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「そうよ、あなた!ローファスの言う通り!ユーリちゃんの料理は、えっと、なんて言うかすごいの!」
リリアンヌ様もこちらを見た。
……やっぱり、補正値の話?
リリアンヌ様も何日かダンジョンで生活をともにしたためポーション料理のことは知っている。ちゃんと契約もしてもらった。
だから、内緒って契約してあるから二人ともそれ以上は言いたくても言えないらしい。
「あのね、ローファスさん、牢屋でね、いいもの見つけたのよ!」
そうそう、ダンジョンっていうのは牢屋だったりもしたんだよね……。
誘拐されて、牢屋に入れられたと思ったら、そこはダンジョンでしたという……。
「は?牢屋?キリカ、お前、牢屋に入れられたのか?」
「ああ、そう。4人で牢屋で2、3日過ごしたよな」
カーツ君の言葉にローファスさんとシャルム様が目を吊り上げる。
あ、流石親子。似てるかも。
「リリアンヌを牢屋に入れただと!」
「ユーリを牢屋に入れただと!」
って、ユニゾンユニゾン。言葉が重なってますけど。でもって、ローファスさんとシャルム様が顔を見合わせた。
「「生かしておけぬ」」
がしっと強く腕を握り締めあう二人。
ま、待て!待て!
止めて!リリアンヌ様、止めて!
「あー、牢屋生活が懐かしいですわ。あれも、これも、美味しかった。何度となく気を失ってしまいましたわ」
リリアンヌ様……。
「あのね、キリカもね、いっぱいポーションとれて嬉しかったのよ」
「そうだな、カカオ豆、めっちゃうまかったし。あの牢屋に入れてラッキーだったよな!」
3人の言葉に同意せざるを得ない。
そして、思わず私も言葉が漏れた。
「本当ね。カカオ豆が手に入っただけじゃなくって、貿易が始まったら海産物も手に入るようになるなんて、嬉しすぎます」
海産物が手に入る!
この嬉しさだけは、まだみんな分からないだろうなぁ。昆布が手に入ったら出汁が取れる。海苔が手に入ったら、そうだ、きゅうりでかっぱ巻きも作れる。
きょとーん。
ええ、なんていうか、きょとーんっていう言葉でしか表現できない顔を、ローファスさんとシャルム様がしていますよ。
「牢屋生活が懐かしい?」
「牢屋に入れてラッキー?嬉しい?」
えーっと、説明すると長くなりますが……。
「そうだ、ユーリ姉ちゃん、カカオ豆で作ったあれ、ローファスさんに食べさせてあげたらいいんじゃない?」
え?
「なんだ、カカオ豆で作ったあれとは?そもそもカカオ豆って何だ?」
ローファスさんの目に光が。
「えっと、ローファスさんは甘いものそんなに好きじゃないですよね?」
説明するのは長くかかるけれど、チョコレートをカカオ豆から作るのはもっと時間がかかる。
それに、結構力仕事。ハードモードだ。お風呂にもすでに入ったことだし、今日はこのままくつろぎたい気持ちなのです。
「いや、嫌いじゃないぞ?と言うかむしろ、ユーリが作った物だったら、何でも好きだ」
にこりと笑われても、ううう。
「ん?ローファス、お前……」
シャルム様が小さな声を上げる。
「分かりますわ、分かりますわ!ユーリちゃんが作った料理は本当にどれもおいしかったですもの」
リリアンヌ様の言葉に、シャルム様がそういうことなのか?とつぶやいています。
「あのね、カカオ豆つぶすの大変なのよ。だからね、牢屋にいるときは見張りの兵が手伝ってくれたの」
「そうそう、ユーリ姉ちゃんが作ったわけじゃなくても同じようにおいしかったぞ?」
と、キリカちゃんとカーツくん。
「そうね、作るのはとても大変そうでしたわね?何時間もかかっていましたし……見張りの兵が手伝ってくれて助かりましたでしょう?」
ほっ。
よかった。今からチョコレート作れという話は回避できそうです。
「ちょうど力の有り余っている人間が2人いますし、作ってもらいましょう」
にこっとリリアンヌ様がほほ笑む。
力の余っている人間?
「まさかリリアンヌ、私とローファスのことじゃ……」
「あら、将軍とS級冒険者、ここは戦場でも訓練場でもありませんし、力は余っていますわよね?」
へ?
「すげー、将軍って、将軍って、軍で一番偉い人だよな!」
やっぱり、その将軍?
「すごいの。おじちゃま、国で一番強い人なの!」
キリカちゃんの言葉に、シャルムがでれた。
「そうだぞ。私は国で一番強い人間だ」
「違うぞ、キリカ!国一番は俺だ!」
ローファスさんがキリカちゃんに突っ込みを入れる。