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緊急会議の招集

 セラが起こしたラクスィ村でのミスリル騒動から半月が過ぎようとした頃、村から遠く離れたとある湖畔に建つ小さな教会に1つの荷物が届いた。

 とても頑丈に釘打ちされた木箱の送り主の欄にはトマスの名が書かれていた。

「こんな田舎の教会までわざわざご苦労様です、何か冷たいお飲み物でもお出ししますわ」

「そうですか、それは有難い! ここの教会のシスターから頂く水を飲むと、何故か必ず疲れが取れた気がするのですよ」

「まあ、口説き上手だこと。 奥様が居るのにそんな事を言ってはいけませんよ」

 その後配達人と軽く言葉を交わしてから、荷物を受け取り教会の中へ運ぶシスター。 教会の扉が閉じると、それまでの明るい顔からやや緊張した面持ちへと変わる。

「トマス様からこのような形で荷物が送られてくるとは…。 中にはとても重要な物が入っているに違いない、すぐにニナリス様にお届けせねば!」

 祭壇の隅に隠されている仕掛けを操作すると祭壇がゆっくりと横にずれ、地下へと下りる階段が現れた。

 ここはこの世界において全ての神への感謝の気持ちと苦難の道から救われる為の導きとなる全神教の総本部となっていた。 地上部分の小さな教会は周囲の目を誤魔化す為のダミーであり、祭壇の隠し階段を通る事で湖の底深くに在る幾重もの結界によって守られた総本部へと辿り着けるのだ。



 総本部の敷地は湖のほぼ全体と言っても過言では無い、その広大な敷地の半分以上は畑が占めていて湖の底で暮らす聖職者の食を支えている。 風を操るスキルを持つ者達が空気を入れ換え、光を操るスキルを持つ者数十名が交代でこの総本部と畑の太陽の代わりとなっていた。

 コンコンコン、コンコンコン!

「ニナリス様、お荷物が届いております」

 2回に分けて扉がノックされた。 これはノックの回数などで事の重要度を中に居る者に知らせる符丁で、もし何者かに脅されて案内させられたとしてもそれを使って逃げてもらう事が可能となる。

 ちなみにノック3回を2回繰り返すのは重要度Aランクを示していて【送り主または荷物の中身が無視出来ないもの】を表していた。 しかし今回のノックは結果的に間違いだった。 重要度的にはAどころか、世界中に影響を及ぼすSSランクに匹敵する内容だったからだ。

 ガチャッ 扉が開くと部屋の中から緑色の髪の女性が姿を見せた。 ストレートのロングヘアーで瞳の色も髪と同じ、そして目元や口元付近はどことなくリリアと良く似ていた。

「ご苦労様、それでこの荷物の送り主は誰なのかしら?」

「トマス主教様からです、早馬を使って届けられたので凄く重要な用件だと判断しました」

「あの人から? そうね、多分それで間違い無いと思うわ。折角だから中身を一緒に見てみましょう」

「そんな!? 大主教様と一緒に拝見するなど畏れ多い事です」

「あなたもここで上の地位を目指しているのであれば、いずれはこういう機会と巡り合う事も有るでしょう。 その際の予行練習だとでも思いなさい」

「はい!」

 リリアの父トマスは、主教という高い地位を隠してラクスィの村で暮らしていたのだ。 その理由は夫婦で教会内での地位と権力を独占しようとしていると要らぬ疑いを掛けられない為も有るが、娘のリリアが欲深い者達に利用されない様にする思惑も有った。



 慎重に木箱を開けるとまず1番上に手紙が置かれており、その下には上等な紙で巻かれた包み有った。 しかも更にその下にまで木箱が収められていた。

「たしかにこれは只事では無さそうですね、まずは手紙から見てみましょう」

 ニナリスが手紙を開くと、最初の紙には短く一言だけ書かれていた。

【まず包みの中を見ろ】

 書かれていた通りに包みを開くと、中には白く光り輝く様な布の反物が10本収められていた。

「綺麗な生地……初めて見るわ」

「その生地、何で出来ていると思う?」

 2枚目の手紙を読むニナリスの手は震えている。

「分かりません。 新しい絹の製法でもみつかったのでしょうか?」

「それ、ミスリルで出来ているそうよ」

 生地の正体を聞かされた瞬間、シスターは思わず飛び退いてしまった。

「ミスリル、これミスリルで出来ているのですか!? そんな馬鹿な!」

「ミスリルの糸を吐く蚕型のモンスターから作られた布だって。 あと木箱の中身も凄いみたいだわ」

 恐る恐る木箱を開けると、中には拳大のミスリルの塊がゴロゴロ入っている。

「ミスリルが鉱石の状態ではなく、こんな純粋な塊で存在しているのですか!?」

「ちなみにそれは巨大ミミズのフンだそうだから」

 反射的に手を放してしまうシスター、その所為でミスリルのフンが床に落ちてしまった。

「これをみんなスキルを覚えたばかりの10歳の女の子がやらかしたそうなのよ。 どこから問い質せば良いのかさっぱり分からないわ」

「我々の理解の範疇に収まりませんね、如何されますか?」

「あとこの女の子は称号まで手に入れているというの、済まないけど私1人の判断で決める事は出来ないから緊急会議を招集したいの。 至急総本部内に居る主教以上の人間を全て呼び出して頂戴、無論総大主教様もお呼びしてね」

「わ、分かりました!!」

 こうして、ニナリスの呼び掛けにより総本部にて緊急会議が行われる事となった。

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