vs, ブロブ Round.1
夕焼けが
すっかり遅くなったボク以外に
その帰路で、彼女は待っていた。
メイド少女だ。
髪を
しかしながら、同時に
チラ見に
スカートを軽く
「
「違います」
簡潔に答えて横を素通り。
直感で悟ったけれど、たぶん〈ベガ〉だ。
夕飯支度の誘惑が香り漂う住宅街で〝メイドさん〟がボクを待っているなんて不自然すぎる。そもそも、この辺にメイドカフェなんて無いし。
メイド少女は
「あのう?
「いいえ、違います」
ツカツカと歩くスピードを上げた。
引き離されないように横歩きするメイドさん。
「
思ったより頑張り屋さんだった。
う~ん、ダメだな。
この流れ、エンドレスだ。
あ、そだ!
「ボクは〝ソノム・ネクレー〟言いマ~ス! ウーソン王国から来た留学生デ~ス!」
「え? 人違い……でしたか?」
こうしてボクは無事に帰路へとついたとさ。
「──ってな事が、さっきあってね? ゲラゲラゲラ♪ 」
「アホかーーッ!」
ジュンの卓上メニューハリセンが脳天に炸裂した!
店内に響く軽薄な破裂音!
「何で〈ベガ〉を無視して、マドナ来てるのよ!」
「だって、ボクにメリットないじゃんさ? ようやく解放された
「……あなた、使命感とか無いの?」
苦虫顔で詰め寄るジュン。
「だって、シノブンの襲撃以降、
「まあ、気持ちは分からなくもないけど」
軽い同情を浮かべつつ、ジュンが座り直す。
そう。
例の一件以降、コンスタンスに〈ベガ〉が襲撃してくるようになった。
さっきの〈メイドベガ〉も、その
ボク自身が能力慣れしてきた事もあるけれど、ジュンやクルロリのサポート指示が得られている点も勝因には大きい。
「おかげで勉強にも身が入らないし、この間の小テストも散々……モグモグ」
「それ、本当に〈ベガ〉のせい?」
「だって、勉強する気が起きないのも〈ベガ〉のせいだもん!」
「
あ、同情が失せた。
アイスミルクティーで気持ちを鎮め、彼女は話題を変える。
「で、クルロリは? 相変わらずコンタクト無い?」
「モグモグ……無いよ。ジュンだって無いでしょ?」
「うん」
クルロリが現れるのは、決まって〈ベガ〉との戦闘時だけ。それ以外では
同じ〝
「結局、たいした情報も明かされていないのよね。口が固いというか、
「モグモグ……そだねー」
「もぐもぐタイムは、もういい!」
これまでに提示された情報は、実に最低限程度のものだけだ。
後日に詳細説明があると思っていただけに、期待は空回りで終わった。
だって、会えてないもん。
サポート兼現場指揮にだけ現れて、それが済むとドロンしちゃうし。
「何か
「モグモグ……情報を整理すると、ボクは〈アートル〉とかいう種族の〈ベガ〉なんだよね?」
「ええ、遠い昔に絶滅したらしいけれど。金星の超高温環境に適応すべく、
「ふぇ? どゆ事?」
「そもそも金星環境に生存特化した〈アートル〉は〝炭素生命体〟へと変身する必要が無いもの」
「じゃあ……クルロリ製?」
「おそらくね」
「それってば超レア?」
「まあ、そうも言えるわね」
「いまだけ
「……何でソーシャルゲームのCMか」冷ややかに流された。「で、クルロリの説明によると、鋼質化現象のプロセス根源は〈エムセル〉の細胞核〈
「ああ、そういやシノブンも、そんな事言ってたっけ。で、その〈
「現行科学常識で〝
……
「その〝mRNA〟ってのは、何さ? そもそもRNA自体が解らないけど」
「RNAとはDNAと酷似した構造を持つ分子。その内、DNAから遺伝コードをネガ複写して、別細胞へと正転写複製するRNAがmRNA──正式には〝メッセンジャーRNA〟と呼ばれる物よ。生物の細胞増殖は、これによって成立しているの。で、あなたの〝オペロン〟は、DNAに
「オベロンって?」
「リプレッサー領域を所有する細胞の呼称」
「リプレッサーって?」
「DNAに付着する事で情報複写を制御するスイッチ的な
「炭素と
「少しは勉強しろーーッ!」
メニューハリセン再び!
「うぅ……勉強する
「ご飯食べて、テレビ観て、お風呂入って、深夜バラエティ観て、ゲームして、寝るからそうなる!」
「こんな難しい理論、高校生には不要だよ。理系大学じゃあるまいし」
「炭素と
ガチ説教を喰らう
ボク逹は発振源を取り出した。
つまり、パモカだ。ボクは赤で、ジュンのは青。
一応、着信履歴を見ると──やはりクルロリからだった。
「はい、ハロす!」
とりあえずボクが出た。
チャットリンク仕様だから、どちらが出ても問題ないんだけどね。
『
え? 警察無線を盗聴したってか?
それって犯罪じゃん!
まあ〝宇宙人〟に、地球の法律が適用されるかは知らないけれど。
『証言によると、住宅街で
「
ボクは関心薄く六層チーズバーガーを頬張った。
そんな奇々怪々なメイド、あの
ってか、さすがに六層だと臭いキツいな。
「それで逃亡先は?」
緊迫を
『先程、広範囲
「へー?」
ボクは
正直、関わりたくないし。
が、口直しのコーラを含んだ直後、クルロリからトンデモ情報がもたらされた。
『ちなみに籠城先は、
「ブフゥーーーーッ!」
噴き出したよ!
何してくれてんだ! アイツ!
ってか、クルロリも早く言え!
「わわわかった! とにかく、すぐに合流す……る……って、アレ?」
『
「いや、ジュンがね?」
頭からビショビショだった。コーラで。
あ、ヒクヒクと頬がひきつっている。
「いきなり何すんのよーーッ!」
怒気爆発で必殺の
周囲からの注目を一身に浴びて……。