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第30話:魔法

 昼食を食べ終わった後、母さんに声を掛けられた。一体何の用だろか。

「母上、一体何のようですか?」
「シズナ、魔法の特訓をするわよ」

 えっ、()()?。今魔法って言った!?

「はい!!」

 『魔法』という言葉に惹かれた俺は今までで一番いい笑顔で返事した。

「それじゃあ、庭に向かうわよ」

庭‥‥‥庭かぁ‥‥‥また、あのクソ野郎にまた会うのか‥‥‥嫌だな‥‥‥。しかし、俺の脳内では『魔法>>>>>超えられない壁>>>>>>>>>>クソ野郎』の構図が出来上がっていた。そのため、魔法のためならクソ野郎に会うのも大丈夫!という謎の自信があった。

 そんなことを考えていると庭に着いた。でも、魔法のためとはいえ、やっぱり会いたく無いなと思っていたが、予想に反して庭には誰も居なかった。

 居ない‥‥‥よかった‥‥‥何か、アレに会うのがトラウマじみているような‥‥‥そんなことないか。

「さて‥‥‥これから魔法について教えますッ!」

 お、やっと始まった。正直、剣よりこっちの方が興味ある。それにしても、母さん楽しそうだな‥‥‥。

「魔法というのはスキルを持っている者が詠唱をして魔力を消費させて行う術である。だけど、そのためには『魔力』を認知してないと使えない。だからシズナ、両手を出して」
「こうですか?」

 俺は言われた通りに両手を出した。一体これから何が始まるんだ!?そう思うと不思議とワクワクしてくる。

 そう思っていると唐突に母さんが俺の手を握っーーこれは()()というより、()()だなーー包んだ。いきなり手を握られたことよりも掌の暖かさに驚いた。なんというか‥‥‥ここが落ち着くという安心感がある。

「これから私がシズナに魔力を流すわ」

 そう言って母さんは俺の手を少し強く握った。途端、俺の指先から順番に体が熱くなり最後は身体中がポカポカした。やがてその()は俺の胸に集まった。ドクドクと鼓動を打っている心臓右の位置に。

「母上、胸が熱いです」
「水か空気か分からないでしょ?それが魔力よ」

 これが魔力‥‥‥。

「さ、魔力を認知できたから次は魔法を使ってみましょう」

 おお~、やっと念願の魔法を使えるのか‥‥‥前世でも何回か『魔法があればーー』みたいなことは考えていたが‥‥‥まさか、来世で魔法が使えるとは夢にも思ってなかっただろうな‥‥‥そもそも輪廻転生があることすら信じてなかったし。

「まずは基本の『火球(ファイア・ボール)』ね」

 『ファイア・ボール』!!すごく厨二っぽい魔法名だ。

「形なき火よ、ーー

 おお~、詠唱だ!!ますます魔法っぽいな!!

ーー我が障害を打ち倒せ、『火球(ファイア・ボール)』」

 おお~‥‥‥お?あれ、おかしいな。てっきりもっと凄いものが出現すると思ったんだけど‥‥‥出て来たのはドッジボールサイズの火の玉。
 ‥‥‥いや、それも十分凄いけど‥‥‥もっとなんかこう『燃やし尽くす』みたいなものかと思ってたから‥‥‥ちょっと期待はずれ‥‥‥。

「どうかしら!?」

 母さんがキラキラした目で聞いてくる‥‥‥世辞でも言っておこうかな‥‥‥。

「凄いです‥‥‥」
「本当に?本ッッッ当にそう思っているの?正直に話しなさい」

 うっ‥‥‥バレてる。いくらなんでも、勘か何かが鋭すぎない?これが母の力‥‥‥なのか?。
 これ以上怒られるのも嫌だから正直に話そう。

「僕はてっきりもっと大きな火が出ると思ってたんですが‥‥‥期待はずれでした」
「そうなのね‥‥‥仕方ないわ。魔法がこんなものと思われたら嫌だから()()にもっと威力や規模が大きい魔法を使うわ。危ないから離れていなさい」

 そう言って母さんはどこからともなく先が尖った赤い木の枝を取り出した。

「身を持たぬ火よ、汝、その身を槍へと変形させ、ーー

 凄い‥‥‥まだ詠唱が終わってないのに先程の『ファイア・ボール』とは比べ物にならない熱量を感じる。実際に俺は今暑いせいで汗をかいている。

ーー彼の者を穿て、『火槍(ファイア・ジャベリン)』!!」

 詠唱が終わった頃には大きな火の玉が一つの赤い槍ーー投槍って言うやつ?ーーへと姿を変えた。しかし、その槍を見れたのはほんのちょっとの間だけだった。
 槍は赤い粒子のようなものになって消滅した。時間にしたら1()くらいだな。

