第01話 畑に植える物
章は変わりましたが、【第2章】から話は続きます。
レベルが上がったので、一旦終了させて続編で行こうかとも考えましたが、タイトルは変更せずにこのままで行きます。
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『#漆黒大蛇迷宮__ピュートーンダンジョン__#』を一階層で諦めて出て来た帰り、クラマはフカンジェンジェンソウじゃ! と言ってキッカ達を連れて山に登って行った。
ダンジョンでは一度も戦って無いからね。凄くやる気だったみたいだし、キッカ達には申し訳ないけどクラマに引きずられていく三人をただ見送るしか無かったよ。
でも、『フカンジェンジェンソウ』? なんの草?
もしかして、不完全燃焼? モヤモヤするって言ってたから『不完全燃焼』…かな?
……じぇんじぇん言えてねーし! 分かりづれーわ!
マイアはというと、「私は戦闘は本来しませんから」と居残った。
さっきは結構張り切ってたと思うんだけど……
レベルが高いから、修行時代は相当戦ったんだと思うんだけど、三桁の年の頃って言ってたから何千年も前の話だろうし、本人がいいと言うならいいんだけど、何か腑に落ちないね。
マイアが笑顔すぎるのも何か企んでそうで怪しんでしまう。
さっき見送る時も、満面の笑顔で見送ってたもんな。今も俺に向けて笑顔を絶やさない。
でも、向こうから言わない限り黙ってよう。無理なお願いをされても困るからね。
「マイア、さっきマイアが育ててくれた畑にジャガイモがあっただろ? 本当はこっちに作る予定だったんだけど、もうあるから別の物にしたいんだ。何かいい物はある?」
「はい、それなら薬草はどうでしょう。月光草はHP回復に、蒼白草は毒などの身体異常回復に役立ちます。そのままより成分のみを抽出して薬にした方が効果は高いですが、そのままでも十分効果は見込めます。苦くて飲めませんけど」
「薬草かぁ、それいいね。薬草にしようよ。それってマイアにできるの?」
「はい、今言った月光草と蒼白草はできるのですが……」
「何? 言ってみてよ」
「はい、マンドラゴラとアルラウネを作れば、もっと効果的な回復薬を作れるのです」
「マンドラゴラとアルラウネ? それってどんなの?」
「はい、非常に希少で、私も三度しか見た事がありません。育てる事はできると思うのですが、見つける事が難しいのです。ですから私は種も苗も持っていません。でも、育てて収穫できれば、万病に効くという万能薬や、組み合わせによっては長寿薬や蘇生薬を作る事も出来るのです」
なにその夢の様な薬は。それはもう育てるしかないでしょ。
「どこにあるか分からないの?」
「はい、1000年前に精霊界で見たのが最後です。それからは封印されてましたから」
1000年前⁉ しかも精霊界? 精霊界ってどこよ!
あれ? でも、ちょっと違和感が……
「マイアっていつ頃封印されたの?」
「約500年前です」
500年! 500年って凄いね。
「なんで500年って分かったの?」
「昨夜、妖精が教えてくれました。それに、封印されてても少しは周りを見れましたから」
「石になってたのに?」
「はい、満月の夜に数時間だけ水に浸かって無い部分の石化が解けましたから。結界の封印は解けませんから魔法やスキルは使えませんでしたけど」
確かに石化の呪いって池の水に掛かってたね。水に使ってない上半身だけ満月の夜に呪いが解けてたんだね。声を上げても周りには誰もいなかっただろうな。結界もあったから誰も入って来れなかっただろうし、周りは見えてたとは言ってるけど、余計に寂しかったんじゃないかな。
「大変だったんだね。一言で済ましてしまって申し訳ないけど、俺にはそうとしか言えないよ」
「いいえ、そのお陰でエ・イ・ジに会えました。私にはそれで十分です」
