ミスリルで溢れ返る村
「な、なあセラちゃん。 いきなりこんなモンスターを創ってどうするつもりなんだ?」
目の前ではワームがミスリルの糸を吐いている。 この糸を集めて売れば一生食うに困らないだけの金が入るかもしれない、そんな欲望に駆られそうになった猟師達はセラの目的を問い質した。
事と次第によっては村の中で争い事が起きる可能性だって有る、金の鉱脈を掘り当てた以上の騒ぎとなるだろう。
「ええと、この糸を使ってミスリルの布を作って売ればみんなの食事のオカズをもう1品増やす事も出来ないかと思って」
(1品どころの話じゃないです、下手すれば家を全員新築出来ます)
「でもセラ、この糸を誰が布にするの?」
「そこもしっかり考えてあるよリリア、我が願いに応え出でよ【機織りゴブリン(ウィーバーゴブリン)】・【仕立屋ゴブリン(ティラーゴブリン)】」
セラが新たに創り出した2種のゴブリン、機織りゴブリンの方は何故か手織機とセットになっておりワームの吐いた糸を手繰り寄せると誰からも指示されていないのに布を織り始めた。 そして透き通る様に光り輝く布が一反出来上がるとそれを今度は仕立屋ゴブリン(ティラーゴブリン)に手渡す。
「ギャギャ!」
仕立屋ゴブリン(ティラーゴブリン)は黒を基調としたスーツで身を固め、背筋をピンと伸ばしている。
そのスーツの内側にはハサミやメジャーなど仕立てに必要な道具が揃っているが、背筋を伸ばしスーツを着こなすゴブリンの姿はとてつもなくシュールだ。
「仕立屋ゴブリン(テイラーゴブリン)、リリアにフリルの一杯付いたワンピースを作ってあげて」
「ギャ!」
リリアの背後に回るとテキパキとメジャーで採寸を始める仕立屋ゴブリン(ティラーゴブリン)、サイズを測り終えると今度は希少なミスリルの布にワンピースのパーツの線を書き込むと迷い無くハサミを入れる。
そしてミスリルの糸を針に通し、パーツを縫い合わせていくとあっという間にリリアに体型にピッタリのワンピースが仕上がったのだった。
「ほら、リリア。 そこの木の陰に行って着替えて着替えて」
「えっちょっとセラ分かったから押さないで!」
何が起きているのか分からないままワンピースを受け取るとリリアは着替え始めた。
そして着替え終えて出てきたリリアは、どこかの国のお姫様と言われても信じそうになるくらいの気品と華やかさが溢れていた。
「良い、良いよ、凄く良い! リリアがまるでお姫様みたいに見える、だからそれは私からリリア姫へのプレゼントだよ」
「本当に良いの? でも何だか悪いよ」
「気にしなくたって平気だって、だってこれからは幾らでも作れるから。 リリアにぜひ着てもらいたい服が一杯♪」
予想以上の出来栄えだったのでセラが仕立屋ゴブリンに向けて親指を立てると、ゴブリンの方も満足気に笑みを浮かべて親指を立てて返す。
言葉が通じていない筈なのに何故か今後の衣装製作の意思疎通まで図れているようで何だか怖い…。
「リリア、トマス小父さんにその服を見せてきたらどう? きっと驚くと思うよ」
それは驚くだろう、全てミスリルで出来たワンピースなど現時点で世界にこの1着しか存在しないのだから…。
「そうしようかな、でもさっきまで着ていた服どうしよう?」
「それなら、私がいつも通り洗濯しておくから後で返しに行くよ」
「じゃあお願い、すぐに戻るから!」
リリアが走って見せに行こうとするのでセラがそれとなく制した。
「焦らなくても大丈夫だから、ゆっくりで良いからね」
セラは速攻で秘密基地に逃げ込むとリリア成分をたっぷりと補給してから、秘密基地を出て外に戻った。
「さっきミスリル繊維蚕を創ってみて気付いたけど、桑の葉をあげたり毎日世話をするの結構大変だよね。 今度は世話の必要も無くて村の役にも立つモンスターを創ってみようかしら?」
1人でブツブツ言いながら村の中を見て回るセラ、すると丁度村人の1人が畑を耕している所に出くわした。
「広い畑をああやって耕すのは大変なんだよな、何とかしてあげたいな」
(そういえば【怪物創造】は最初から鳥型モンスターを創る事が出来たけど、他にも創れるのが有るのかな?)
