で!
「って、ラムスーーッ?」
 離陸数秒後には屋上へと投げ捨てられていた!
 鋼の尻餅(しりもち)が、床アスファルトを軽微に破砕!
「痛~い! おしり割れたぁ!」
元々(もともと)割れていますから御心配なく」
 人型を再形成しつつ、メイドベガが()めて流す。
「ラムス? (たす)けに来てくれたの?」
「勘違いしないで頂けます? 単に買い物帰りですわ。それに貴女(あなた)に何かありましたら、ヒメカが悲しみますから」
「相変わらずのヒメカ(ラブ)だな……ってか、ボクは愚妹(ぐまい)のオマケか!」
 釈然としない心境を押し殺す中、フラモンがボク達へと振り向いた。
「データ照合──〈ブロブベガ〉ノ〝ラムス〟ト認識。障害トシテ排除スル」
 巨体がズンズンと迫り来る!
 ──ツルーン!
 転んだ。すってんころりんと。
 起きあがろうとして──ツルーン!
 再度、()い起きようとして──ツルーン!
「不確定障害発生──トラップ確認」
 七転八倒(しちてんばっとう)を繰り返し、フラモンはようやく転倒要因に気付く。
 手で(すく)い拾ったのは、緑色の粘液。
 それがヤツの足下周辺に()いてあったのだ。
(わたくし)自身から生成された特製ローションですわ」
「いつの間に仕掛けたのさ?」
先程(さきほど)、マドカ様と交戦していた時ですわよ。液状化して足下を()り抜ける(さい)()いて去りましたの」
 閑雅(かんが)種明(たねあ)かしをしながら、1リットルペトルのミネラルウォーターをゴキュゴキュ。
 あ、ホントだ。
 身長、ちょっと縮んでる。
 ってか……体積(たいせき)補填(ほてん)それ(・・)じゃないだろうな?
 足下(あしもと)のレジ袋に、いっぱい買い込んであるし。
「歩行ニヨル離脱可能確率十六パーセント──飛行シークエンス実行」
 脱出を(はか)るフラモンが、スカート部からバーニアを噴射!
 飛翔離脱を(こころ)みる(さま)は、(さなが)らヘリウムバーニアの巨大版だ!
「ヤバッ! そういえば、アイツって飛行能力があるんだっけ!」
「その点も御心配なく」
 涼しい態度で長いもみあげ(・・・・)(もてあそ)ぶラムス。
 彼女の自信を立証するかのように、粘液がフラモンのスカートを掴んで放さない。まるでとりもち(・・・・)のように張力(ちょうりょく)を発生していた。
(わたくし)自身の粘液(ローション)ですから、糸一本(・・・)分でも(つな)がっていれば性質自在。現在は粘着(ねんちゃく)張力性(ちょうりょくせい)に特化させましたわ」
 そう言って小指をヒラヒラ。
 よく見りゃ、指先に納豆糸みたいなのが泳いでいる。
「張力均衡値想定外──出力上昇」
 フラモンは、(さら)にバーニア噴出を上げた!
 地表から数メートルは浮上できたが……そこまでだ。
 ラムスローションは、しつこく食い下がる。
 反発に引き合う二つのベクトル。
 そして──どんがらがっしゃん──(こん)()けしたフラモンは、とうとう地面へと()いつけられた。後頭部を打ちつける墜落ぶりが、遠目で見ていても痛々しい。
「あらあら、無様ですわね……クスクス♪ 」
 優位性に酔って、ほくそ笑んでいるし……。
 怖ッ! コイツ怖ッ!

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