俺ってそんな凄い奴じゃないよ? たまたま封印を解いただけで、元はレベル1だからね。
それもマイアとクラマのお陰でレベルが上がっただけだから、俺自身は何もしてないからね。
「それと……その呼び方…辞めない? イージでいいよ?」
折角練習してくれたけど、さすがにもう勘弁して欲しい。
「もう少しで言えそうなんです。もう少しこの呼び方ではいけませんか?」
「はい、よろこんで!」
もう、そんな顔で頼まれたら断れないよ。元が超美人だけに、そんな笑顔で頼まれて断れる男がいたら連れて来てくれってんだ。俺が悪いんじゃない、俺が優柔不断なわけじゃないんだ。このマイアの笑顔が反則なんだよ。
話を戻さないとね。
「それで、マンドラゴラとアルラウネね。それがあればいいんだね?」
「はい。見つけられるとは思えませんが、もし見つける事ができましたら、必ずや私が育てて見せます」
マンドラゴラにアルラウネか……まさかなぁ。流石にこれは衛星でも無理だろうなぁ。
7000年生きた精霊が三度しか見てなくて、最後に見たのは1000年前。しかも見たのは精霊界。いくらなんでも無理だろうなぁ。
まず精霊界に行くってどうやって行くの? もしかしたら、この世界にもあるかもしれないけどさ。そんな希少なものなら、まず見つけられないだろうな。
でも、できなさそうな事でも聞いてみるって決めたもんな。一応ダメ元で聞いてみるか。
《衛星? ここに畑を作って、そこにマンドラゴラとアルラウネを見つけてきて植えてほしいんだ。マンドラゴラとアルラウネの種でも苗でもいいんだけど、凄く希少だという話だから無理ならいいんだ。でもねぇ……》
チラッとマイアを横目で見ると、ずっと笑顔でこっちを見ている。その少し首を傾げる感じ……大好きです!
《何とか見つけて来てほしいんだ。できる?》
『Sir, yes, sir』
おお! 返事をしたぞ! できるのか? いやいや、今回はさすがに無理だろう。でも、今まで、返事をしてできなかった事は……無いな。
それじゃ、今回も衛星のやる事を見ておこうかな。
まずは、樹を伐って更地にして行く作業は南側と同じ。その後、耕して行くのも同じ。
前回、南側では、この後に種を植えてたように見えた(はっきりとは見えてない)が、今回はハッキリ見えた。何か、人面樹の赤ちゃんみたいなやつを五十センチ間隔で植えていく。
種じゃ無いよな。株なのか? っていうか、あったの?
株と思われるものの大きさは土から出ている部分で三十センチぐらい。土の中に埋まっている部分もあるだろうから、全体で五十センチぐらいかな。
それが二種類。茶色いのと緑色のとがあって、それぞれが百株ずつぐらいある。
極希少な伝説的なやつじゃなかったの? 衛星もどっからこんなに見つけて来たの。
「エ……イ……ジ……」
えっ? 呼び方が酷くなってない?
「あの、マイア?」
「は、はい! はい! なんでしょうか!」
「いや、呼び方……」
「ななななんですか! なんでこんなにあるんですか! 私のさっきの話を聞いてましたよね⁉ 私は今まで三度しか見て無いと言いましたよね! それは三株しか見て無いという意味なんですよ! なんですか! この大量のマンドラゴラとアルラウネは!」
マイアは俺の言葉を無視して、一気に捲くし立てた。
そんな事言っても、俺は知らないよ。文句があるなら衛星に言ってくれ。
「そうだったんだ。でも、これだけあったら嬉しくない?」
「いいえ! 納得行きません!」
もう目の前にあるんだからいいじゃないか。
マイアって、興奮したら意外と大声になるんだね。あ、普通はそうか。
「じゃあ、ここの世話は院長先生に頼むしかないか」
「誰が世話をしないと言いましたか! ここの世話は私がするに決まってます! マンドラゴラにアルラウネなんですよ!? 人間に世話を出来るはずがありません!」
こいつらの世話って、そんなに難しいの?
