第13話 納税
商業ギルド、この町で商売をしてる者は全員が入っている。
なぜなら税を納めなければならないからだ。
食堂、宿屋、雑貨屋、武具屋、薬屋、乗合馬車……etc
商売をすれば、必ず税も払わなければならない。
屋台のように場所代を払って商売をする場合でも例外ではない。
場所代は商業ギルドが定めた区画を借りるため、商業ギルドに支払い、売上金に関する税も場所代に含まれているから後から払う必要は無い。
売り上げが上がればその分得をするが、売り上げが少なければ場所によっては大赤字になる。
その点は店を構えた商売も同じ。
場所に対して年間使用料が発生するだけ。
この世界の人達って、識字率も計算能力も結構低い。
そんな世界なので、大商人などは付けている様だが、中小規模の商売をしている人で帳簿を付けている人も少ない。
そんな人達に年間売り上げの何%を納税って言っても正確な数字が出るはずも無いので、場所や職種によって年間に支払う税額を決めている。途中で商売を辞めるからと言って、月割りや日割り計算などはしない、すべて年間契約だ。
商業ギルドには元奴隷の十八人の内、女三人と男一人を連れだってやって来た。
先日の領主様との話で王都に行かないといけないかもしれないから、俺がいなくても問題ないように何人かに商業ギルドに登録してもらおうと思って連れて来たんだ。
選出方法は算数のテスト。二桁の足し算と引き算。
俺が十問作ってその上位四人。
トップはいつも話し合いの時に手を上げてくれるローズさん、100点満点。
この人、容姿は最高に綺麗だし、発言もできるし、リーダーシップも取れそうだし。しかも頭がいいって凄いよね。
足し算と引き算だから頭がいいってのもアレだけど、他のメンバーに満点がいないんだから頭がいいんだと思う。
二位はアンジェリカさん、一問失敗の90点。ローズさんみたいに、よく発言してくれる女子だ。引き算で間違えたから、繰り下がりが苦手なのかもしれない。
料理の腕はナンバーワンなんじゃないかと思ってる。ホント切ったりするのも上手だし、調味料の合わせ方が特に上手なんだ。味覚がしっかりしてるのと組み合わせるビジョンを見るセンスが高いんだと思ってる。
料理はセンスだよね。
三位にトム、80点。男子が上位に入ってくれてホッとしている。
ただでさえ女性多数なんだから、男子が全滅だとどうしようと思ってたから同じ男として凄く安心した。
四位にピエールのお姉さんのピーチさんが入った。70点。
他の人の出身は聞いてないけど、ピーチさんはスラム街の出身のはずだ。それで四位にに入るとは凄いんじゃないかと思う。
因みに一位と二位の二人は、いいとのこお嬢さんだったかもしれない。なんて密かに思ってる。
だって立ち居振る舞いが綺麗なんだよ、所作って言うの? 食べる姿も優雅だし、絶対、そういった作法を習ってると思うんだ。
こういうのって奴隷屋で教えたりするの? そんな事ないよね?
他のメンバーは50点以下。だから商業ギルドは今回は諦めてもらった。
読み書きと足し算引き算は勉強させないとな。
どこでやればいいんだろ、【星の家】に参加させるのは往復するのが面倒だから、この町でそういう所はないのかな。
元奴隷の人達は、自己紹介してもらった時に年齢も聞いていた。
全員、俺と変わらない年齢だった。
十五歳から二十一歳。【星の家】の年齢層より少し上の年齢層。
【星の家】がプライマリだとしたら、こっちがハイスクールって感じの年齢層だね。
「すいません、ご相談があるんですが」
窓口では俺が代表して声をかけた。
「はい、いらっしゃいませ。本日はどのコースになさいますか?」
前に来た時にも見たと思うお姉さんだ。名前は聞いてない、と思う。
あ、そういえば、時間によってコースがあったな。
「えーっと、前に聞いたと思うんですけど、一番長い相談コースっておいくらでしたか?」
何度も商業ギルドに来ないといけないって思って予定を立てていたから、何度も来ている気がするんだけど、まだ二回目。大分前だし、いくらだったか覚えてないね。
「はい、時間無制限コースは銀貨五枚でございます」
「じゃあ、これで」
銀貨五枚を出した。
「今日は五人で来たんですけど、全員一緒でもいいですか?」
「相談内容は同じですか?」
「そうですね、皆で店を出しますので同じですね。あ、その前に、僕はもう登録できたのでいいんですが、先にこっちの四人をここに登録してくれませんか?」
後より先がいいよね。
「登録ですね。誰か紹介者はいらっしゃいますか?」
さすが、冒険者ギルドとは違うね、紹介者かぁ。
「紹介者は僕でもいいですか?」
俺も商業ギルドカードを発行してもらってるから行けないかな?
