第15話 レベリング
ひと晩孤児院で過ごして町で買い物をした。
パンや野菜などの食材を大量に購入した。
野菜は床下冷蔵庫があるからいいけど、パンは日持ちがしないので、100個に留めておいた。
100個と言っても、一人四個食べれば無くなってしまうから、小麦粉でも買って、自分達で焼く方がいいかもしれないね。
ミニーさんはパンも作れるのかな? 今日、帰ったら聞いてみよう。
今のところ、他に必要なものも思い浮かばないし、一度【星の家】に戻ろうかな。
[[イージさん! おかえりなさい!]]
帰ってくると子供達が俺の周りに集まって来て挨拶をしてくれる。
俺は馬で踏み付けないか心配になってすぐに馬から降りる。
すると、すぐに一人の子が俺から馬を取って、厩舎に連れて行ってくれた。
馬の世話係だそうだ。皆、色々と担当を決めてもらったんだね。
八歳以上の子は乗馬の練習も始めたみたいだ。五歳以上でも御者の練習を始めている。
皆、逞しいね。
「エイジ!」
あれ? クラマが何か怒ってる?
「クラマ、ただいま」
「ただいまでは無かろう! どこに行っておったのじゃ! #妾__わらわ__#との契約を忘れたのではあるまいな」
契約? なんだっけ?
「契約って?」
「ぬぬぬ、添い寝じゃ」
「添い寝? 一昨日したじゃん」
「昨夜はしておらん」
「え? あれって毎日なの? 一回だけじゃないの?」
尻尾のモフモフは最高に気持ち良かったからいいんだけど、毎日一緒にいれる訳じゃないんだから、毎日添い寝って難しいと思うよ。
「毎日に決まっておるではないか」
「別に決まってなかったよね? それに俺だってトラブルで帰って来れない時だってあるよ」
「なに! 何かトラブルであったのか!? それならば尚更#妾__わらわ__#を連れておけばよいではないか」
クラマを連れて? トラブルが増える未来しか見えないんだけど。
「トラブルって言うか、もう解決したんだけどね。その話を今から院長先生とするんだけど、クラマに頼みたい事もあるし、一緒に来る?」
「もちろんじゃ」
「キッカ達は……いるね。キッカ達も一緒に来てよ」
キッカ達は俺に群がる子供達に遠慮して、遠巻きに俺を見ていた。
「私達も一緒に?」
「うん、ケンとヤスもだよ」
「わかりました」「了解っす」
子供達は今から乗馬と馬車の操縦の練習をするようなので、「あまり遠くへ行かないように」と言って、俺達は院長室へと向かった。
コンコン
「はい、どうぞ」
「失礼します」
俺、クラマ、キッカ、ケン、ヤスの五人で院長室にお邪魔した。
「まぁ、イージさん。昨夜はどうされたんですか? 夕食に来られませんでしたので、皆心配していたのですよ」
「それはすみません。その事について少し話をしたいのですが、今いいですか?」
「はい、今は特にする事もありませんので、大丈夫です」
「話は二つあるんです。一つは昨日の事で、一つはこれからの事です」
そう切り出して説明を始めた。
昨日、領主と会った事。領主が町の人に孤児院にも物を売るように対処してくれると言ってくれた事。孤児院は改修して、綺麗になった事を伝えた。
領主の城に潜入した事や、領主が偽者だった事は伏せておいた。
すべてを説明して深入りさせる訳にもいかないしね。俺だって気を使ってるんだよ。
「それで、今後どうするかなんですけど、もうしばらくはここにいてもいいんですけど、町に戻っても楽に生活できると思うんですが、どうしますか?」
「その事なんですけど、もうここの生活を子供達が凄く気に入ってしまって、ずっとここに住めるのかってどの子も言ってくるのです。イージさんには甘えっぱなしで申し訳ないんですが、ずっとここで暮らす訳には行かないでしょうか」
そんな事になるような気はしてたよ。だって、今までの生活と比べると快適すぎるもんね。
「特に子供達はお風呂を気に入ってまして、一日に二回入る子もいるぐらいなんです」
確かに大きな風呂って気持ちいいよね。大浴場での朝風呂なんか最高に気持ちいいもんね。
それって町の孤児院に同じ風呂を作ってもここにいたいって言いそうだね。
そうなると思って二つ目の提案だ。
「ここにはいつまでいてもいいですよ。ただ、問題はあるんです。食料問題ですね。今はまだ床下冷蔵庫に入ってる食材がありますけど、無くなった時の補充をどうするかなんです」
「そうですね、今はキッカ達から…元はイージさんからだと聞いてますけど、頂いたお金がありますから、今の話だと将来的には町で買出しができるかもしれませんね」
「確かにそうですけど、やっぱり収入が無いと困りますよね。そこで提案なんですけど、何人かギルドに登録させませんか?」
「ギルドですか……やはり冒険者ギルドですか? どのギルドもギルドに登録できるのは十歳からです。ここにいる子で十歳以上となると、十名もいません。それでもいいのでしょうか」
「はい、何人でもどのギルドでも構いません。好きなギルドに登録させて、ここを拠点に活動すればいいんじゃないですか? そして稼げるようになれば、子供達から家賃と食事代を貰うというのはどうでしょう」
「それぐらいならいいかもしれませんね。私の方からも一つお願いがあるのですが」
