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「ユーリさんはどうしますか?」
そうだ。今日はお金を持っている。報奨金として現金でもらったものを少し持っている。
前回の買い物では、ローファスさんのカードでの買い物で、料理に関係するものという制限がついていたから武器が買えなかったんだ。
やっぱり、いざという時のためにナイフくらいは持ったほうがいいのかな……?
「あのね、ユーリお姉ちゃんね、すごい武器持ってるんだよ!」
「そうそう。泡立て器って名前だったよな?あれすげー」
キリカちゃんとカーツ君の言葉に、ブライス君が目を丸くする。
「二人がすごいというからには、よほどの武器なんですね。あの包丁以上のものが?」
違う。
包丁も武器じゃないし……それでも、まぁ、刃物という点では武器になることもないこともない……けれど。
泡だて器は、絶対に武器じゃないです。
……泡だて鬼(なんだか大きくなって刃物が付いた物騒なやつ)……に変化するだけの、調理器具です。武器じゃないのです。刃物じゃないのです。鈍器にもならない代物です。
うん。
話題、変えよう。
「そういえば、ブライス君はどんな武器を使っているの?魔法以外に何か持ってるの?」
ブライス君が剣を振り回していたイメージはない。
ポーション畑で、スリッパみたいな形のゴキスラ用武器を振り回していた姿しか見覚えがない。
あ、解体にナイフは使っていたから、ナイフは持っているのかな?
と思ったら、ブライス君が腰にぶら下げた皮の袋からナイフを取り出して見せてくれた。
あれ?キリカちゃんは腰ベルトから直接ナイフを引き出せるように持っているけれど、ブライス君は袋の中にしまってあるの?とっさの時に出しにくいよね?
「あれ?ブライス兄ちゃん、これ小屋にいた時から使ってるナイフだろう?武器買ってないのか?」
「小屋で使っていた時とは違いますよ。まだ、練習中なので今いちですが」
ブライス君がナイフを少しだけ振ると、小さい火がふっと現れ、パッと消えた。
「うわー、火の付与魔法なの?」
ブライス君が頷く。
「付与魔法の練習をしているところです。今は火魔法しか付与できていません。鞘から抜いて振れば火が付きます」
うわぁ便利!それ、もしかしてマッチやライターの代わりになるんじゃない?
「対象相手に接触したときだけ火魔法の効果が発動するような制限を加えたいんですが、今の実力じゃちょっとむつかしいんですよね」
え?
それって、えーっと、ハンノマさんの包丁みたいなやつ?あれって、付与魔法付きだったってこと?
「そっか!ブライス兄ちゃん魔法が得意だから、自分で武器に付与魔法かけられるのか!すげーな!」
すげーなと言ってはいるけれど、俺の剣にも付与魔法かけてくれとはカーツ君は言わない。
仲がいいからと当たりまでに誰かに何かを要求することは、ダンジョンルールの助けを求めない話と同じなのかもしれない。
「もう少しうまくなったら、カーツの短剣で付与魔法の練習をさせてくれると嬉しいな」
と思えば、ブライス君がカーツ君に頼みごとをしていまする。
ううん、違う。これは頼みいじゃない。
うまくなったら……練習じゃない。練習という名目で、カーツ君の短剣に付与魔法をかけてあげようとしているんだ。
そうだよね?
「いいのか?ブライス兄ちゃん……あ、いや、ダメだよ、俺、ちゃんと金貯めて、それで、付与魔法をお願いするよ!」
カーツ君にもブライス君の気持ちはすぐに伝わったようだ。
「いや、本当に練習だよ。カーツ君の短剣はハンノマさんの作ったものだろう?剣の質が上がれば上がるほど、付与魔法はむつかしくなるんだ。作った人の魔力にはじかれるからね。だから、何年先になるか分からないし、何度も魔法をかけ直さないと定着しないかもしれない」
作った人の魔力?
もしかして、ハンノマさんの包丁にはハンノマさんの魔力が宿っているっていうこと?
泡だて器にはバンさんの魔力が?
あれ?
って言うことは……。
「武器だけじゃなくて、盾とか防具とかにも作った人の魔力が宿るの?」
「そうですね、多かれ少なかれ、人の手で作られたものは作り手の魔力が宿りますよ。とはいえ、MPが少ないと宿る魔力も小さいですし、思いを込めなければ、魔力も流れませんけれどね」
キリカちゃんのベストを見る。
まだ手直しをしてあげてないけれど……。
「キリカちゃんのママの思いが詰まったベスト……。私が手を加えても大丈夫?」
しゃがんでキリカちゃんの目の高さに合わせて、まっすぐに見る。
「大丈夫なのよ。あのね、キリカのママとユーリお姉ちゃんと、二人の魔力が宿るベストになるんでしょう?」
ふと、千人針を思い出した。
戦争に出かける男性のために作ったお守りだ。手ぬぐいに、千人の女性に一針さして結びめを作ってもらって作るものだ。
日本には魔力なんてなかった。だけど、思いを込めると、その思いが何かの魔法として……キリカちゃんを守ってくれるなら。
めいっぱい思いを込めて作ろう。うん。
「ところで、その作り手で込められた魔力って、何か効果あるの?」
「家具とかなら壊れにくくなるとか、服なら汚れにくくなるとか……」
へぇ。どれも便利だなぁ。
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料理も、おいしくなーれと気持ちを込めると言いますし。
ん?もしかして、何かその辺に秘密が?
……あ、ネタバレじゃないよ。ふと今思っただけ。
そう。自分の小説に、ふと思ったことをつけ足したり、付け足さなかったり。
そんな感じで書いてます。
書かないだけで、実は……と後で出すこともあるし、こういう裏設定でこうなってるけど、わざわざ裏設定をダラダラ書く必要もないから書かないこともある。
でもって、時々「書いたつもり」になって、実は書いてないこともある……。
それから、時々「書いたこと」を忘れてしまうこともある……。
(´◉◞౪◟◉)ま、ゆるゆると。