208 手作り至上主義?
「まぁよほど魔力が強い人が作らない限り、目に見えて差を感じるような品物はできませんけどね。そして、魔力が高い人間は、もっとお金になる仕事をすることが多く、職人になるようなことは少ないんですよ」
なるほど。
「まぁ、時にはユーリさんのそのペンダントのように、信じられないくらい強い魔力が宿る品もありますが……」
「あ、この呪いのペンダント……これ、作った人の魔力が強かったってこと?」
「どうなんでしょうか。娘を守りたい親の魔力が強かったのかもしれませんし……。魔力にプラスして防御の付与魔法もかなり強いようですから……。お金を積んで、魔力の強い彫金士に制作を依頼したのち、自分でも数か月身に着け魔力を流し込み、さらに付与魔法をかけた……といったところでしょうか」
子供を守るために、お金のある親ならそれくらいするよね。うん。
でも、強い魔力がなくても、それでも思いを込めれば……な、込めるのは魔力か……。でもきっと、思いなんだろうね。思い……。気持ちを込める。
気持ちを込めて一針一針縫ったものにはきっと……本当に力が加わるんだろう。
目に見えるような効果がなかったとしても。ただ、持っていると少しだけ心が温かくなるとか、それでも十分だよね?
うん。
気持ち込めます!
キリカちゃんのベストはもちろんだけど、これからは作るものすべて、もっと相手のこと思って気持ちを込めるよ。
あれ?
「手作りの方が、買い与えるよりも愛情が籠っていて、何でも親が手造りするべきって、変よね?」
行き過ぎれば、日本でも問題になっている手作りこそ愛情たっぷり。子供の食事を総菜や冷凍食品で済ませるのは悪いみたいなおかしなことにならない?
違うんだよね。
愛情の表現の仕方は人それぞれだし。
料理が下手な人間がまずい料理を作って、手作りだからと子供に食べさせ続けるのが愛情だとは思わない。
化学調味料はすべて悪いもの、自然食品しか食べさせないと、友達が食べている者をすべて食べさせないのも愛情だとは思わない。
そりゃ、食事は大切だ。栄養もちゃんと取らないと駄目だし、確かに取りすぎると体に悪いとされているものもいろいろある。
けれど、ホウレン草のシュウ酸。除去せず食べると結石になる。
トマトのトマチン。あまり知られていないけれど、未成熟の実を1キロも食べれば最悪死んでしまう。
怖いのは、レシピサイトを検索すると未成熟の青いトマトを使ったレシピがいくつか紹介されていることだ。
ああ、なんか思考がとんじゃった。そうじゃなくて……明らかに毒性があると分かっている物はたくさんあって、それでも影響のないレベルの食べ方が考案されているんだもん。
ほうれん草は下茹でをすれば大部分が除去できる。……完全に除去できないからといって、ホウレン草は体に悪いから食べちゃダメだという人は聞かない。
トマトだって、ちゃんと熟したものであれば食べすぎだと言われる量まで食べたりしない。トマトのトマチンが毒だからと食べない人も聞いたことがない。
有名なものは、ジャガイモの毒。芽は取らないとお腹痛くなるよというのは割と有名。
そう。食べ方に注意して、食べる量に注意して、そうして毒だと言われるもの、体に悪いと言われるものもいろいろ食べているんだもの。
添加物だけ目の敵にして、使っている人を愛情がないと非難する人の気持ちはよく分からない。
手作りのお菓子ばかり食べさせている人は、チョコレートもちゃんとカカオ豆から手作りしているのかな?あんな大変なこと毎回してる?
市販のチョコレート使ってたら、それは矛盾してるよね……なんて、ちょっと意地悪なこと考えちゃいましたよ。カカオ豆って、だって、すごくチョコレートにするの、大変だもの!あ、そもそもそこまで子供のこと考えていたらチョコレートは食べさせてないかな?
それはそれで……子供がかわいそうな気がするんだけどなぁ。愛情という名の、牢獄……とまでは言わないけど。
「ふふ、ユーリさんは面白いことを言いますね。愛情はその人のことを思っていればどれも同じだけ籠るでしょう?」
「そうなのよ!お花をプレゼントしたくてもお花を自分で育てなくちゃいけないとあげられないのよ!」
「あ、本当だ!自分で育てた花はなかなかプレゼントできないね」
「それに、先祖代々家に伝わるものって、たいていは親が作ったもんじゃないぞ?それでも親が子に愛情を持って手渡していくんだろ?」
「本当だ!カーツ君もキリカちゃんの言う通りだ!愛情は手作りじゃなくてもしっかり伝わる!」
キリカちゃんが急に腰にぎゅーっと抱き着いてきた。
「あのね、何もいらないのよ。手作りでも手作りじゃなくても、愛情は……物じゃないのよ」
あ。
そうだ。
脳裏に、あの女……旦那の浮気相手の……愛しい子供たちの母親の姿が浮かぶ。
働くために子供を私に預けていた。
シングルマザーで働いて二人の子供を育てるのはとても大変なことだろう。家に帰ったら子供の世話がある。仕事はフルタイムで週に1度は最低でも残業があるような仕事だ。
疲れているだろう。
それでも……。
子供たちを迎えに来ると、必ず笑顔だった。
玄関まで走っていった子供を両手を広げて迎え、ぎゅーっと。
幸せそうに抱きしめていた。
そう。
彼女の子供たちへの愛情は本物だった。
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はーい。やっと出せた。
そう、あの女のこと。
あ、いい人なんで、子供達のことは心配しないでください。
色々感想欄でご心配をおかけしていましたが……。
はい。
この設定が出せてホッとした。
あ、でも寝取りは許せないと言う人、もうちょっと……いや、まだだいぶ先になりますが待ってね。
色々事情てんこ盛りです。