 俺はあの槍を見て感慨を覚えていた。そのため、隣で力を使い果たしたかのように座り込んだ母さんには気づかなかった。
 俺が母さんの異変に気付いたのは槍を見てから2()経った後だった。

「ッッッ!!母上ッ!!どうしたんですか!?」
「だい、じょうぶ、よ‥‥‥大量の、魔力を使って、つかれた、だけ‥‥‥だ、から‥‥‥」

 どう見ても大丈夫じゃないだろ‥‥‥俺のせいだ、俺が無理を言わなければ」

「母上ッ、死なないでください!!」
「死なない、わよ‥‥‥ちょっと、休めば、元に、も、どるから‥‥‥」

 そう言って母さんは眠った‥‥‥でも、微かに寝息が聞こえるから生きているだろう。

 俺は母さんが起きるまで反省することにした。まさか、あの槍の魔法があんなになるまで疲労するものだったなんて‥‥‥()()というだけはある。









ーー30()

 約30()経った頃、母さんが起きた。体感で30()だから実際は10()かもしれない。

「あっ、母上ッ!!」
「おはようシズナ、心配掛けたわね」
「いえ‥‥‥僕が無理に頼んだので‥‥‥すみません」
「いいのよ。子供のために無茶をしてでも頑張るのが(私が考える)親だもの。貴方は気にしなくていいわよ」
「はい‥‥‥」
「はい!この話は終わりッ!そんなにクヨクヨしていてはダメよ」

 そう言って母さんは俺のほっぺを引っ張った。

「いふぁいでふ、ふぁふぁうへ」

 勇気づけるためにほっぺを引っ張ったのだと思う‥‥‥多分。せっかく励ましてくれたんだ、俺も元気に振る舞おう!!

「ところでさっきの魔法はどうだった?凄いでしょ!!」
「はい!!凄かったです」
「それは当然よ。なんせ、MP(魔力)を1000も消費するレベル9の魔法なのよ」

 母さんは自慢げに語って()()()をした。ちなみにかわいかったです。
 それにしても、魔力を1000も消費か‥‥‥俺には遠い世界だ。

「さ、今度はシズナが魔法を使う番よ。詠唱は自然と頭に浮かぶわよ」
「わかりました!!」

 あーなんか緊張してきたな。一回深呼吸しよう。

「すーはーすーはー」

 よし!深呼吸したら少し落ち着いた。さあ、詠唱を始めよう!!ーーと思ったら、母さんが何かを渡してきた。

「母上、これは何ですか?」
「それは魔法の発動を補助する杖よ」
「母上の杖とは違うのですが‥‥‥」
「アレは私専用の杖よ。今渡したのは初心者用の杖よ」
「そうなのですね」

 気を取り直して、詠唱を始めようと俺が思うと脳内に文字が浮かんだ。何故か日本語で‥‥‥。

 俺は脳内に浮かんだ文字通り、杖を構えてーーと言っても、杖を前に突き出すだけーー唱えた。

「形なき火よ、ーー

 俺が唱え始めた頃、何処からともなく赤い粒子が俺の周りに現れた。

ーー我が障害を打ち倒せ、『火球(ファイア・ボール)』!!」

 唱え終えて少し脱力感を感じた後、赤い粒子が一箇所に集まって火の玉になった。()()()()()()サイズだけど‥‥‥。
 あれ?ちっさい‥‥‥。何故小さくなったか分からない俺は不思議に思った。

「一回で成功したのね。なかなか筋がいいじゃない!」

 これで筋がいいのか‥‥‥結構簡単なんだな。

「でも‥‥‥母上の『火球(ファイア・ボール)』より小さいです」

 俺が思った疑問を口にすると、母さんは丁寧に答えてくれた。

「今は小さいかもしれないけど、練習を続けたら大きくなるわよ。でも、MP(魔力)が0になったら気絶するからそこは気をつけなさいね。分かった?」
「はい!!」

 魔力がなくなったら気絶するのか‥‥‥覚えておこう。

「あと2回練習できるよね。早く練習を終わらせましょう」

 俺は2回『火球(ファイア・ボール)』を唱えた。すると、とてつもない脱力感に襲われた。
 だるい‥‥‥身体中がだるい。あまりにも体がだるいと思った俺は地面に座った。

「あらら~1回だけ練習したほうがよかったかしら?」
「たのしかった、から、べつにいいよ‥‥‥」

 あまりものの脱力感に俺は普段敬語を使わずに話してしまった。

「すみ、ませ、ん‥‥‥けい、ごをつか、わな、くて‥‥‥」
「別に良いわよ。疲れているのだもの、今はしっかり体を休めなさい」
「は‥‥‥い‥‥‥」

 安心しきった俺は睡魔に襲われた。

「ふふふ、いくらしっかりしていてもやっぱり子供ね」

ーーすでに眠った俺にはその言葉は届かなかった。

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