「それならマイアに任せるね。こいつらの世話ってそんなに難しいの?」
「当然です! この二つは下手に育てると、毒を吐いたり麻痺を引き起こす叫び声を上げたりします。しかも♂のマンドラゴラに♀のアルラウネがこれだけあれば、いくらでも増やせます。後は……」
そこでマイアは顎に手を当て少し考えてから、畑を見渡し、山にも目をやり、池の方を振り返った。
「やはり、池の畔がいいかもしれませんね。池の畔に隔離ゾーンを作ります。そちらに移動させて育てる事にしましょう」
いや、そこは俺の土地じゃ無いから。後で揉めるかもしれないし、辞めた方がいいと思うなぁ。
「そこは……」
「はい、なんでしょう」
ニッコリと微笑み答えるマイア。
しかし、その笑顔には、『何か言いたい事でもあるのですか? まさか私の選んだ場所に文句などありませんよね? それはそれで問題ですよ? 精霊の私が選んだ場所に間違いは無いのですから。私が選んだ場所以上にいい所なんてあるはずがないでしょ?』
という意味が込められていた。
「い、いえ、何もありません……」
読み取ってしまえた自分が怖い。目は口ほどに物を言う……か。今、ホントに怖かったもんね。
クラマとの戦闘以来の死を感じたよ。
それからマイアは土の妖精ノームを召喚し、マンドラゴラとアルラウネの株を、この場所から移動させるように命令する。
一体何匹いるの? 南の畑にも沢山の妖精がいたけど、なにこのちっちゃいおっさん達は。可愛くねー。
池の畔に移動を終えるとマイアが結界を張り、隔離ゾーンを作った。
空いた畑には、マイアが月光草と蒼白草を半分ずつ植えて、【豊穣】で一気に成長させた。
もうさっきまでの森とは全然違う風景になっていた。
半分は衛星がやったんだけどね。
こっちにも風の妖精シルフと木の妖精コダマと水の妖精ウンディーネを召喚し、畑の管理を任せた。
さすがは森の精霊だね、もう俺のする事は何も無いんじゃない?
と、思ってた俺は大甘の甘ちゃんだった。
畑も一段落したので【星の家】に戻ってビックリ。倉庫から麦の穂とジャガイモが溢れているのだ。
どうやら大量すぎて倉庫に収まり切れなかったみたいだ。
どうすんの? これ。
すぐに院長先生に相談に行き、対策を相談した。
結論としては、食べきれないので町に売りに行く事になったのだが、孤児院の人達が行っても、まだダメだろうから俺が行く事になった。
頼まれた物は、買い取ってくれる業者を探す事、ジャガイモはこのままでもいいけど、麦は稲穂に付いたままでは売れないので、麦だけを取って粉にする道具も必要だから、その道具も購入しないといけない。
更に、薬草の事を話したら、薬に精製するための道具も必要だと言う。
全部、衛星に頼めそうだけど、今後もこの【星の家】の人達でやって行かなければならない状況になった時の為にも、道具は買っておかなければならない。
いや、今の所、出て行く気は無いんだよ。まったく。
でも、何かあった時のためにも備えは必要だろうし、道具もちゃんと店で買ってれば、後々交流もできて他の物を買う時にも繋がりが出来てた方がいいし、使い方や作物情報も手に入るかもしれないよね。
お金はあるんだし、買える物は買った方がいいと思うんだよ。やっぱり人との交流は大事だと思うしね。
そうする事で、元孤児院の【星の家】の人達も、町の人達との交流が出来て行けば尚更いいよね。
今日は【星の家】の子供達が頑張ってくれたし、妖精も手伝ってくれたみたいで、倉庫が満タンになったが、明日からはもう入れるところが無い。
早急に手を打つ必要があるね。
倉庫をもう一つと、作業場のための建物も作らなきゃいけないな。
今日の分は俺が一旦収納するとして、明日、町に行って買い物だな。
それから、ヘトヘトになったキッカ達が帰ってきた。かなり頑張ったみたいだ。もうレベルも50近くまで上がっている。三人共、ステータスが平均400を超えてるよ。
凄いね、レベルを上げるだけでこれ程強くなるの? ま、俺もその口だけどね。でも、クラマが何かしてるのかな? もうオーガにだって負けないね。
キッカ達は順調に冒険者への階段を上ってるね。
それに引き換え、俺は? んー……なにやってんだろ。
でも、孤児院からこっちに移ってもらった責任もあるし、放っておく訳にもいかないよな。
ここでの暮らしが順調になったら、それから考えよう。そんなに遠い未来でも無いと思うしな。
明日、町に行ったら何か始まる予感が……別にしないね。