197 対決!
「ふん、まだお前には負けんぞ、ローファス」
「はっ。それはどうかな?親父もそろそろ引退を考える年齢じゃないのか?」
あ、二人が腕相撲を始めました。
うん、確かローファスさんとサーガさんも腕相撲してたし。仲良し親子だ。
この家庭はそういう感じなんですね。
「やるか?」
「表に出――」
「ほら、力が余ってるでしょう?」
リリアンヌ様がいつの間にか誰かにすっかりチョコレートを作るための材料を運ばせていた。
うわー、砂糖もたっぷりです。
「さぁ、勝負なら、どちらが上手に作れるかでしていただきましょう。いいですわよね?あなた、ローファス」
氷の微笑。うん、逆らっちゃダメな笑顔だ。
「なんだこれは、料理じゃないのか?薬でも作るのか?」
シャルムさんが首を傾げる。
基本は薬を作るのと変わりませんけどね。そもそもカカオ豆は昔は薬として用いられていたそうなんで。
乳鉢や乳棒に薬研。まるっきり調理器具には見えませんね。それから湯煎する代わりに使う火の魔法石。砂糖とカカオ豆。
それから、カカオバターも今回はあります!
「さぁ、ユーリちゃん、二人に作り方を教えてあげて。あ、紙にメモして渡しておけばいいかしら。私たちは先に休みましょう。朝起きたら、美味しいチョコレートが食べられるわよ」
えっと、いいんでしょうか?
「いや、母上、ちょっと、なんで俺が……」
そうですよね。久しぶりに実家に顔を出したらチョコレートを作れとか。なんで?ですよね……。
「牢の見張りの人はユーリ姉ちゃんに作り方聞いただけで上手に作ってたよな」
「そうなのー。とっても優しい人だったの」
にこっとキリカちゃんが笑う。
「ええ、そうですわね。私たちは、彼にとてもお世話になりました。まさか、二人は、彼よりも私たちの世話をしたくないとおっしゃったりはしませんわね?彼よりも上手にチョコレートを作れば、二人とも男が上がりますわよ?」
リリアンヌ様が、カカオ豆をローファスさんとシャルムさんの手に握らせる。
「お、おお、そうだな。うん、男は、力仕事を任せられて嫌だというようじゃ男じゃない」
シャルムさんがカカオ豆を薬研で砕き始めた。
「おやじには負けないからな!」
と、ローファスさんが我に返ってカカオ豆を砕き始める。
「はぁー、これで明日にはチョコレートがたっぷり食べられますわ!うふふふ。楽しみね」
リリアンヌ様のほほが紅潮している。
うん。これ、もしかして、男を手のひらで転がすというやつなのでは……。
す、すごい。美人だし、スタイル抜群だし、めちゃめちゃ若く見えるし、優しい上に、男を手のひらで転がす話術まで持っているなんて……。
師匠と呼びたいです。あ、でも師事しても肉体改造は無理かな……。もう、成長期すぎちゃってるし……。
「じゃぁ、作り方だけメモして寝ましょう。あ、口頭で構わないわよ。ロッテンマイン、お願い」
ロッテンマイン?
「はい。奥様、かしこまりました」
うわーい。
眼鏡をかけてグレーの髪を後ろで一つに束ねた60前後のメイド頭っぽい方が出てきました。
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ロッテンマイン?
どこかで似たような名前を聞いた気が……う、あ、頭が……。
というわけで、チョコレート対決です!
まさかの筋肉の使い方。
いや、本当、体力勝負なんだよ、チョコレート作るの。ひたすら何時間もすりつぶすんだよ?腕もげるよ?
……ま、作ったことないんだけどね。
作った人のレポ見て、かかる時間見たら、想像して悶絶する程度には大変よ?
なんせ、油分が邪魔して電動ミキサーやミルサーが使えないそうなんで。
大変そうでしょ?
でも、そんなあなたにも、一家に一人脳筋がいれば解決!
いかがですか、今なら嫁探し中脳筋が
……いえ、何でもありません。解決、しません。
むしろ、素直に市販のチョコレート買ってください。