そんな事を考えたセラは、畑を代わりに耕すモンスター創り始めた。 勿論明後日の方向に向いたオマケ付きで…。
一方その頃、リリアもようやく教会に辿り着いていた。 父のトマスは日課の神への祈りを済ませ、午後のティータイムを楽しんでいた。
「父さ~ん、ねえこれ見て。 セラがね私にワンピースを1着プレゼントしてくれたの! ミスリルを糸にして吐くモンスターから作ったんだよ」
ブーッ!! トマスは飲んでいた紅茶を思わず吹いてしまう。
「父さん、行儀悪いよ」
「ゲホゲホッ! リリア、そ、その服が全てミスリルで出来ているだって!?」
「そうだよ、セラが糸を布にするゴブリンと服に仕立ててくれるゴブリンも一緒に創ってた」
トマスは鬼に様な形相でリリアの肩を掴んだ。
「リリア、今すぐセラ様の所まで案内するんだ! 急いで止めないととんでもない事になる」
「とんでもない事?」
「ああ……最悪は世界中の国の兵士達が、この村を目指して殺到するぞ」
父親の顔を見て流石に不安になってきたリリアは、トマスを連れてセラを探し始めた。
「セラ~!」
「セラ様~! どこに居られますか!?」
「セラちゃん、返事しとくれ~!」
村中を回る親娘の様子を見て何か起きたのだろうと、村人の一部もセラを探すのに協力してくれた。
「ト、トマス神父。 い、居た、セラちゃんは向こうの畑に居たよ!」
「畑? 畑でセラ様は一体何をされてましたか?」
「分からない、だけど畑に何か白く光り輝く物がゴロゴロ落ちていた」
「まずい、リリア急ぐぞ!」
「はい父さん!」
最悪の事態だけは防がなければならない、2人はセラが居たという畑を目指し駆け出していた。 そして畑に到着すると満足そうに頷くセラと、呆然とした顔で見ている村人の姿が有った。
「セ~ラ~!」
「リリア早かったね、あとトマス小父さんまで一緒にどうかしたの?」
「セ、セラ様? この畑にゴロゴロと落ちている物は一体何ですか?」
「リリアから多分話を聞いたと思うけどミスリルの糸だけだと服しか作れないから、畑を代わりに耕しながらミスリルまで作れるモンスターを試しに創ってみたの。 どうやら上手くいってるみたい」
トマスが畑を見ると、誰も居ない畑の地面の一部がボコボコと盛り上がりながらこちらに向かい移動してくる。 するとそこから現れたのは、体長2m近い巨大な白いミミズだった!
「ミスリルティラーワーム(ミスリル耕運ミミズ)。 硬くなった土を耕しながら身体の表面から肥料を分泌し、更に土の中に含まれる悪い成分を食べてそれをミスリルのフンの塊として出してくれるの」
ボトッ 言ってるそばからトマスの目の前で拳大のミスリルのフンをするミミズ。 ガックリと地面に両手を付いて項垂れながらトマスは、村を戦場にしない方法を何とか見つけようと思考する。
(この事が村の外に広まってしまえば、多くの国に目を付けられ争いの元となるのは必至。 我が国だけでなく、他の国からも迂闊に手出し出来ない様に庇護を得なければ!)
「セ、セラ様。 リリアにプレゼントしてくれた服と同じミスリルの布を、一反譲っていただく事は出来ませんか?」
「良いけど、何に使うの?」
「ああ、知っていると思うが私達父娘と母さんは今離れて暮らしている。 母さんにリリアと同じ布で出来た服を着せてあげたいと思ってね」
「それは良いアイデアですよトマス小父さん、それなら1着だけでなく何着も作れる様に10反位贈りましょうよ! 急いで用意させますね、行こうリリア」
リリアの手を掴んで走り去っていくセラ、心配そうに見つめる村人を落ち着かせる為にトマスは導き出された答えを明かした。
「我が国はもちろん他の国も迂闊に手出し出来ない集団、教会を味方に付けましょう。 この村を教会の庇護下に置く事で攻め入る事の出来ない聖地とするのです」
聖地も何も悪意を持って近づく連中は鳥のフンの爆撃で村に入る事すら出来ない事を、トマスはもちろん村人達もすっかり忘れていた。 日常の一部となった村の外での爆発音に慣れてしまった所為なのかもしれない・・・。