「はい、なんでしょう」
「お世話になりっぱなしで、これ以上お願いするのは心苦しいのですが、畑を作れる所はありませんか?」
お、農業か。それもいいな。野菜を作って、食べる分だけじゃなく売れるものを作って収入にする。ついでに酪農なんかもいいかもね。
「わかりました、畑の場所に関しては用意しますので少し時間をください」
「ありがとうございます」
「それと、クラマにお願いなんだけど、キッカ達と一緒に魔物を倒してきてくれない?」
「別に構わぬが。エイジは行かぬのか?」
「私達も行くの?」
事情をしらないクラマは俺も一緒にと言ってくる。キッカは予想外の組み合わせに驚いていた。
「キッカは知ってると思うけど、俺といると魔物と出会わないんだよ。それでキッカ達のレベルも上がらないわけなんだけど、キッカ達にはもっとレベルを上げてほしいんだよね。でも、キッカ達だけだと心配だからクラマに付いていってもらって、レベル上げをしたらどうかと思うんだよ。クラマがいれば安心だからね」
「なるほどね」と言って納得するキッカ。「当然じゃ」と胸をはるクラマ。
「それで、キッカ達のレベルが上がったら、次は子供達に協力してあげればいいんじゃない? ここの子達の中で冒険者ギルドに登録したいって子がいたら、同じようにレベル上げをしてあげれば、すぐに強くなると思うんだよ」
「うん、それいい考えだと思う。初めはクラマにお世話になっちゃうけど、早く強くなるように私も頑張るよ」
「あっしらも文句はありません。早く強くなりたいですからね」
「おいらも大賛成っす! 食材確保もできて強くなれるなんて最高っす!」
全員賛成してくれた。
ただ、クラマだけは少し愚痴を零した。
「#妾__わらわ__#だけ、得する事がないではないか」
損得でやるわけじゃないんだけど、確かにクラマには得する事が無いね。
「じゃあ、俺が武器を提供するよ。クラマの得意なものは薙刀なんだろ?」
「おお! 薙刀とな! もう最後の薙刀が壊れて久しいのじゃ。薙刀を貰えるとなればそれぐらいの事はやってやるぞえ」
「じゃあ、クラマには後で渡すよ。俺も畑の場所を確認したいし、一緒に出ようか。それと、院長先生、ミニーさんは食堂かな?」
「そうですね、今は食堂にいると思います」
他に必要なものがあったら言ってください。と言って食堂に向かった。
ミニーさんには、パンがいいのか小麦粉がいいのか聞いたら小麦粉がいいと答えた。
パンは作れるし、パンにしてしまうと日持ちがしないし、小麦粉で買う方が安いから小麦粉の方がいいと教えてくれた。
俺と同じ考えだったね。パンにして収納バッグに入れればいいんだけど、キッカに自重するように言われてるからね。
冷蔵庫まで作っておいて自重も無いけど、収納バッグは高いって皆が知ってるみたいだから、辞めておいたんだ。そのうち、本当に必要になったら渡すけどね。
そういえば、いつも衛星にパンを作ってもらってるけど、小麦粉はどうしてるんだろ。
試しに、木箱を作ってもらって小麦粉を出してもらった。
普通に木箱に満タンにしてくれたよ。
ミニーさんに聞いたら、これだけの小麦粉があれば二週間分はあるという。
三十キロぐらいあると思うんだけどね、人数が多いから二週間しか持たないんだろうな。
目の前で衛星に出してもらったけど、収納と勘違いしたみたい。
衛星は誰にも見えないからね。
食堂にいる間に、衛星に薙刀を作ってくれるようにお願いしておいた。
クラマが使うんだから、強い武器でないとすぐ壊れそうだったので、強く作ってくれって頼んだら、できた武器が強いというか、デカい薙刀を作ってくれた。
刃の部分だけで一メートル以上あるんだよ、全体の長さだと三メートルぐらいありそうだよ。
【鑑定】
―――岩融(大薙刀)
ATC:1000
発動技:大連撃
大連撃:一呼吸で連続攻撃をすると、一撃毎に与えるダメージが大きくなっていく。
デカくて重いから俺には持ち上げられなかったよ。クラマは簡単に持ち上げたけどね。
攻撃力1000って……武器だけで俺の100倍? ってか、大連撃ってこんな重くて長い武器でどうやって連続で攻撃するんだよ。
クラマの身長が155ぐらいだから、倍ぐらいあるんだぞ。
「エイジ!」
ほら怒られた。やっぱ無理なんだよ。
「この薙刀は最高じゃ! 今までのどの薙刀より#妾__わらわ__#にしっくり来るぞよ」
「へ?」
いいの? 褒められた?
確か、クラマの攻撃力は2000を超えてたし、この薙刀でも物足りないのかもしれないな。
それにクラマって魔法も使えたよな。俺が死んだと思ったやつ。こんなやつに勝てる衛星ってやっぱり凄いんだな。
その加護をもらってる俺がレベル1ってのが不満しかないけどね。
薙刀を渡した後は、ご機嫌のクラマを先頭に、やる気満々のキッカ、ケン、ヤスが後を付いて魔物討伐に出て行った。
クラマにはやりすぎるなと念を押しておいた。キッカ達のレベル上げがメインなんだと何度も念を押したが、新しい武器にテンションが上がり過ぎてて聞いてなかったかもしれないな。
ほどほどにね。
俺は土地の確認と畑だな。
ここも衛星頼りになるけど、俺にはそれしかないからね。
頼むよ、衛星さん!