「あなたの紹介? ですか。失礼ですが、どこで登録をされましたか?」
「はい、昨日城で……登録というか、発行してもらいました」
「城で!? しかも昨日?……すみません、商業ギルドカードを拝見させて頂いてよろしいですか?」
「え、ええ」
受付のお姉さんがちょっと驚いてるみたいだけど、城でカード発行されるのって珍しいのかな。
収納バッグから、昨日発行してもらった金色の商業ギルドカードを出して見せた。
「き、金! ……やはり……少々お待ちください」
受付のお姉さんは慌てて席を立ち、どこかに消えた。誰かを呼びに行ったと思う。
なんか、またやらかした感じがする。金色って事に驚いてたように見えたけど、領主様が特別なものをくれたって事はないよな。普通でいいんだけど。
少し待つと、さっきのお姉さんが見た目五十歳ぐらいの男性を連れて戻ってきた。
髪が真っ白なので老けて見えるんだけど、実際はそこまで行ってないのかもしれない。
元々白髪なのか、年を経て白髪になったのかは分からないけど、艶のある髪だし皺も少ないので元々の髪の色なのかもしれないね。
「お待たせ致しました、今マスターを連れて参りました」
マスター!? なんで? いきなりラスボス登場?
「お待たせしました、ようこそ商業ギルドへ。ギルドマスターのラッシー・ボダコリーと申します、以後お見知りおきください」
「え、えっと。ご、ご丁寧にありがとうございます。僕はエイジ・ホシミと申します。昨日、登録したばかりの新人です」
ラスボスが出てきてビビッてるのに、そのラスボスが凄く丁寧な対応なので驚いてすぐに返事ができなかった。
なんでこんなに丁寧な対応をされるんだろ。
「冒険者登録もされていて、パーティのリーダーもされていると聞き及んでおります。今後はリーダー様とお呼びさせて頂きます」
え? そんな恥ずかしい呼ばれ方は嫌だよ!
「ちょっとそれは遠慮させてほしいんですけど」
「お気に召しませんでしたか。では店長では如何でしょうか」
「店を出す相談に来たのは確かですけど、まだ店も出してないので店長もどうかと」
「では、マネージャでは?」
「えっと、普通に名前でいいですよ」
「……統括様ではどうでしょう」
あれ? 何でそんなに色々出すの? 名前を呼びたく無いとか?
でも、言ってくれた呼び方は全部しっくり来ないから名前で呼んでほしいんだけどな。
じゃあ、いつものでいいか。
「冒険者ギルドでもそうですが、周りからはイージと呼ばれています。エイジと言いにくければイージでいいですよ」
「!」
ギルドマスターと受付のお姉さんが驚いた顔をしてお互いに目を合わせた。
ギルドマスターが一つ頷いた後に、確認を取り付ける。
「では、イージ様でよろしいですか?」
やっぱり言いにくかったんだね。
「別に様もいりません、イージでいいです。イージ様なんて大げさ過ぎませんか? 僕は#新人__ルーキー__#ですよ?」
「いえいえ、そういうわけには参りません。先程、#金色__ゴールド__#カードを提示して頂いたと聞き及んでおります。私にも見せて頂けますでしょうか」
やっぱりか。やっぱり領主様は何か余計なカードを発行したんだな?
さっき受け付けの女性に見せた商業ギルドカードを、マスターにも見せた。
「お借り頂いてもよろしいですか?」
「はい、どうぞ」
得はしたいけど、毎回毎回出すたびに面倒事が起こりそうなカードならいらないんだよ。
このままマスターに返せないものかな。本気でそう思うよ。
手渡したカードをマジマジと見るギルドマスターのボダコリーさん。
むーっと小さく唸った後にカードを返してくれた。
「では、別室でお話しを伺いましょう」
え? ギルドマスター自ら? いえいえ、それは辞退したい。恐れ多過ぎるでしょ。新人にギルドマスターが担当するって有り得ないって。
「あのー」
「はい、こちらです」
受付のお姉さんも一緒に案内してくれるみたいだ。断れる雰囲気じゃないね。
「はい…お願いします」
二人に付いて行くと、前回来た時に使った個室を通り過ぎて行く。つい周囲を見回してしまう。
同行の四人も俺の後を付いてくるけど堂々としたもんだ。
こんな所まで入った事も無いだろうに。
二人は止まらず二階へ上がっていく。
これって、もうマスタールーム行きしか考えられないじゃん。
二階にも部屋は幾つかあったけど、予想通りマスタールームに通された。
「改めて、マスターのラッシー・ボダコリーです。末永く良きお付き合いをお願いします」
「何度もご丁寧にありがとうございます。新人商人のエイジ・ホシミです。イージと呼んでください。あと、こちらからローズ、アンジェリカ、ピーチ、トムです。今日、登録するつもりで連れて来ています。この者達の事もよろしくお願いします」
連れの事も、名前を呼びながら順番に紹介した。
「分かりました、後で四名の登録も致しましょう。さ、どうぞお座りください」
ギルドマスターに促され、全員席に着く。
ローテーブルを挟んで向かい合わせで座る格好となった。俺がソファで後の四人が簡易椅子に座る。
全員が座った事を確認し、ギルドマスターが一緒に上がってきた受付のお姉さんを紹介した。
「今後は、このセシールが皆様を担当します。彼女は受付もやりますが、外回りも熟す優秀なギルド員です。今後、皆様のお役に立つでしょう」
俺達は会釈で答えた。
担当が付くとか意味が分からない。とにかく先に疑問を解消させたい。
「あのー」
「はい」
「なんでここまで優遇されるのでしょう。僕は昨日カードを発行されたばかりなんですよ? 商売だって、まだした事が無いんですが」
「城で何も聞いていませんか?」
「はい、何も聞いてません」
領主様も悪戯が過ぎますね。と小さな声で呟いた後、説明してくれた。
「その#金色__ゴールド__#カードは城でしか発行しないカードなのです。それも、領主様の設定したラインをクリアした方にしか発行されません。このフィッツバーグ領に貢献する事で発行されるカードなのです」
「設定ラインですか……どんなものか聞いてもいいですか?」
どんな設定か知らないけど、商売で何かをクリアした覚えが無い。
「はい、この領地の窮地を救った方ですとか、超高額の納税を頂いた方などです」
窮地を救った事も含まれてるのか。それなら魔族の件をカウントされたのかもしれないな。
「それはこのフィッツバーグ領歴最高の納税を頂いたからだと思います。まぁ当然でしょうね」
そっち? 納税最高額者? 納税した覚えなんかないんだけど。
「いつ? っていうか俺が?」
あっ! ビックリして、つい俺って言っちゃった。
「はい、報告は冒険者ギルドより領主様に行ってますので、こちらでは直接聞いた訳ではございませんが、当ギルドが調べました所、イージ様はかなりの素材を冒険者ギルドに納めておりますね?」
「は、はぁ」
それは覚えてる。そのお陰で今も非常に潤ってますから。
「あの時の納税額が歴代最高額だと思われます。当ギルドで調べた結果でも、白金貨五百枚以上の納税をされている事が分かりましたから」
はい? ご、五百? 白金貨五百枚だったら俺がもらった分より多いんじゃない?
「素材を売った覚えはあるんですが、納税した覚えが無いんですが」
「これもご存知ありませんでしたか。当ギルドもそうですが、売買が発生した時点で納税は発生します。冒険者ギルドの素材ですと、物にもよりますが素材の五割ほどでしょうか。残りの三割を冒険者ギルドが取り、冒険者当人に支払われるのは二割程です。イージ様は素材を売るだけで納税されているという訳なんです」
因みに商業ギルドは場合によってはもっと頂きます。とギルドマスターが説明してくれた。
だったら俺がもらったお金の倍以上納税してたって事?
ちゃんと端数まで覚えてないけど、二回とも白金貨二百枚以上もらってるから、白金貨四百枚だとして2.5倍で千枚。俺って白金貨千枚以上の納税をしたって事なの!? 五百枚どころじゃないよ!
金貨二枚で贅沢をしなければ一ヶ月暮らせるって事だったけど、白金貨千枚って……うーん、計算できない。
すっげ、俺って超高額納税者じゃん!
なら、この#金色__ゴールド__#カードにも納得だな。
丁寧に対応してくれるし、いい土地を教えてくれるといいな。